ラムネのビー玉
「おいしい・・・。」 「だろ!?」 私が口にした言葉に被せるように、隣に座った男子が言った。 「ここの店、お気に入りなんだ。夏しかやってねぇし、ちょっと高いけど。それなりに美味いだろ?」 「うん・・・。」 私と彼が今食べているのは、かき氷。 自家製シロップの上に果実がたっぷりのって、練乳はかけ放題。 「あのね・・・和樹くん。」 私は彼の顔を見つめた。 彼はブルーハワイのシロップをたっぷりかけたかき氷を少しずつ口に運んでいる。 彼の瞳が青く見えたのは、シロップを反射しているからだろうか。 「・・・私ね、実は・・・和樹くんのことが__。」 ・・・。 だめだ。言えない。口が固まってしまう。 かき氷が少しずつ溶けていく。 「なんだよ、百合? 俺がなんだって?」 「ううん。・・・なんでもないの。」 彼は少し不思議そうに首を傾げてから、かき氷を全てほおばった。 「百合。話せないなら無理に話せとは言わないけど、困ってるならなんでも言えよ。」 「うん。」 困ってないよ。ごめんね心配かけちゃって。 「ここのラムネも絶品だぜ。泳ぐ前に買おう! おごってやるよ。」 「えぇ!? いいよ・・・っ!」 「そのぐらいさせてくれ。なっ。」 そう言って彼は止める間もなくラムネを二本、買ってしまった。 「ラムネは泳いだ後が最高なんだ。泳いでから一緒に飲もうな!」 なら、買うのは後でもよかったんじゃ。そう思ったけど、口にするのはやめた。 二人でラムネの瓶を、ちょうど良く平らだった岩の上に置いて、ラッシュガードを脱ぐ。今日ぐらい、焼けてもいいや。 ラムネのビー玉が、カランと涼しい音を立てた。 「よし、いくぞ、百合ー!」 「あはは。泳ぎなら、負けないよ!」 私たちはタイミングを見計らって、波へと飛び込んだ。 そのとき。 「__あっ・・・。」 私の足元の岩が、つるんと滑った。 私はあらぬ方向へひっくり返ってしまった。 波が来る。 飲まれる。 口に海水が入って、いつもならどうってことないのに動揺してしまう。 「百合!!」 そんな声が、聞こえた気がした。 私まだ、和樹くんに気持ちを伝えられてないのに・・・。 ラムネ瓶が、風もないのに岩から落ちて、音を立てて割れた。 * 気がついたら、病院のベッドだった。 「百合!!」 懐かしい声がした。 ふわりと男性の香水の香り。 「和樹・・・くん?」 和樹は目尻に涙を浮かべていた。 なんで泣いてるの? 声が出ない。 どうしたの? 声が出ない。 なぜか私の目からも涙が溢れた。 「ごめん。俺が、夢中になりすぎたせいで。」 「違うよ。和樹は悪くない。」 「えっ、いま、『和樹』って・・・。」 私は広角を少しあげた。 「百合。よかったよ、生きてて。お前は、俺の大切な人なんだ。ラムネのビー玉みたいに、ある意味があるのかわからないけど、決してなくならないもの。他の人たちからはどうでも良くても、俺にはとっても大事な人なんだ。」 え・・・。 私は胸がいっぱいになった。 「俺、百合が大好きなんだ。付き合ってほしい。」 あーあ。先越されちゃった。 私が先に言いたかったなあ。 「うん。いいよ。」 私がそう言うと、和樹は笑った。子供みたいに。 「また、ラムネ飲みに行こうな。」 私は、小さくうなずいた。