あの夏が飽和する(自分なりに短編小説にしてみました)
「遠いとこで、死んでくるよ。」 「じゃあ、僕も連れて行って。」 そんな会話と、夏の大雨でジメジメした空気の中鳴き続ける蝉の声から始まった、僕らの旅だった。 「一緒に死のう。」 財布と、携帯と、ゲーム、そして、ナイフをカバンにつめて…それ以外の要らないものは全部壊して、僕らだけの旅に出た。 誰にも言わず、誰にも頼らず、頼れず。 そんな生活をして、まだ間もなかった頃。 2人で海に行った。 汚い僕らの旅の中出会った、夕日に照らされたその海は、目が痛くなるほど綺麗だった。 君が無邪気に駆けだして、僕らはつかの間の時間を噛み締めた。 君は口を開く。 「本当に優しくて、みんなに好かれる主人公なら、汚れきった私たちのこともちゃんと救ってくれたのかな。」 「そんな夢ならとっくに捨てたよ。だって現実を見ろよ。」 ここまできても、誰も僕たちに手を差し伸べ無かったんだから。 君はそうだよね、と、少し寂しそうな笑みをこぼす。 脱いだ靴を両手で持って、きらきらと光る海の水を君は歩いていた。 「君がいたから、ここまで来れたんだ。」 夕日に目を薄める僕に、ふと、君はそう言って、自分のリュックをその砂浜に落とした。 強い風が一吹き、僕は反射的に目を瞑った。 風が収まり、目を開ける。 するとそこには、ナイフを持った君がいた。 真っ直ぐこちらを見つめながら君はゆっくりと口を開く。 「でもね、もういいよ。死ぬのは私ひとりでいいよ。」 おい、待て。その言葉すら声にならなかった。 一緒に死のう、と約束して始まった旅路の途中、そんなことを言われた。 どうせお前だって。そんなふうに怒ることもなく、もう無理だよ。そんなふうに涙を流すこともなく。 ただ淡々と、真っ直ぐに君は言葉を紡いだ。 そして静かに、夕日を反射したナイフの刃を自分の首に寄せる。 君はまた少し寂しそうに笑って、 「君がわたしのヒーロー(主人公)だった。」 君の言葉が、声が、──君自身が。 光り輝く海に零れていった。