夏の日の夜
祭もとうとう終盤に差し掛かり、人々は次々と神社の石段に集まってきていた。 「私たちもそろそろ行く?」 りんご飴を頬張りながら、由奈がそう声を掛けてくる。それに頷くと、「わかった」の声と共に私は腕を引かれながら彼女の後ろを着いていった。そして人の少ないところを探し、彼女の横に腰を下ろす。 「楽しみだね、花火」 そう。この祭の最後には、打ち上げ花火がある。そのころには屋台も畳まれるため、皆がそれを見るために石段に集まるのだ。 「うん。楽しみ」 そう答える私は、由奈の方を見ることができなかった。嘘だからだ。今の私には、楽しみだなんて到底思えない。この祭が終わってしまえば、私は彼女と会えなくなってしまうのだから。嫌だった。祭が終わって、静けさと共に別れが訪れる。それがどんなに寂しくて、どんなに辛いか。私にはきっと耐えられない。それならいっそ、時間が止まってしまえばいい。そうとさえ思えた。 しかしそんな思考は、由奈の発した言葉によって遮られる。 「元気ないじゃん。どうしたの?」 思わず緊張が走る。どうにか言い訳のできないものか。すこしの逡巡の後、私は口を開いた。 「実は、お腹が痛くなってきちゃって!」 少しの笑いと共にそう嘘の弁明するが、由奈の目は真剣だった。 「嘘。私にはわかるよ。絶対嘘吐いてる」 それから彼女は「本当のことを言って」と詰めてくる。私はなんとか躱そうとしたが、やはり幼馴染の力は凄いようで。 「由奈と会えなくなるの、寂しいんだ」 結局、言ってしまった。呆れられるだろうか。そう思って地面に視線を落とす。しかし次の瞬間、私は暖かさに包まれていた。由奈に抱きしめられたのだ。 「私だって寂しいよ。音羽は私の親友だもん」 気付いた時には、涙が溢れていた。それは由奈も同じだったようで、彼女の口から嗚咽が漏れる。 そんな二人を、花火の音が包み込んだ。私は生涯、この夏の日の夜を忘れることはないだろう。