夜に私が見た光景
殺し屋って実在するのかな? 今までの私の答えは、うーんどうだろうねという歯切れの悪いものだった。 だけど今は絶対に、いる!と答える。 だって、たったいま目の前で黒スーツの女の人が男の人を百貨店の屋上から突き落としたのだから。 「はぁっはぁっはぁっはぁっ……」 急いで階段を駆け降りる。 今は、23時。百貨店は閉まっているので、いま百貨店にいるのは関係者くらいだ。 そして店の準備もだいたい終わった時間だろうから、私以外誰もいない……はずだった。 「こんにちは」 「ひっ!」 階段の踊り場で立ち止まる。目の前には、先ほどの黒スーツの女の人が。 「え、え、えーと、私この百貨店の関係者でして!別に何もみてないですよほんとに……」 いや何も見てないならこんなこと言わないだろと心の中の自分がツッコむ。 それに挨拶も返さずになにをぺちゃくちゃ喋っているんだ私は。 黒スーツの女の人が眉を片方あげながらこちらをみている。 「お名前は?」 「ひっ!あ、えと、仲田梨音です。なしにおとで、りのんって読みます……」 「……なるほど。」 黒スーツの女の人が顎に手を添えて少しうつむく。 まさか殺す人リスト的なのに私の名前も載っているとかないよね? 先ほどから足がブルブル震えて、歯もガタガタ鳴っている。 「あなた、何歳?」 「えっ、えっと、22歳で、今年で23になり、ます、け、ど……」 尻すぼみになってしまったのは、途中で黒スーツの女の人が目を見開いたからだ。 もしかして本当に殺す人リストに載っているとか…… 「ねえ、あなた」 「ひぇっ!」 「あなた、西宮中学に通ってた?」 私の心臓がバカみたいに早くなる。 だって当たっていたんだから。 もしかして私殺される? 「え、えーと……はい……」 私がそういうと黒スーツの女の人がカッと目を開いた。 「あっはははははははははは!!足ぶるぶる震わせてほんと面白い!!マジで怖がってんじゃん!!」 「ほ、ほぇ?」 急に黒スーツの女の人が笑い出したのに驚いて間抜けな声がでてしまう。 「もしかして、私が殺し屋とかだと思ってた?」 黒スーツの人が涙を拭いながら言う。 涙が出るほど面白かったの? 「え……えと……はい……」 この言い方だと黒スーツの女の人は一般人だったのかな。 屋上の風景を思い出す。 たしか、柵に立っていた男の人の足をどけるように、黒スーツの女の人が手すりに腕を乗せて寄りかかっていた。 よくよく考えると、黒スーツの女の人は男の人に触れていなかった気がする。 私には、霊感があるから幽霊が見えるのだ。 もしかしたらあの男の人が幽霊で、黒スーツの女の人はただ手すりに寄りかかっただけなのかもしれない。 黒スーツなのは、喪服を売っているお店で働いているからとか? だんだんそう思えてきた。 その方が、よっぽと自然だ。 きっと私は仕事で疲れてしまって、変な勘違いをしてしまったんだろう。 「ごめんなさい、変な勘違いして……」 私がお辞儀すると、黒スーツの女の人がいいよいいよと笑った。 「ねえ、踊り場は狭いし、一旦屋上に戻らない?外で話そう。ここだと声も響くし。あと、タメでいいよ、同い年だし。」 「うん!」 「あ、名前伝え忘れてたね。私は中野柚乃果(なかの ゆのか)。西宮中学出身だよ。ほら、1年A組の。」 「えっ柚乃果ちゃん!?」 驚いたのは、同級生だったからではない。 柚乃果は笑いながら屋上の扉を開ける。 「ほら、どうして固まってるの?ほら、来なよ。」 「えーと、うん……」 なんだか背筋に寒気が走った。だって、だって。 「梨音ちゃん、最初は気づかなかったよ!質問攻めしてようやくわかった」 柚乃果が苦笑しながら笑う。 それに対して私は曖昧な笑いしか返せない。 確かに、顔立ちには昔の面影が残っている気がする。兄弟もいないらしいし、きっと本人だろう。だけど、だけど…… 「柚乃果ちゃん、交通事故にあったはずなのに……」 ぽろっと、口から出ていた。 まずいまずいまずい。なにも言わないでやり過ごそうと思ったのに。 「……バレちゃった、か。」 柚乃果がこちらを向いて寂しそうに笑う。そして、急にこちらを睨んだ。 「死んだからって仲良くしてくれないなんてひどいね。」 「いや、そういうことじゃなくて!」 「梨音もやっぱいらない。ばいばーい。」 気づいたら、目の前に地面があった。