肌の色が違っても
アメリカだけでなく、世界では今も黒人差別が問題になっている。 俺も差別された人の1人だ。 家庭環境も複雑で、「家族愛」とか、「慈愛の心」とか糞食らえと思っていた。 街では、学校から、公共交通機関から、エレベーターを使うことまで制限された。 挙げ句の果てに、仕事を解雇され、全てを失った。 肌の色が黒いというだけで。 俺が何をした? なぜ、俺はこんな目に遭わなければならないんだ? 人生をやり直そうと、俺は自国を出て、遠く離れた国に行った。 ただ、財産もなく、人望もない俺は生きていく術がなかった。 言葉が通じないことが1番の問題で、俺は来た初日からホームレスとなった。 人を愛すこと、人から愛されることを知らない俺は、このままどこへ行っても孤独なのだと悟った。 人と会うことを恐れ、夜中にふらふらと徒歩で移動していると、精神も体力もそろそろ限界だった俺は、車に引かれかけた。ブレーキ音が響き、運転席から男性が降りてきて、俺に怒鳴ってくる。その家族も降りてきた。 俺とは、肌の色が違う家族が。 俺とそう年の離れていなさそうな女性が心配してくれた。 その家族は、言葉が通じないので、身振り手振りで何かを伝えてくれた。全然分からなかったが、半ば強制的に車に乗せられ、俺を自分たちの家まで送ってくれた。 家に着くと、まず靴を脱がされた。 土足で上がると、車を運転していた主人が怒った。家で靴を脱いだのは初めてだった。 その後、風呂に入れてくれて、俺は温かい風呂がこんなにも幸せであると、初めて知った。 その後は、ご飯をご馳走してくれた。 ご飯は今まで食べた何よりも美味しかった。 月並みだが、本当に幸せすぎて涙が出た。 自国で差別されても泣かなかった俺が、遠く離れた国で親切にしてもらって泣くなんて、どうなっているんだ? 俺は初めて、人の温かさに触れた。 生きていて良かったと心の底から思った。 次の日の朝には彼らの家を出るつもりだったが、行き先がないならここにいればいいと主人が言ってくれた。 こんな幸せなことが、俺にあっていいのだろうか? 俺は、主人の娘である、幸せそうな彼女と仲良くなった。 彼女は笑顔が素敵で、俺を差別しなかった。それが1番嬉しかった。 人を愛すことを知らなかった俺は、初めて彼女を愛した。彼女も、こんな俺を愛してくれた。 人を愛すこと、人から愛されること。 俺はそれを実感し、彼女とずっと一緒にいたいと思うようになった。 ただ、そう上手くはいかないのが人生というものだ。 彼女の親である、主人と奥さんが、俺と彼女の結婚を反対した。「まさか結婚まで話が進むとは思っていなかった」という。 それに対して彼女は、大声で言った。 「肌の色が違うだけ。彼はとても優しくて、私を想ってくれている。私は彼とずっと一緒にいたい。」と。 彼女の両親は言葉を失っていた。 そりゃそうだよな、と思う。 国籍も違う、どこの馬の骨かも分からない男と結婚するなんて、反対するに決まっている。 でも、それでも。 彼女は、俺を愛してくれている。 俺とずっと一緒にいたいと思ってくれている。 それがこんなにも、こんなにも、心が満たされることだなんて。 俺は知らないことばかりだった。 「大丈夫?」 彼女の声が聞こえた。 俺はいつの間にか、泣いていた。 彼女の両親の前で。 涙を拭い、俺は立ち上がって、彼女の両親に頭を下げた。 まずは、俺を家に入れてくれたことの感謝、 迷惑をかけたことの謝罪、 そして、彼女を必ず幸せにするという覚悟を伝えた。 彼女の両親は、しばらく黙っていたが、 奥さんが涙を流して「ありがとう」と言ってくれた。主人は、「娘をよろしく」と言ってくれた。 今度は彼女が隣で泣いていた。 俺は彼女の手を、ギュッと強く握る。 「痛いよ」と泣きながら、でも笑って、彼女が言った。 俺を幸せにしてくれて、本当にありがとう。 次は俺が、一生をかけて幸せにする。 だから、ずっとそばにいて。