極彩色は甘美に
「…ーい、おーい!」 「ん…?って、うわっ!なんだよ、驚かさないでくれよ…」 「寝てたあんたが悪いんでしょ。次の授業、体育なんだけど。」 「嘘だろ!?早く言えよ!」 「だから最初からそう言ってんじゃん!ったく、あたし先行くからね」 そう言い残した彼女は、シューズ入れを振り回しながら教室を出ていってしまった。 入学してすぐ話しかけた彼女は思っていた以上に面白い人だった。月曜日はカルパス、火曜日はチロル、と曜日ごとに持ってくるお菓子を決めているようだ。そして毎回それを僕に渡してくる。お菓子を僕に渡すたびに満足そうな顔をするので断ろうにも断れず、ついつい受け取ってしまう。入学してから1か月ほどが経ち、体重が1キロほど増えてしまったのはそれのせいかもしれない。 「…授業、行くか。」 体育の授業はいつも億劫だ。そもそもスポーツが得意じゃないし、無意味にペアを組まされるところが特に嫌いだ。 「はい、お前ら整列できたか?今日は卓球をするからな。各々ペアを組んで取り組むように」 終わった。はあ、どうしよう、周りは続々とペアを組んでいる。そんな暗い感情を抱える僕に向かって、まっすぐ歩いてくる人影が見えた。 「あんた1人?」 「へ?」 「だから1人かって聞いてんの。」 彼女はやけに強気に話しかけてくる。 「まあ、そうだけど…」 「じゃああたしのペア決定ね」 「えぇ…?」 彼女は僕の手首を掴んでずんずんと進んでいく。 「でも、僕なんかでいいの?別に他の人と組んでもいいんだよ?」 「それだとあんたが困るでしょ。あんたが人と話してるとこなんて見たことないし。」 「それはそうだけど…」 周りの視線が痛いほど刺さってくる。周りの囁き声が耳をつんざくように聞こえてくる。だから嫌だったんだ。僕には1人がお似合いだし、彼女には僕じゃない誰かと一緒にいるのがお似合いのはずだ。 「なに?嫌なの?」 「いや、別にそういうわけじゃなくて」 僕が逸らした視線の先を彼女の視線が追う。 「…あーそういうことか。」 「な、なに言ってんの…?」 僕がそう言い切る前に彼女は、僕の手首をさらに強く掴んで体育館の外へ進んでいく。周りの視線の花道をくぐりながら。 「どこに連れてくつもりだよ!?」 「いいから!」 少し走ったあと、彼女は僕の手首を掴む力を緩めた。 「あんたさ、あたしと一緒にいるの、嫌?」 僕に背を向けて彼女はそう切り出した。 「そんなわけ、ないだろ」 「じゃあ!!」 声を荒らげながら振り向き、彼女はこう言った。 「なんで周りの顔色ばっかり気にするの…?」 「そ、それは」 「あたしと一緒にいるのが楽しいんだったら、周りの顔色なんて気にしなくていいでしょ!周りの顔色気にするんなら、あたしのことも気にしてよ!」 それから、長い沈黙が続いた。その沈黙を破ったのもやはり、彼女だった。 「ごめん、ちょっと、カッとなっちゃった。」 「僕の方こそ、ごめん。」 「今日はもう、サボっちゃおうよ。」 「…うん。」 そんな会話を交わした僕たちは、照りつける太陽の下をゆっくりと歩いていった。