優等生である僕の秘密。
夜の都会の高層ビルの屋上にてメロンソーダをそっと嗜む黒髪の眼鏡を掛けた少年がいた。都市の骨格から漂う排気ガスのほのかな香りと夜の暖かな息吹が、黒髪の少年に静かに吹き付ける。 少年はメロンソーダを二口喉へ運び、怪しい微笑みを顔に浮かべた。彼はただの少年ではなかった。碧の透明な石が輝く指輪が、指に嵌められ、月明かりによって照らし出される。その輝きは、まるで星々が宿るようにミステリアスな光を放っていた。 少年はまたメロンソーダを一口呑んだ。 僕はこの通りただの少年ではない。何か秘密のある少年だ。それでは皆様に僕の秘密をお教えしよう。 今から三十年前のことだ。少年、秘藤 風雅は『ビタミン柑橘類中学校』の優等生だった。勉強も運動も難なくこなし、生徒会長までも努めていた。風雅は誰よりも賢く、誰よりも優れていた。何もかもが上手く行、誰からも尊敬される存在であった。注目され、称えられ、栄光を与えられの日々だ。だが、風雅は何も嬉しくなかった。 『刺激』がないのだ。毎日毎日が退屈でつまらないことをやっては称えられの日々にうんざりしてきていた。 風雅は放課後の帰り道、漠然と空を見上げた。雲のない素っ裸の褪せた夕焼けは何秒見ても何も変わらない顔で風雅を見つめている。 「僕はどうして…」 すると、隣のお墓の前にきらりと光る何かが落ちていた。何だろうか。新しい刺激になると思い、風雅はお墓の方へ胸に小さな期待を乗せて掛けていった。 そこにはお墓の色とりどりの砂利に紛れるように置き手紙と透き通る碧の石がはめ込まれた指輪が埋まっていた。 拾い上げてみれば、碧の石は目を離すことなくすぐに風雅を魅了した。その石はドーム状にカボションカットされ、深い青色を宿していた。輝きは心を苦しく掴むような魅力を持ち、まるで運命に導かれたかのように指輪に宿っているかのように感じられた。指輪は不気味ながらも喜びに満ち、有るべき者の手に渡ったかのような気配を漂わせている。 「麗しき指輪よ…」 風雅は指輪が欲しくてたまらなくなった。たとえ全財産を渡してでも不自然に欲しくなったのだ。喉から手が出るほど欲しい。 中指にそっと指輪をはめた。サイズもぴったりで自分に似合っている。風雅はそのまま指輪を持ち帰ろうとした。が、近くに埋まっていた手紙にも興味が出てきた。誰あてのものだろうか。指輪の持ち主だろうか。しかし、勝手にお墓の手紙を開くのはどうだろうか。もしかしたら罰が当たるかもしれない。 白い手紙は風雅を呼ぶように煌めいている。だが、同時に開けてはいけないと心が叫んだいる。開けたい、開けたい。だがこれを開ければ人生が大きく激変してしまうかのようにも思える。いい方向に激変するのか、悪い方向に激変するのかは分からない。 覚悟を決めた風雅は白い封の手紙を戦慄に身を震わせながらも慎重に開封した。その手紙の中には、未知の真実が隠されていることを彼は直感したのだ。 いざ、白い手紙の文に目を通せば、こんなことが書かれていた。 『この手紙を開いた方へ、 この指輪は“老い”を失う代わりに貴方に欲しい能力を授ける物です。一度はめたら貴方はもう持ち主です。“老い”を失う覚悟はできていましたか?それでは指輪をお楽しみください。』 風雅は大きく笑った。 「フッハハハハハ!」 日暮れの夕方の墓に風雅の笑い声は響き渡った。しーんとし、声の残像だけが風雅を包んだ。その刹那、今まで馬鹿馬鹿しいと思っていたことが心に染み渡り、本当のことのように思えてきたのである。腕には鳥肌が走った。 それから暫くしてある日のことだ。成長が止まったのだ。主に身体の成長がストップした。まかと思い、指輪をはめて欲しい能力を唱えてみると、本当にその能力が使えた。やがて能力に遊び飽きた風雅は禁断の能力に手を出した。それは、『他人の秘密を知る能力』だ。 人は『秘密』という謎めいた存在に強く引かれる。その知られてはならないミステリーの味わいは、一度嗜んでしまえば、ますます知りたくてたまらなくなる、まるで毒のような魅力を持っている。風雅は刺激のない日常に飽き足らず、ミステリーの味わいに心を奪われてしまった。彼は自らの悪趣味を自覚しているが、それでもなお辞めることができないのだ。いつも笑顔でいるあの人にも裏にはこんな秘密が隠されていたのかと思うと興味は尽きない。母親にも過去に最悪な闇が存在していたなど知りたいことは尽きない。さあ、この書物に全てを暴き尽くそう。 “皆の隠している秘密を!! 最後まで読んでくださりありがとうございました。中二病のとき描いた没ネタ一話でした(笑)