あの人のせいで。
今なぜ僕はここにいるのだろう。 ふとした瞬間いつもそう思う。 早く死んでしまえばよかった。 どちらにせよ僕がこの世界の真ん中で深く 生きたいと望むことはないのだ。 さっさと死んでしまおう。 僕は屋上の階段へと一歩ずつ足を踏み出した。 一段一段上がるごとに心臓は今にも破裂しそうなくらい「ドク」「ドク」と音を立てた。はやく、はやく。 屋上へ着く頃には僕の緊張も無くなっていた。 軽く深呼吸をする。 もう、死んでしまおう。 早くこんな薄汚い世界から抜け出してしまおう。 僕は長年使われてこなかった趣のあるフェンスへと手を伸ばした。 足をかけ、そこから飛び降りる準備をする。僕の鼓動は速まる。 はやくおりないと。 早く。 早く。 数分間己との葛藤を繰り広げていたにもかかわらず、結局、僕は降りることが出来ずに、いつの間にかフェンスの後ろへと戻っていた。 体は全身震えがひどく、なかなかおさまらなかった。 「どうして……」 まただ。 また死ねなかった。 目から自然と涙が溢れた。 どうして。 どうしてだよ。 僕を死へと結びつけてくれないのはなぜだ。どうして。 どうしてなんだよ。 僕はフェンスを、拳で力いっぱい殴った。 指の隙間からは、まるで絵の具みたいな真っ赤な血が流れている。 なんでだよ。 なんで……。 不思議なことに、何故か痛みは感じなかった。 くそ…………。 「大丈夫だよ、きっと。石黒くんは強いから。」 「…はっ」 彼女の声が 耳へはっきり、透き通るように聞こえた。 大きくぱっちりとした二重、薄く平べったい唇、すらっとしたまるでモデルのような体型をした"あの人"のことを思い出した。 そうだ、こうなったのも全部、あの人のせいだ。 僕を死にたくないという気持ちにさせたのも。 まだここにいたいと思わせたのも。 全部全部。