短編小説みんなの答え:2

「あなたに救われたんだよ。」

小さい頃から足が遅い僕は、本当に何もかも置いてきぼりだった。 小学校の徒競走は三年連続最下位の記録を持つ。親はいつだって頑張ったことを褒めてくれていたけど、それをコンプレックスだとはっきり自覚したのは、中学二年生くらいの頃だった。 僕たちは休み時間、教室でふざけ合って遊んでいた。そして気づいたら周りの人がいなくなっていた。「やっべ、次理科じゃん」「うわまた怒られるぞ」そう言って教室を飛び出していく友人たち。僕は教科書を机の上に用意していて、そんなに遅れをとっていたわけじゃなかったのに、廊下に出ると気づいたら友人たちの背中は僕の前にあった。 「おっせーな。ちょっとは急げよー!」 「急いでるよ!」 そう言い返したけど、廊下の角を曲がって友人たちの姿が見えなくなると、途端に急ぐ気がなくなった。 なんで僕はいつもいつも、こんなに遅いんだろうか? 懸命に足を動かすたびにそれが思い起こされて、僕は思わず唇を噛んだ。 高校生に上がった僕は、陸上部に入った。何がなんでも、速くなりたい。中学からの経験者だらけの中で活動するのは確かに辛かったが、入部して三ヶ月の今、やっと自分のペースが掴めてきた。 部活からの帰り道。僕は中学の頃の友人に出会った。 色々バカにはされてきたけど、いい奴なのはいい奴だ。そいつらと雑談しながら道を歩いていた。ちょうど渡りかけた横断歩道で、青信号が点滅している。渡ろうか迷っている間に、他の奴らはもう渡りきっていた。自分の遅さの原因は判断力なんじゃないかと思い始めた。てかそれよりも、ヤバいまたバカにされそうだ。せっかく陸部入ったってのに。 「お前相変わらずだな」 「早くしろよ」 向こうで笑う友人たちの姿を見て思わずムキになった。これでも50メートル走のタイム上がったんだからさ! 地面を蹴った瞬間。目の前に何かが飛んできた。僕は立ち止まろうとしたができずに、そのままその「何か」につまづいて転んでしまう。いってぇ。膝を抑えてアスファルトに倒れ込む。凄まじい騒音が頭上を駆け抜けていった。何が起こったのか、全く理解できなかった。 「大丈夫かよ!」 「大丈夫?」 駆け寄ってくる影の中に、知らない顔があった。 朦朧とする意識の中で、それを見た。 僕の目を覗き込む、星空を映したような、どこまでも澄んだ瞳を。 「てわけで、一命を取り留めたわけ!」 病院のベッドで、隣に座る少女の説明を聞いた。 彼女は隣のクラスの花田さんという人で、この前偶然僕の近くを歩いていたらしい。僕が横断歩道を渡ろうとして、曲がってくる車に轢かれかけたのを、咄嗟にボールを投げて救ってくれたようだ。僕がつまづいてこけたのは、そのボールだった。 「ほんとに、ありがとう」 もしボールにつまづいてなければ、車に轢かれて命を落としていたのかもしれないのに、膝の骨折だけで済んでしまった。 感謝しても仕切れない、と僕は思った。 「ううん、感謝するのは……私の方だから」 突然、花田さんの目に涙が滲んだ。どうしたのかと思った。僕は分かりやすく動揺して視線を逸らしてしまった。 「私ね、バレー部だったの。毎日練習がキツくて、先生とか先輩に怒られて、部活に行くのが嫌になって……普通に学校で部活のメンバーに会うのも無理になって。この一ヶ月間ずっと不登校だったんだ……。家に閉じこもってたら生きるのが辛くなって、何気なくボール持って公園行こうとしてたの。バレーやったらまた元気になれるかな、なんて思ってさ……けども途中でもしここで死ねたらなんて思って」 そんな時に、僕を見つけた。 「反射的に、だったんだ。自分にこんなことできるんだ、って思って。私はまだ、誰かを救おう、って気持ちがあったんだって、自分に気付かされたんだ。だからね、助けられたのは私なの」 あなたに救われたんだよ。 そう言って花田さんは泣きながら微笑んだ。

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子供こどものSOSの相談窓口まどぐち[文部科学省]

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