思い出せない貴方の名前
感動系の話を書いてみました! 感動できるかどうかはわかりません! 私の記憶の中にいる人。 私に優しい貴方。 大好きだった人。 でも、何も思い出せない。 私は15歳の時からある病気を患っている。 それは、一日ごとに記憶が消えていく病気だ。 私は昨日の事を思い出せない。 だから毎日手帳を見て昨日のことを知る。 私の記憶の中には、15歳までの事しかない。 明日忘れてしまう私には、恋も友達もできなかった。 そう、手帳には書いてある。 なのに、これはどういうことだ。 私が見たのは、恋をできないはずの私が書いた好きな人との出来事だった。 「思い出せたらこの人を探して。」 そうつづられた手帳を見て私はため息を吐く。 思い出せるわけがない。 私はそう考え手帳のページを破って捨てた。 もう、これ以上惨めな気持ちになりたくなかったから。 そんなことをして、もう何年経つだろうか。 私は隣で静かに寝ている夫を横目に手帳を閉じた。 彼は良い人だ。私の病気も気にせず結婚してくれた。彼で私は十分だったが、もし私が手帳に書いた男性がもっと良い人だったら? 私の頭にそんな醜い思考がよぎる。 私は結婚もして幸せな生活を送っている。 それだけで十分なはずだ。幸せなはずだ。 私はもう87歳。彼は95歳。 そしてここは、彼のベッドの横。 ずっと寝たきりの彼。もういつ空へ旅立ってもおかしくないのだ。それに、私は夫もいて、再婚が簡単な歳でもない。 それなのに20代の恋にすがっているなんて、情けないにもほどがある。 私がしわだらけの手で彼の手をそっと握ると、彼が口を開いた。 「君は、覚えているかい?私との約束を」 「約束ですか?」 「君が20歳くらいのときかな…?私とした約束… 記憶が消えても、いくら時間がかかっても、きっと私のことを思い出す、って約束だよ」 彼がそう言ったとき私の頭に雪崩のように古い記憶が流れ込む。 いつか絶対思い出すから! 今はもう出せない高くて可愛らしい声。 それは、私の声。 約束だよ 私が愛した、一度も忘れたことのない彼の声。 「貴方だったんですね。私の永遠の初恋相手」 「君だけじゃないさ。私の永遠の初恋相手」 春の暖かい風が、60年間思い続けた初恋相手を探し出してくれたーーーーー。