【この小説は、もし愛知県で南海トラフが起こったら…ということを仮定して書きました。実際にこうなるかはわかりません。ご了承ください】
「ほら、一樹早く帰るよー!」
春陽が自転車にまたがったまま僕に手を振る。
僕は急いでペダルを踏む。
「もー、一樹はのんびり屋さんだなあ」
そういって頬を膨らませた後、彼女はプッと吹き出す。
僕たちは自転車をこぎだした。
僕と春陽は一年前ー…中1の夏、付き合い始めた。
あまり口数の少ない僕に対して、よくしゃべる春陽。
共通点の少ない僕らだけど、何故か惹かれあっていた。
こんなに異性を愛したのは初めてだった。
春陽の全てが愛しかった。
毎日海沿いの道を二人で並んで走った。
その日は、いつも通り蝉の鳴く、よく晴れた夏の日だった。
僕は家で英語の問題を解いていた。
春陽はその瞬間、何をしていたのだろう。
ガタン!
突然激しい揺れに襲われた。
僕は椅子からずり落ち、とっさに机の下に隠れた。
本棚が倒れ、教科書が雪崩のように落ちる。
蛍光灯が落ち、飛んできた家具で窓が割れた。
どれだけ時間が経ったのだろう。
僕は割れたガラスに気を付けながら家を飛び出した。
外は破滅的という言葉がぴったりの有様だった。
ブロック塀が崩れ、折れた標識。
あたりは避難をする人で溢れていた。
「一樹君!」
近所のお姉さんだった。
僕はその人に連れられて避難所へ走った。
その途中、僕は見た。
遠くで、真っ黒で大きな波がうずいているのを…。
必死で必死で走った。
僕は避難所で命を守り切った。
家族にも再開した。
でも、春陽の姿はみあたらなかった。
他の避難所に行ったのだろうか…。
僕は電気のつかない真っ暗な避難所で眠りについた。
ふと、目が醒めた。
窓から見える空はまだ真っ暗だった。
僕は静かに、外へ出た。
「わあ…。」
僕は夜空に広がる満天の星に目を見張った。
こんな綺麗な星空は初めて見た。
街の光が消えた今、この数えきれないくらいの星が僕を照らしてくれた。
この星を、春陽もどこかで眺めているのだろうか。
そんなことを考えながら僕は空を見上げていた。
この日の出来事を『南海トラフ巨大地震』ということ。
そして、春陽がこの日に星になってしまったこと。
これらの事を僕が知ったのは、それからしばらくした頃だった。