君からのひとこと
「好きだ」 花火があがる夜の中の、君からのひとこと。 ミーンミンミンミンミン 「ん~まさに夏って感じだね~。ねっ、和也っ」 背伸びをしながら、となりを歩いていた和也に尋ねる。 「そうだな~もう夏だしな~、早くプール学習はじまんないかな~。女子の水着姿、早く見たいな~」 ニヤつく和也。 「んも~。ほんとチャラいんだから」 頬を膨らます。 そう、彼はチャラい系男子なのだ。 そして、私たちが通っている高校は珍しくプール学習があるのだ。 って、自己紹介がおくれてた、私は九条綾子。16歳の高1。 となりの彼は、私と幼馴染である斎藤和也。 そして、私の片思い中の人。 小さい時に川に落ちそうになった私を助けてくれた。 多分、その時から好きになっていたんだと思う。 「あっ、そういえばさ綾子。夏祭りってもうすぐだよな」 (そういえばもう、そんな時期か~) ここら辺の地域では私たちが通っている学校の校庭を使って、夏祭りが開かれることになっているのだ。 「確か、来週の土曜だったけど」 (和也は誰と行くんだろう) 「来週か~。ありがとな教えてくれて」 白い歯を見せる和也。 (その顔はずるいよ~。よし!一か八かで聞いてみるか) 「か、和也は誰と行くの?」 和也がこっちを振り向き、驚いた顔をする。 そしてすぐに、いたずら顔をする。 (和也はたまにこういう顔をするよな~) 「きゃっ!」 和也が近くにあった塀に壁ドンしてくる。 近くに人の気配は無い。 「何?」 いたずら顔の和也が上から見下ろす。 「ふん、俺わかったぞ。お前、俺と行きたいんだろ」 …! 「いいぜ。一緒に行ってやるよ」 (ばれたけど、誘う前に誘ってくれたからいいか) 「どうも」 一応お礼を言う。 和也が歩き出す。なぜか耳が真っ赤になっていた。 一週間後の土曜日。 ついにこの時が来た。 (集合時間まで、後20分) あの後、歩きながら集合時間と場所を決めておいたのだ。 場所は家から一番近い交差点。あそこまでは、約5分で着く。 お母さんが昔着ていた黒で、金魚の浴衣に着替えて、髪もセットして準備OKだ。 もう一度、身だしなみチェックをする。 (緊張してきた) 和也と行くのは初めてじゃないけど、二人きりで行くのは初めてだ。 (集合時間まで、後15分…。よし、行くか) 「行ってカきます」を言って家を出る。 カッカッカッカ げたで歩く音がする。 実は、屋台は明日まで出ているから、今日だけしか無い花火を見ることになっているのだ。 交差点が見えたのと同時に、深緑一色の浴衣を着た和也が見える。 (先に来てたんだ) 「っお、来たか。なかなか可愛いじゃん」 「和也もなかなかね」 そっぽを向く。 (何を言っているんだ私!かっこいいとか言わなきゃダメでしょうが) 「じゃ、行こっか」 歩き出す二人。 どんどん学校の方に行くにつれて、人が増えて行く。 そっと、となりから手が差し伸べられる。 「はぐれねえように手、つなぐぞ」 「え、あ、うん」 手をつなぐ。 (えあうんってなんだよ、もっと良い言い方あったでしょうが) 会場に着くと、いつも平凡な校庭が綺麗に見えた。 「教室行こうぜ」 「うん」 この夏祭りは学校の校庭を使用しているため、もちろん校舎が近くにある。 この地域に住んでいる人なら、中に入っても良いことになっているのだ。 和也が扉を開ける。中に人は誰もいなかった。 「どうぞ」 紳士のように私を中に招く、和也。 幼馴染だとしても初めて見る光景だ。 二人で、窓の近くに行く。 花火があがるまで、残り3分。 「花火、楽しみだな」 和也の方を見る。 校舎から見える会場を見下ろしている姿は、屋台の灯りのせいかとても綺麗に見える。 「可愛い女の子、発見!」 それにしても、チャラいのはそのままだ。 (さっきの紳士っぽいのはどこいっちゃったのよ) ピンポンパンポーン 放送が鳴る。 「只今から、第63回愛野花火大会を始めます。夜空をご覧ください」 夜空を見上げる。 ヒューーーードーン 花火があがる。 それにつれて休むことなく、花火があがっていく。 ドーーーーン 最後の花火があがる。 「好きだ」 彼からのひとこと。 そして、今年の花火大会は終了したのだった。