海
じいちゃんが死んだ。 昔、じいちゃんがよく言っていた事を思い出す。 村1番の漁師だったじいちゃんは俺と一緒に海に行く度に 『海は恵みだ。海がなければ俺らは生きていけない。 けどそんな海が人の命をさらっていく事だってある。』 と言って、微笑む。 俺にはまだその意味が分からない。大好きで俺の自慢だった、じいちゃん。 じいちゃんは死ぬ間際に何を思ったのだろう。じいちゃんはいつも優しくて、 頼れて、俺が間違っているときはいつも叱ってくれる。 それに比べて俺は何だろう?優しくもないし、特に何かが秀でているわけでもない。 唯一の趣味は海を眺めたり魚を釣ることだ。将来の夢なんて叶うはずないのに、 俺はじいちゃんみたいな立派な大人になりたい。 憂鬱な気持ちの時は穏やかな海を眺めたらいつもは少し落ち着く。 けど、今日は違かった。怖くなって海に背を向けて、走り出す。真っ黒な心の波が押し寄せてくるみたいだ。 苦しい。息が出来ない、足が痛い、寒い、苦しい。 ねぇ、じいちゃん。 じいちゃんの言っていた意味がようやく分かったよ。 俺は微笑んで、すっと意識を手放した。