あなたよりも速く (自信作!)
『君はあの人にそっくりだね』 『ほんと...2年前のあの子みたい』 『思い出しちゃうな、あの人のこと』 僕は一ノ瀬京太(いちのせきょうた)。 中高一貫校に通う、高校1年生。まぁ僕は、高校からこの学校に入ったんだけどね。 部活は陸上部で、短距離走が得意。この間の大会も、なんと優勝してしまった! ...これから放課後の部活だというのに、気分が落ち込んでいる。 席を立って行ける気がしないぞ... 「どーしたんだよ、そんなシケた顔して」 不意に背中をポンとやられ、短い悲鳴をあげてしまった。 振り返るとそこには、幼なじみの園川日向(そのかわひゅうが)が、悪戯っぽい笑みを浮かべ立っていた。 ちなみに日向はバスケ部。 「日向ぁ...ビックリした」 「ははッ、悪ィ悪ィ。ところでお前、また言われたのか?」 「...アタリ」 そう。僕はよく言われるのだ。 『2年前のあの人みたいだ』と。 2年前のあの人──顧問の先生によると、当時中学2年生だった夏宮灯馬(なつみやとうま)という生徒のことらしい。当時中2ってことは...今は高2か。年度変わってるからね。 しかし彼は、中2の終わり際で海外に転校してしまったそうで、もうこの学校にはいない。 彼も陸上部でスプリンター。彗星の如く現れ、この学校にいた2年間の大会ですべて優勝したんだそうだ。 転校してしまった今も、陸上部らしい。 そんなすごい人に似てるって言われて、嬉しいかと思いきや...僕はとても寂しかった。 僕は僕[一ノ瀬京太]でなく、[夏宮灯馬の面影]として視られているような気がするからだ。 「気にすんなって。人は前例があると当てはめたくなるモンなんだよ。お前はお前だ」 今度は日向の笑顔が優しくなった。 「うん...ありがとう」 部活が終わっても、僕は一人で少し校庭に残っていた。なんだか、すっかり日も暮れたこの空をしばらく見ていたかった。 遠くから、砂利を踏みしめる音が近づいてくる。誰だろう。 暗い中、僕は目を凝らして見た。──知らない人だ。 「あの...あなたは?」 「......夏宮灯馬」 「──えっ?」 嘘だ。夏宮灯馬は海外にいるはず。こんなところにいるわけがない。 「...やっぱり驚くよね。でも嘘じゃない。ぼくは確かに夏宮灯馬だ」 そう言って彼はグラウンドを見渡した。 「あー、やっぱりもう部活終わってたかぁ。残念。久し振りにここの校庭で走りたかったんだけどな」 考えるより先に口が動いた。 「あの!僕と...勝負してください。100メートルで」 「え...いいけど、どうしたの...?」 僕は自分が言葉を発したことに気づいた。 「今まで僕はずっと...あなたに似ていると言われてきました。僕が僕じゃないみたいで...寂しかった。悔しかった。でも、少しだけ...あなたに憧れた」 感情が、溢れてくる。 「あなたがどんな人なのか、確かめたいんです」 ...言ってしまった。 「......そっか、わかった」 準備が終わって、スタートラインに僕らは立った。 しかし校庭には僕ら二人きり。スタートの合図は夏宮さんがしてくれることになった。 「じゃあいくよ。On your marks──」 緊張、ワクワク、恐怖、希望。 「Set──」 ラップ音と同時にスタート。ふたりぶんだけの足音。 速く、速く、速く。 あなたよりも── あとがき 結果はご想像におまかせします。 どっちが勝ったと思いますか?