キミとの恋は舞い落ちる桜のようだった。
「紗良、別れよう」「な、んで?」 喉が詰まって上手く声が出せない。今までのことが脳をフラッシュバックする。その度に胸が張り裂けそうなほどに痛くなる。 「なんでって。気づかなかった?俺が本気でお前のこと好きだったわけねえじゃん。」 クックックと笑いを堪えようともしない夢斗君に怒る気力も湧かない。ただ悲しくて、苦しくて、何も考えられなくなる。 夢斗君の影が私の視界から消えた瞬間、私は膝から崩れ落ちた。 「う、うわぁ。」 声をあげて泣いたのはいつぶりだろう。熱い涙が次から次へとほおを伝って、地面へと滴り落ちる。今までのデート。甘い言葉。胸がドキドキしたこと全てが嘘だったことに絶望する。止めようにも止まらない。まるで決壊したダムみたい。 「紗良?紗良どうしたの?」「あ、葵ぃ。」 現れた親友の姿に胸が少し軽くなる。子供の様に泣きじゃくる私の隣に、葵は何も聞かずにただ、いてくれる。ひとしきり泣き止んだところで私は、今起きたことを葵に話した。途中で泣きそうになった私の背中を葵は撫でながら聞いてくれた。 怒るわけでもなく、面白がるわけでもなく、「そっか」と、一言。太陽のように暖かい親友の存在にまた涙腺が緩む。 「紗良、帰ろっか。」 時計を見ると、もう六時を回っていた。いくら夏だと言っても、そろそろ暗くなる時間だ。 「葵。ありがとう。」 仰いだ空は、いつもより深い様な気がした。 次の日、学校に行くとくらとく……燈宮君は学校に来ていなかった。流石に気まずいのだろうかと思ったが、次の日も、その次の日も来ない。流石に休みすぎじゃないかと思い始めた頃、葵から大ニューズが入った。 「紗良、夢斗引っ越したって!」 ああ。だからその前にネタバラシをして楽しもうと思ったのか……。「そ、うなんだぁ。」 葵を見上げると、なぜか泣きそうな顔をしていた。でも、それも一瞬のことですぐにいつもの向日葵の様な笑顔になる。 「葵どうし……」「よかったね。紗良!」「う、うん。」 葵の気迫に押されて思わず頷く。でも、正直、燈宮君の顔を見なくて済むのは私も嬉しい。 あれから1ヶ月が経った。燈宮君には、会うこともなく、何事もなかった。でも、その時の私にはわからなかった。これが嵐の前の平穏だと言うことが。 「紗良っ」家で宿題をしていると、突然葵がやってきた。「葵どうしたの?」「く、夢斗が、事故で」クラトと言う単語に体がビクッと言う反応をする。そんな私を見て、葵はなぜか泣き出した。「紗良。夢斗のことは嫌わないであげて。アイツ変なとこで真面目なんだよ。」そう言って葵は手紙をポケットから取り出した。 「紗良へ。まず、嘘ついてごめん。俺は、本当に紗良の事が好きだった。付き合えて幸せだった。許してほしいとは思わないけど、本当にごめん。」 「葵、これ何?」「分かんない?アイツほんとに不器用だな。夢斗は、紗良のことが好きだったの!でも、病気になっちゃって余命が半年だから「これじゃ紗良を守れない」って自分を悪役に仕立て上げたんだよ!」 え、じゃあ。私は壮大な勘違いをしていたの?本当は優しい彼を、自分の勘違いで勝手に傷ついて、勝手に会いたくないって思って。悔しさで胸がキュッと痛む。 「紗良、今度お墓参り行こう。」「うん。」 私は、夢斗を忘れない。夢斗の悲しみも、苦しさも全部背負って生きていく。私は未来へ一歩踏み出した。 「葵!こっち!」 親友に手を振る。今日は高校の始学式。無事、第一志望に受かりました!葵ってああ見えて頭がいいんだよね……。 「紗良!今日絶対いいことあるから!」 いつも元気な葵が今日はいつにも増して明るい。なにかあったのだろうか?自分の席を探して座る。葵とも同じクラスなんだよね。チャイムが鳴ったところで、誰かが教室に入って来た。 「寝坊しました!」 どっと教室が笑いで包まれる。でも、私はなぜか泣いていた。なぜなら、彼はもう会えないはずの人だったから。 「夢斗……君?」 思わず彼の名前を呟く。彼は私の席に近づくと深く頭を下げた。 「ごめん!あんなこと言って。嘘だったとして……。」 彼が全て言い終わらないうちにぎゅっと抱きしめる。 「生きてて……よかった。」 ん?視線を感じる……。あ、ここ、教室だった……。周りを見渡すとみんなニヤニヤしている。急に恥ずかしくなって顔がボッと熱くなる。 「照れてる紗良可愛い!」「くらとのばかぁ。」 窓の外には暖かい春風と、満開の桜が咲き乱れていた。