勇者のいないこの世界で
「ご苦労だった。約束通り身分はもとに戻しておこう、いや、前よりも良い待遇にしてもよいぞ。どうだ、幹部には興味ないか。」 「俺、いや、私には恐れ多い提案でございます、魔王様。」 小さい頃から魔力もあまりない、才能もない俺は家からも周りの人たちからも目の上の腫物同然の扱いを受けてきた。魔界唯一といっても過言ではない人間の家系だから尚更だ。俺は俺なりに頑張ってきたというのに。 さらにその上、14の時。俺とは違って才能のある幼馴染に、お前にはこの姿がお似合いだと「醜い化物になる呪い」をかけられてからは家族からも見放され破門。一人路上いや、森での生活だった。唯一得意だった弓矢を使って何とか今まで食いつないできた。こうも報われないともういっそのことこの世とオサラバしてしまおうか、そう思ったがそれを呪いは許してくれなかった。死にたくても死ねなかった。そしてある噂を聞いた。 「勇者が現れた」「魔王様を倒そうとしている奴がいるらしい」 俺はすぐさま魔王様に言った。 「俺がそいつの首をとってきます。それができたら…俺に居場所をください。」 「やめておけ。その姿じゃ何もできないであろう、何ができる、弓矢では仕留められるはずがないだろう。寝床などは支給できる。ひっそりと暮らしたほうがお前の性に合っているのではないのか?」 俺が思っていたよりも魔王様は俺に同情されているようだった。俺はすぐさま答えた。 「奴の懐に潜って油断したところを突きます。心配なさらず、俺はこの国でも生きていけます。」 言ってみたはいいもののやはりこの姿じゃまず人にも近づけない。しかし、意外なことに勇者は自分から俺に近づいてきた。 「どうしたんだい?そんな思いつめられている顔をして。」 勇者は、いや「彼女」はまだ17にも満たない少女だった(といっても俺も19だけど)。他と比べると無口な方で不器用な性格をしていた。元々は剣士を志していたらしいが彼女が5歳の時家に魔王の手下が襲ってきたらしくその際父母、姉を殺されたらしい。弟とも逃げる際に生き別れになってしまってそれきりだという。魔王を倒すというよりも弟を探している方が彼女が旅を続けている理由に感じた。俺はその時彼女に聞いた。 「生きているという確証はあるのか?」 「そうと信じていないと気が狂いそうだからね。」 そう言って彼女は苦笑した。あの時の悲しそうな、泣きそうな横顔は今でも覚えている。 また、あの彼女の最期の顔がちらりと脳裏に浮かぶ。何もかもを悟った顔で、それでも静かに、笑っていた。最初から俺が敵と分かっていて受け入れ、俺の幼馴染が襲ってきたときも俺の代わりに怒り、ボロボロになりながらも倒し、呪いを解いてくれた。「思っていたよりも顔面偏差値高くてびっくりしたよ。」「あんまり期待していなかったのかよ」と笑いあった日々。 もう、そんな日々はない、できない。俺自身が壊してしまったから。 呪いが解けたあの日「彼女とこれからも平穏に暮らせたらー。」そんな風に一瞬思ってしまった。彼女自身も魔物を問答無用で倒すことは好きじゃなかったらしく、俺が旅に同行するようになって和解することができた時とてもうれしそうな顔をしていた。 「彼らには彼らの生活があるだろう?血のある争いはなるべくしたくないんだ。」 そう言って彼女はほほ笑んでいた。 いっそ、戦闘狂であったら俺も勇者を倒すことに抵抗はしなかっただろう。 後悔後に立たずとはうまくいったものだ。 これで俺も俺らしく、周りの顔色を窺ってばかりだった生活を終わらせることができる。 今まで散々待ち望んできたものなのに何故胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになるのだろうか。少し考えてわかった。 俺は家族というものにあこがれていたのだ。家族のいる本館と離れた別館での生活を強いられ誰からも愛情をもらえなかった幼少期。 あの剣士といる間は心から幸せだと思える日々ばかりだった。 泣きたい、そう思ったが俺は泣けない、泣いてはいけない。泣いたらそれは自分勝手(エゴ)すぎる、彼女を倒したのは俺自身なのだから。 魔王様から頂いた新しい家に入る。今日からここが俺の新しい家。大豪邸といっても過言じゃない大きな屋敷。 玄関に入ったところに大きな姿見があった。 久々に見た俺の姿は、化け物だった頃よりも、哀れで醜く見えた。