短編小説 何度でも、「8月31日」に会いに行くから。
気が付くと、そこは自分のベッドだった。 私の名前は斗羽(とわ)。 視界の隅っこに映るカレンダーには、「8月31日」の文字。 今日は、夏休みの最終日。 「朝ご飯できてるよー」 お母さんの声が、また聞けたことに感謝する。 私服に着替え、顔を洗い、朝ご飯を食べた。 部屋に戻って見たスマホの予定表には、「伊織と花火大会」と書いてあった。 そうだ、今日は伊織(彼氏)と花火大会に行くんだ。 ふと、「この画面もすっかり見慣れてしまったな」と思う。 (なんでだろう、予定表はそんなに見てないのに・・・) 夜7時、伊織と会場で待ち合わせ。 ちょっと張り切って浴衣を着たからか、少し遅れてしまった。 そんなことも笑顔で優しく受け流してくれる、そんな伊織が大好きだった。 (こんな幸せな時間も、もう少しで終わってしまう) なぜか、そんなことが頭をよぎる。 (私、ちょっとおかしい気がする・・・いやいや、今はデートを楽しもう) 8時30分、花火も終わりに近づいてきた。 「綺麗だね」と、他愛もない言葉を交わす。 そして、クライマックスの超大型花火が花開いた瞬間・・・ 私の体は、花火の下目掛けて走り出した。 「なんで、どうして・・・!?なにが起きてるの」 私の頭は混乱する。自分の体が自分のものじゃないみたい。 そして、自分の目が花火の真下にいる少女を映すと、 全ての「記憶」が流れ込んできた。 (あぁ、そういうこと) 少女の上に覆いかぶさった瞬間、火の玉が落ちてきて、私の体を焼いた。 (私、死ぬのね) 意識がもうろうとする中、耳が足音を捉えた。 伊織が私を追ってきている。 来ないで、伊織。みっともない姿を見せたくない、最期を見せたくない、悲しませたくないの・・・ 何度も。 「どうして庇ったの!!」 伊織のその言葉に、返事はしない。 「あぁ、やっぱり来ちゃったんだね、伊織。」 出来れば伊織の涙は見たくなかったんだけどなぁ・・・ ねぇ、最期くらい、あの太陽みたいな笑顔を見せてよ。 「笑って、伊織。」 伊織が、涙を零しながら優しく微笑む。 またね、伊織。 何度でも、会いに行くから。 私は、ゆっくりと瞼を閉じた・・・・・