猟奇的な影
星宮ヒナタとは、クラスの人気者の名前である。 高い位置に結ばれたツインテールヘアーのピンク色の髪によく似合う星の髪飾り。 3回ほど巻いた、短いスカート。 彼女の美しい顔が、笑うたびに金色の目を細める仕草が、ぼくはとても羨ましくて仕方なかった。 「星宮カゲリ、さん?」 星宮ヒナタの声がぼくの耳から入り込み、そのまま頭を貫く。 「なに?」 「今日から、わたしたち隣の席なんだってさ!先生が決めちゃって……いやー、まあね、あいつらと隣なのも飽きちゃうし。それに、隣が女の子なのも救われたって感じ!おんなじ苗字同士、仲良くしようね!」 ぺらぺらと無駄に口を動かす彼女。 ぼくは話を聞きながら、思わずスカートの裾を握りしめてしまった。 星宮ヒナタと、星宮カゲリ。苗字が同じだけのただの他人。 同じ苗字なのに。ぼくには取り柄なんて絵しか無い。しかも、それもネットの相互さんの方がよっぽど上手い。 星宮ヒナタはぼくには無いものをたくさん持っているのに。 体調が悪いふりをして早退をした午後1時。 お母さんとお父さんは仕事のため、不在。 靴を脱いで、すぐさま自室へ向かった。 見ていられないくらいに散らかった部屋。 床は紙に覆われ、もう色すらわからない。 紙には、たくさんの星宮ヒナタが描かれていたが、その全てが負傷していた。 腕が千切れて茫然としている星宮ヒナタ、心臓が撃ち抜かれて、次の瞬間に死に至るであろう星宮ヒナタ、顔が腫れ上がり、青痣まみれの星宮ヒナタ……… ぼくのせいだ。ぼくが、あの美貌を台無しにしたんだ。 赤だけ露骨に減っている水彩絵の具。 ただの嫉妬心。せめて、絵の中だけでも彼女をぼくより下の存在にしたい。彼女には苦しんで欲しい。 どうして、ぼくとおんなじ苗字なのに雲泥の差があるのか。 ぼくが星宮ヒナタじゃないから。星宮カゲリだから。そんな理由で?そんな理由が許されている。 比較的損傷の少ない星宮ヒナタが描かれた紙を引きちぎる。 あーあ。星宮ヒナタ本人が見たらどう思うんだろう。 ただのクラスメイトなのに。君が悪い。 星宮ヒナタほどの美貌を持っていたら、ぼくみたいな人間が現れる。 人を動かすのは、必ずしも博愛や勇気や愛国心ではない。羨望や、憎しみ、承認欲求の方がよく動く。 こんなにもぼくの目は緑色に染まってしまった。 窓に写ったのは、目つきの悪い黒い目に、濃くついた隈。 現実ではぼくの目は緑色なんてしていない。 緑色には見えない。嫉妬している様に見せない。だからこそ進行していく。 嫉妬心が、紙の上に溢れて色彩を生み出す。 ぼくは、この紙がある限り日に当たることができない。 いいなあ。星宮ヒナタはどこにでも行けるのに。 画材を投げる。 目の前のタンスに当たって、ゆらゆら揺らぐタンス。 タンスに積まれた紙に描かれた星宮ヒナタがぼくを恨めしそうに見る。 タンスの上に無造作に積まれた紙がぼくに降り注ぐ。 ばさばさという大きな音と共に猟奇的な影がぼくを覆った。