ツバキの花と無償の友情
私の名前は楓花(ふうか)。ごく普通の小学5年生、と言っても、どこか華のない、地味な顔立ちで、どこにいても影の薄い存在だった。 晩秋の少し肌寒い風の吹くある日の放課後。いつも学校からの帰り道に通る公園。今は11月だから、公園の花壇にはツバキの花が咲き乱れている。「きれいだなぁ。」なんて、ぼうっとツバキの花を見ていたら、花壇の傍に立っていた女の子と目が合ってしまった。 「こんにちは」 「あ、こんにちは……」 挨拶を交わすと、私はつい女の子をじろじろと見てしまった。女の子は、少し黄色がかった瞳をしていて、髪はツバキの花のようなショッキングピンク色。同じくショッキングピンク色のワンピースを着ていて、腰まで伸びた長い髪にはツバキの花ような髪飾りをつけていた。顔立ちは日本人らしいけど、日本人にしては瞳と髪の色が派手すぎる。そんなことを思っていたら、女の子が話しかけてきた。 「私、椿姫(つばき)って言うの。あなたは?」 「私は、楓花」 「そう。かわいい名前ね。よろしくね」 「うん、よろしくね」 その後も、その女の子──椿姫とちょっとおしゃべりをした。 「私、今まで友達ができたことがなかったから、今、こうやって椿姫と話せて嬉しいの。私、一人っ子だし、親も共働きだから、学校でも家でもほとんど一人ぼっちなんだよね。そういえば、椿姫って兄弟とかいるの?何人家族なの?」 少し沈黙を置いて、椿姫はこう答えた。 「私に家族はいないんだ」 「じゃあ、どこで暮らしているの?」「どうやって生活してるの?」などと聞きたいことはたくさんあったが、どこか深い哀しみを感じさせる笑顔でそう言う椿姫には、これ以上何も聞いてはいけない気がした。 次の日。朝、学校に行く途中に昨日の公園に通りかかった。そしたら、また椿姫にあった。しかも、場所も昨日と全く同じ。 「おはよう、椿姫。こんな時間に何してるの?」 「楓花、おはよう。あっ、私のことはいいから……早くしないと、学校に遅れちゃうよ。いってらっしゃい。」 そう、私の質問の答えを濁すかのように、椿姫は少し焦った調子で言った。私は、そんな椿姫の態度が気になったが、時間がなかったから、そのまま学校に行ってしまった。 椿姫と出会ってから、2週間ほど経った頃。放課後、いつも通り公園の前を通りかかったが、椿姫はいなかった。いつも椿姫が立っていた傍にある花壇のツバキの花も、もう落ちてしまっている。このときは、「風邪でもひいたのかな?それだったら、というかそうじゃなくても、すぐにまたここで会えるはず」と思っていたが、さらに2週間経っても椿姫には会えなかった。 椿姫には会えないまま、月日だけが流れていき、12月になった。今日も、椿姫に会えることを信じて、公園の花壇のあたりで椿姫を探した。しかし、いくら探しても、やはり椿姫はいなかった。もう椿姫に会うことはできないのかな、そう思い、私は公園の中にあるベンチに腰を下ろした。 今まで椿姫と過ごしてきた楽しい日々を想うと、涙が溢れてくる。でも、こんな風にいつまでも泣いてなんかいられない。あの日、椿姫が私に話しかけてくれたときのように、今度は私の方が椿姫に会いに行き、話しかけよう。いくら待っていても、何も起きない。 (椿姫、待っててね。私が絶対に、椿姫を見つけるから──!) このときの楓花はまだ、椿姫がツバキの花の妖精だということ、そして椿姫はツバキの花が咲く時期にしか現れないことを知らなかった──。