四月の桜は風で舞う
新学期。4月は暖かい季節といえどまだ少し肌寒いし、校庭に植えられた桜の木の花はまだ咲いていない。 「もう三年か」「早いよねー」「同じクラスだといいね」「出席番号ぞろ目だといいなあ」 昇降口に貼られたクラス表から自分の名前を探しながら、大勢の同級生が集まって話している。 「あ!優希おはよう」 話しかけてきたのは去年同じクラスだった佐伯あいだった。ポニーテールに結んだ髪を揺らしながらこちらに歩いて くる。 「佐伯おはよう」 「もうクラス表見た?私と優希また同じクラスだったよ。3年5組。優希は29番だって」 「あ、そうなんだ。ありがとう」 「でもさ、あいつも同じクラスなんだよね」 「え?あいつって?」 靴を履き替えながら聞いた。佐伯が言っているあいつって誰? 「皆川だよ。不登校の。私同じ小学校だったんだよね」 「へえ、その子が同じクラスだと何が嫌なの?」 「だって皆川がいないと隣の席の子が一人で日直やらなきゃだし、クラスの人数が奇数になるから二人組組む時とか厄介じゃん。しかもあいつ金持ちのお嬢で親が甘いからどうせサボりだし」 「ふうん」 正直それだけ?と思った。俺には関係ないことだから別にいいけど。 そんな話をしてるうちに教室についた。 隣の席は誰だろうと思い、隣の椅子に貼ってある名前のシールを見ると、皆川と書いてあった。 あれ皆川って佐伯が言っていた子かな。 「え、あれ誰?」「超可愛いし」「肌白っ」 男子がこそこそ話す声が聞こえてきた。 教室の扉の方を見ると見たことない女子がいた。 その女子は教室をきょろきょろ見回すと俺の隣の席にちょこんと座った。 どうやらこの女子が不登校だった皆川さんらしい。 佐伯が言うには金持ちのお嬢様らしいが確かに一挙一動に品があり身なりも清潔感があるしシャンプーのいい香りが する。 キーンコーンカーンコーン 「はい皆さん席について」 予鈴が鳴ったのと同時に先生が入ってきた。 「―ということで一人ずつ自己紹介をしてください」 「16番、佐伯あいです。テニス部です。一年間よろしく!」 「―はい次は24番」 「…に、24番の皆川舞菜です。一年間よろしくお願いします…。」 ―今日は新学期に入ってから4日経った金曜日。 皆川さんは新学期に入ってから毎日教室に来ている。でも先生以外と話しているところはあまり見かけないし友達も特にできていないみたいだった。 昼休みはみんな校庭でサッカーやバスケをしたり友達と話したりして過ごすが、皆川さんはいつも桜色のブックカバーで包まれた本を読んで過ごしている。 「じゃあ優希、私これ先生に渡して来るからあんたは遊びに行ってもいいよ」 「おーう、ありがと」 俺は運悪く副学級委員長を押し付けられたせいでさっきまで学級委員長の佐伯と昼休みに先生の手伝いをしていた。 佐伯が教室から出ていくと本を読んでいる皆川さんと二人きりになってしまった。 少し気まずいし教室を出ようかとも思ったが、休み時間はもう5分くらいしか残っていないし、次の授業の準備をすることにした。 ロッカーから教科書を出して自分の席に向かう。 物音ひとつしない空間は居心地が悪くて、たまらず皆川さんに話しかけた。 「皆川さん、何の本を読んでるの?」 そう言った瞬間、静寂だった空間がさらに静寂になった気がした。 急に話しかけて迷惑だったかも。本読んでるのに邪魔しちゃったな。 「…ホラー小説です。」 「へえ、怖い話好きなんだ。それはどういう話なの?」 「えっと、これは短編小説で色んなお話が入っているんです。」 「そうなんだ。何かおすすめの小説ってある?」 「はい。例えば―。」 そういえば皆川さんと話すのって初めてだな。クールで大人しい印象だったけどこんなふうに活き活きと話すんだ。 教室の開いている窓から桜の花びらが風で舞い込んできた。 「そういえば、もうだいぶ暖かくなってきましたね。」 「うん、校庭の桜も咲いてきたね。」