幸せな今
雨上がりの坂道、水溜まりの中の虹。 私はそれを駆け上がって、水溜まりを跳んでゆく! そう、全部全部、「あの頃」を求めて! 「………」 …雨のポツポツ音で目が覚める。 また、同じ夢を見る。 私はずっと、過去に焦がれているんだ。 小学校の最後の日に、「またね」って言えなかった幼馴染のことも、中学校の最後の日に「好きです」って言えなかった"友達"のことも。 ずっとずっと、楽しかったんだ。 あの日に、戻りたかったんだ。 「……あーーーっ!?」 今、8時過ぎ…? やばっ、学校! 「うぅーっ!」 雨はとっくに止んでいた。 アニメみたいに食パンをくわえて走り出す。 ……虚しいなぁって思う。 だって、こんなことしても笑って「何してんだよ」って言ってくれる幼馴染は、もう遠くに引っ越してしまった。 好きな人も、連絡先も知らないまま別の学校に行ってしまった。 いわゆる「いつメン」なんてもうとっくに自然消滅してしまった。 今となってはもう、私に絡むのは甲高く嗤う陽キャ達だけ。 学校…行きたくないよ。 「……あれ?」 いつもは目を向けない場所に、丘が見えた。 ここからではよく分からないけど、いつも夢で見る場所に似てる。 ……幻想なのは分かってるよ。 でも、でももし夢の通りならば。 少しの、消えそうなくらい小さな希望を胸に、その丘へ! お願い、お願い、神様。 少しずつ見慣れていく。夢で見た場所になっていく! 水溜まりを通る。虹をくぐる。 ここからは初めて見る世界だ! 「……!」 そこには、風ひとつなく、しんと凪いだ透明な湖があった。 …いや、透明ではない。 誰かの記憶が、一部一部映っている。 ……"誰か"じゃない。自分だ! ここに飛び込んでしまえ、行ってしまえ! あの、小学6年生の記憶へ! 「……どうしたんだよ、ぼーっとして。」 「…ふぇっ!?」 ……いる。 いる、いる、いる! 「こ、こうちゃんっ……!」 「うおっ!?おい、卒業式だからっていきなり抱きつくな!?」 ああ、泣いちゃいそう。 「こうちゃん、東京の私立の中学校行くんだよね……。」 「お、おう……」 「……長期休みのときとかに、帰ってきてね。……待ってるから!」 しあわせだ。 こんな安らかな日々が、これからも続いてほしかったなぁ。 「……じゃ、こうちゃん。…私もう行くね。」 「お、おい…!俺、」 「またね…!」 ひとつめの幻想を終わらせて、湖のもとへ戻る。 これで、少しは未来が変わったかな。 じゃあ次は、中学3年生の、あの時へ。 ぶわぁっと、鳥肌がたつ。 私が誰よりも恋焦がれた好きな人。 私は、とあることが怖かったんだ。 「…なつめ、ちょっといいかな。」 「ん?」 同じ女の子なのに大丈夫かな、とか嫌われたりしないかな、とか…… 「私、なつめのことずっと好きだったんだ。独りでいた私のこと、よく気にかけてくれたの……嬉しかった。」 「っ……!わたし……」 「ねえ……連絡先、交換するだけでも、してくれないかな……?」 嫌な答えは聞かなくていい。それが私の主義なのよ! 「……うん。」 私の未来は、どうかな。 雨のポツポツ音で目が覚める。 ……夢だったかぁ。 嫌だなぁ。学校行きたくないなぁ…… ピロン… 「……?」 スマホの通知を確認する。 『夏休みにそっち行くことになった。あと、言いたいことある。待ってて。』 『今日も学校がんばれー!いつでも応援してるからね。』 「……!」 ああ、幸せな今だ。