形ある輪郭
私の彼女がいなくなった。 アルツハイマーを発症した僕を彼女は大切にしてくれた。 でも彼女の顔さえ思い出せない。 どんな笑顔だったのかさえもうわからない。忘れてしまった。 僕のスマホの中には彼女との写真は一枚もなかった。 いろんな場所で撮ったはずなのに一枚もない。 彼女だけを狙って消されているようだ。 僕は思い出すために彼女の部屋へと行く。 部屋の中は意外と普通だった。 一緒に暮らしていたはずの人がいない。でも顔も思い出せないから悲しいのかわからない。 僕は彼女のベットへ腰掛けると周りを見渡した。 白い壁に茶色の机が当たり前のように置いてあるだけだった。 そういえば彼女はなぜいないのだろう。 僕はいつから彼女と付き合ったのだろう。 なんで僕は彼女のことを覚えていないんだろう。 わからない。 思い出せない。 、 、 、 あ、 、 、 ああ、思い出した。私は家族で暮らしていた。ここは私の子どもの部屋だ。 そうだ、子どもは中学生。私の妻はこの部屋ではない。 そう思い出すと勢いよく立ち上がり、妻の部屋へと向かった。 妻の部屋には何もなかった。いや、この言い方は正しくない。正確には机とベットだけだった。 さっきの部屋と変わらない。同じ机と同じベット。 この家の違和感が私の頭を殴り続けている。 もう少しで何か、あと少しで何かが掴め、、、る。 、 、 、 、 、 、 、 、 いやだ思い出したくない。苦しい。 嘘だ。全部嘘だと言ってくれ。 彼女はいたはずだ。妻も子どももいたはずだ。 全部私の妄想ではないはずだ。 顔はわからないがいたはずだ。 きっと私の横で笑っていたはずだ。 妄想だったなんてそんなことはない。ないはずだ。 私は最後の結論にたどり着いた。 。 。 。 思い出の中にある輪郭は全てもともと無かった。