八十八本の槍
…探検家のレスターは、世界中に散らばる八十八本の槍を集めると会えるという世界の母、「マザー・シー」に会うべく、仲間とともに世界を旅していた。八十七本目の槍を手にした時の話である… 「これで八十、七、か。」レスターは、森に住む一族が代々守り継いできたという槍を手にして呟いた。 「あと一本だ!」 そう喜びを露わにしたのは、レスターの二つ年下の少年で、ヨシトという。 旅を始めて一年ほど経ったとき、森の魔女が拾ったというのをもらったのだ。彼は、「ブラックボックス」という収納系の便利なスキルを持っていたため、荷物持ち兼魔具による魔法使いとして重宝している。 「最後の一本、検討はついてるんでしょ?」 後ろから艶やかな声をかけたのは、生まれ持っての魔法使い、イーサ。身の上は隣の家の人すら知らず、謎の美女だ。 「うん。僕が冒険を始めたのもその話がきっかけだったしね。」 「八十七本の槍を手にして天を貫く山に立つ時、母は槍と共に現れる、か。まさに伝説だよね。」 「うん。しかし槍は実在した。しかも、伝説と同じ力を持っている。必ず会えるさ、マザーには。」 レスターは、太陽のほうを仰ぎ見た。そこには、伝説と同じ槍のような山がそびえたっている。 『天の槍』なんて名前が付けられたその山に、マザー・シーは現れるという。 早速、槍を譲ってくれた一族に礼を言ってからすぐにレスターたちは天の槍へと向かった。世界の母に会える、そんな夢を抱いて。 天の槍を自力で登ったのは、実質一人だけだ。ワープポイントを設置し、それからは誰もが頂上へ行けるようになった。 時に盗賊を倒し、時に王に謁見して懇願し、時に気さくな人々に譲られ、時には売り買いされていたものを買い求め。 そうして集めた槍を抱えて、レスターたちは頂上へと降りたった。 「…何も起こる気配、ないけど。これで合ってるの?」 「バカ、ヨシト。そんなすぐパーっとなること、御伽噺でもないだろ。しばらく待て。」 レスターがそうヨシトを抑えると、ふと、イーサがレスターの前に進み出て振り返った。 「どうかした?イーサ。」 「お疲れ様、レスター、ヨシト。お見事だったわ。」 そう言って、赤毛の美しい魔女は、持っていた魔法杖をレスターの前に突き刺した。 イーサ、と呟きかけて、レスターははっとした。隣のヨシトはよくわからずにぽかんとしていたが、レスターは少し前に言った一言を思い出していた。 ー槍って、案外近くにあったりするよな。イーサの持ってる魔法杖とか、ほんとは槍だったりしない?さすがにそれはないかー 「気づかれたかと思ってびっくりしたよ。君の正確に感謝しよう。」 「イーサ、どうしたの?なんか変だよ?」 隣にいたヨシトが、あどけなさの残る不安そうな声で聞いた。 イーサは、魔女らしい艶やかな笑みをたたえて、はっきりと言った。 「自分で言ったでしょ、レスター。探し物は案外近くにあるって。私があなたの探し物よ。」 「マザー・シー?」 「そう。ヨシト、槍を頂戴。あなたたちのお父さんに合わせてあげるから。」 ヨシトは、逆らわずにすんなりと槍を取り出した。 山のような槍が、浮遊魔法によって空中に浮かぶと、一瞬で一本の槍へとまとまった。 「神なる父の眷属よ、その主が元へ導け。ほら、槍を握ってて。置いてかれるわよ。」 逆らう力が出ず、なぜか体が従ってしまう。いわれるがまま槍を掴むと、いつの間にか目の前に一人の男性がいた。 「こんにちは、息子達。私は君らの世界の父だ。よろしく。」 「この楽園の主ってわけですか。」レスターは、光あふれる庭を見回して言った。 「百八の世界の父でもある。もっとも、唯一不完全な君らの世界だけがそんなに変化を持っているんだがね。」 シーと呼ばれている妻は、はるか昔に夫によって創造された。他の百七の妻と共に。 唯一、不完全な生物を生み出した世界の母、シーは、世界が完全すぎた故に自死を選んだほかのマザー達とは違った。 最も聡い母でもあり、シーはあることに気が付いていた。 これは夫である神も知らない。 私が創造されたのも、百七の母達が自死を選んだのも、果ては夫が生まれたのも、私だけ不完全なのも、すべては誰かの思惑によって生まれた事実である。私の思考から、世界の末端にいる生物が考える一言一句まで、すべては神を超える何かによって動かされている、と。 今はただ、誰もが運命の下で操り人形として生きている。