夏の匂いに溶け込んで
部屋のどこを探しても、 あなたの匂いはどこにもない。 急に別れ話をされて、置いて行かれてしまう。 あなたは逃げた。このダメな私から。 私は逃げられない。生きている限りずっと。 大学の卒業式前日の夜中。 あなたと散歩に行ったよね。 近所をふらっと歩くぐらいの軽いもの。 2人で手を繋いで。 その時あなたは言ったから。 「卒業しても俺らはずっとこのままだ」なんて。 そんな感動的な言葉もなかったかのように 私たちはあっさりと終わりを迎えた。 卒業式当日も、私はその言葉を信じていた。 顎をあげると、目がしみるぐらいの明るくて青い空。 太陽に手をかざすと、指の隙間から光が漏れて綺麗だった。 そういえば、この時あなたはいたっけ。 "私はずっと好きだったよ" なんて、心の中で呟いたところで何もない。 知ってる。 わかってる。 でも自分の気持ちには逆らえないもん。 悲しいのに涙が出なくて、目の奥が痛くなる。 夜、久しぶりに外に出た。 あなたと散歩した道を通った。 まだ半年と経ってないのに懐かしい感じがした。 この道、なんでだかいつも夏の匂いがする。 落ち着くんだよね。あなたもそう言ってた。 やっぱり別れ話をし始めてきた時、 私が"いやだ"と言えばよかったの? そうしたら、今も一緒にいられたの? なんて、無意味な妄想をしながら、 私はマンションの屋上へ向かった。