あの雪が溶けたら、私は。
早川渚(はやかわなぎさ)は重い病気にかかっていた。早期発見ですぐに治すことができたのだが、渚の家はずいぶん貧乏なのでできなかったらしい。 「渚?意識ある?」 「あるよ!まだ!」 渚の親友の遅村眞白(おそむらましろ)はお見舞いに来ていた。 病院の部屋は、真っ白だ。余計なものがないので、ちょっとすっきり、広く見える。渚が横になっているベッドの少し上には窓がある。大きな木がある。よくある、1シーンだ。 「あの雪が溶けたら、私は」 「渚…」 「えへへ。いっぺん言いたかったんだ。葉っぱが落ちたら、とかも言ってみたかったけどね」 「そう言って、小説では生き返るけどね」 渚の病は、冗談抜きで生き返る見込みがなかった。 「あはは。あたしらしくないけどね」 「渚」 「眞白、大丈夫だよ」 「ねえ」 「あはは!」 ゆっくりと、ゆっくりと、渚の話のはやさは遅くなり、口やお腹の動きはなくなっていった。 最期は、笑ってた。 どさっ。雪が落ちた。 「早川さん、手術…」 眞白は、思いっきり泣いた。 「笑った方がいい?」 眞白は、親友のお墓の前でたずねた。