シオンの花言葉
数ヶ月前、5年間付き合っていた佳奈にプロポーズをした。俺は佳奈なら喜んでくれると思っていたけど、辛く泣きそうな表情をして、「ごめん」と言い佳奈は帰ってしまった。 それ以来佳奈から一切連絡がなくなった。 まるであの5年間が最初から無かったかのように。 ある日の仕事帰り、家の郵便受けを覗くと一通の手紙が入っていた。差出人を見ると、見慣れた字で【佳奈】と書かれていた。 俺は不安と期待が入り混じった感情の中、急いで封を切った。 拝啓 お元気ですか? 堅苦しいのは苦手だから、そのまま書くね。 ずっとひろ君に話してなかったことがあるの。 私、病気だったんだ。3年くらい前に病院に行ったら、お医者さんから余命3年ですって知らされてさ。本当なら治るはずの病気なんだけど、見つかるのが遅くて治らない病気になっちゃったの。 ずっと言おうって思ってたんだけどひろ君と離れるのが怖くて言えなかった。ごめんね。 この間プロポーズしてくれたとき、本当は喜んでって言いたかった。でも私はひろ君を悲しませちゃうから、言えなかった。 本当にごめんなさい。 私はひろ君の迷惑になるのでこの手紙で最後にします。 ひろ君、今までありがとう。大好きでした。 私と、別れてください。 後半の方は字が滲み、震えていた。 室内なのに手の甲に落ちた水滴を見て、自分が泣いていることに気がついた。 嘘だ。信じたくない。 俺は急いで佳奈の母親に連絡した。 佳奈は今どこにいるのか、病気なのは本当か。そう聞くと、少しためらった後、佳奈のいる病院を教えてくれた。 病室には横たわった佳奈がいた。 「…ひろ君?」 「うん」 「ごめんね」 弱りきった声で佳奈が言う。 「ねぇ…俺の側から離れないで」 「私もひろ君と一緒にいたい。でもひろ君の迷惑になるから…」 「迷惑じゃない!迷惑だなんて思わないよ…」 「……ひろ君。私と、別れてください」 「やだ、できない」 「でも…」 「できないよ…!」 「じゃあ、最後にお願い、聞いてくれる?」 「……なに?」 「笑ってほしい」 「……笑えないよ」 「お願い」 涙でぐちゃぐちゃな顔で俺は笑った。 「ありがとう…」 きっとすごく下手で不細工な笑顔だったけど、佳奈はいつものように笑ってくれた。 でもそれ以来、佳奈が目を覚ますことはなかった。 ーそれから数年後、俺は佳奈のお墓の前にシオンの花を添え、手を合わせた。