キミは幻
私・新浜 天音(にいはま あまね)は、昔から入院を繰り返していた。 「はぁ、はぁ。」 夜は、どうも苦手だ。 体が熱い。それ以上に、孤独な感じが怖い。 一人になると、お母さんから聞いた話がよみがえってくる。 私にはお兄ちゃんがいたけど、私が生まれる前に病気でなくなってしまったらしい。 私も、死んでしまうんじゃないかって、怖くなる。 暗闇の中、誰かが言った。 「大丈夫」 そこには、あの子がいた。 毎日、私と遊んでくれている、あの子が。 伊織(いおり)、というらしい。 私の一つ年上で、ある日突然現れて、わたしをなぐさめてくれた。 でも、私以外の人がいるときには、呼んでも、全く来ないから、 家族に紹介しようとして、「誰もいないぞ」って笑われた事もあった。 ある日、伊織くんがクマのぬいぐるみをくれた。 明るい色で、持ち運べるサイズだった。 伊織くんは、自分のことについて、あまり語らなかったけど、私には、たくさんの物をくれる。 私は、クマのぬいぐるみをギュッと抱きしめた。 退院の日が来た。 奇跡みたいだった。ほとんど治らない病気なのに。 でも、ちょっと、伊織くんのことが気になった。 手術が終わった日から、ずっと現れてくれなくなっていた。 さよならも言わずに。 その時、お母さんが、私が握っているクマのぬいぐるみを見て、びっくりしたような顔をした。 「そのぬいぐるみ、ちょっと見せてくれない?」 お母さんは、クマのぬいぐるみをじっと見ている。 「そのぬいぐるみ、伊織くんからもらったの。」 そう言うと、お母さんは、はっとした顔になった。 「これは、私が、伊織に、あなたのお兄ちゃんに、あげたものなの。」 その時、「天音はもう、一人でも大丈夫」と聞こえた気がした。 私は、お兄ちゃんが、見守ってくれていたのかも、と思った。 おしまい