その声は
「きみ宛に手紙が届いているよ」 日曜の起き抜けに、兄貴がそう言って手紙を渡してきた。シンプルな封筒を開けると、これまたシンプルな便箋が顔を覗かせた。二つ折りを開けば、小柄な文字が並んでいるのが見える。 『前略』 律儀な奴だと思った。今時の高校生が挨拶の略なんぞ、いちいち書かずとも憤慨どころか、気を悪くすらしないだろうに。 『まずは手紙でのご報告になったことをお詫びします』 何の報告なのか。そう目線を滑らすが、書かれているのは思い出ばかりだった。 『そして、ごめんなさい。告白なんて、間違っていた。今なら分かります』 「……!」 たった一週間前。いつものように下校しようとしていると引く手があった。連れていかれたのは校舎裏。常に隣にいた幼馴染のバックに、何か恐ろしいものが存在したのかと震えた。身構えていたところで言われたのは、たどたどしい四文字と九文字。突然の告白だった。驚きのあまり固まっていると、あいつはごめんと言って走り去っていった。それから登下校はバラバラのまま一週間ほどが経ったのが今だ。 『焦らしてごめんなさい。報告です。今日、日曜日をもちまして、引っ越します。列車に乗って行きます。仕方のない都合です。場所は山の方です、海はありません。好きになってごめんなさい。愛しいひと、さようなら』 便箋を持つ手が震える。キッチンから戻ってきた兄貴の問いかけにも耳すら貸さず家を飛び出した。息が切れるのさえ無視して、兎に角走る。 田舎の無人駅。二、三度都会で見たようなバスターミナルなんてない。二時間に一本の電車はもうすぐ出る頃のはずだ。 息を整えながら必死に歩いていると、視界の端に影を捉えた。残った僅かな体力を絞り出して、左へ九十度。改札を通ったその後ろ姿は、紛れもなくあいつだった。他に人の気配は全くない。 伸ばした手は虚を掴んだ。あいつは気付かないまま、停止している電車へ歩みを進めている。 「っ、」 あいつの名前を、自慢の大声で呼ぶ。叫んでいるのに近かった。それでも、届かなかった。届く訳はないのだ。分かりきっていたはずの現実に打ちひしがれ、座り込む。 ドアが閉まっていく。発車のベルが、あまりにも無情に響いた。