ボクとボクには不釣り合いなキミについて
キミがボクに自我を与えた。その時、それはほんの小さなもので、これまでのボクには無かっただけのものだった。 ボクはボク、キミはキミ。 たったそれだけの意識が、ボクの世界に色を与えた。 そう、残酷なまでに鮮やかな虹色を。 キミがボクの真っ白な毛皮に似合うと言ったのは、赤色だった。君たちの深く艶めく真っ赤なリボン。キミがボクの鬣の一部を束ねるのに使ったそれは、きみの言う通り、とても美しいものに思えた。 それでも、夕陽の橙色の光が差し込む部屋の中で、1番輝いていたのはキミの様に思えた。 その次の日。キミがまだキミのふかふかなベッドで寝息を立てている頃。ボクは初めて、キミの鏡を覗き込んだ。もちろん、こっそりと。ボクがそこで初めて見たのは、キミが昨日ボクにくれたリボンを探す一対の黄色い目。おずおずと伺う様にこちらを見つめ返してくるそれは、ボクの厚い鬣の奥深くで絡まっている惨めなリボンを見つけて、落胆の色に染まった。それが昨日持っていた艶を惜しむ様に、ボクはリボンを引っ張った。強く強く引っ張って、皮膚に痛みを覚え始めた時、キミは申し合わせた様に起き出して、ボクからリボンを解放した。ボクの様な肉球も、尖った爪もないキミの繊細な指先に摘まれた、くたびれたリボンはキミを落胆させ、キミはそれを床に放ってしまった。朝食を摂りに寝室を出ていくキミを、ボクはリボンを拾ってから追いかけた。 瑞々しい芝生を、黄緑色に輝かせる日光の中。ほっそりした足でひらひら跳ね回るキミの手に握られた、眩しく艶めきながらたなびくリボンを、ボクは必死で追いかける。キミは意地悪だ。ボクがキミよりも小さくて、自分には到底似合わない様なリボンを欲していることを知っている。不意に座り込んだキミは、ボクがキミの膝に頭を乗せるのを許してくれる。キミは、ボクにないはずの記憶を想起させてしまうような優しい匂いをさせている。地を踏むためではない、高等な優しい指で、ボクの鬣にリボンを新たに結んでくれる。ボクはそれに尻尾を振って喜びを示す。 キミの優しさが、ボクには不釣り合いなほどに良いものと知っていながら、それに縋り付いてしまう。