花咲く春に。
桜の花びらがひらひらと舞い始めた頃、君と出会った。 初めて会った桜の木の下。 悲しいことや辛いことがあると、必ずここに来ていた。 「綺麗だね。」 あの日君が言った言葉が、君の笑顔が、昨日のことのように思い出される。五年も前のことなのに。 君は転校生だった。 小三の春にやってきた。 黒板に君が書いた 「日野優太」 という文字はすごく綺麗だった。 名前まで優しそうだな。と私は思った。 大きな瞳、さらさらの髪の毛。 服もおしゃれで、名前の通り優しい。 そんな君は人気者だった。 私なんか釣り合わないと思ってた。 「梨奈ちゃん!おはよー!」 と君に話しかけられるたびに胸が締め付けられるような気がした。 君と出会ってから五回目の春がやってきた。 桜が今年も咲いた。 私は中二になった。 君は小五の時に引っ越して行った。 引越しといっても、市内だが。 あの桜の木の下に君は今年も来てくれるだろうか。 私は来てくれることを信じて、とびきりのおしゃれをして桜を見に行った。 「あっ。いた。」 君は今年も桜を見上げていた。 今日あったら君に言いたいことがあった。 「久しぶり!元気にしてた?」 君は笑って、 「僕は元気だよ!梨奈ちゃんも元気そうだね!」 三十分くらい、学校のこととか、友達のこととかを話した。 「あのさ、ずっと言いたかったことがあるんだけど…」 私がそういうと、 「なあに?」 と返してきた。 「私、ずっと君のことが、優太くんのことが好きでした。その…付き合ってくれませんか?」 ………。 気まずい沈黙が一分ほど流れた後、君は 「ごめんね。梨奈ちゃんの気持ちには答えられない。」 「そっか。じゃあ私は帰るね。さよなら。」 春に始まった恋は、春に終わりを告げた。