甘い、苦い。
清水幸人は、甘いものが苦手だ。恋愛とかごたごたしたものも嫌いで、しかしそんな態度が逆に「クール」と好感を買っている。そんな彼が、恋をした。相手は幼馴染の工藤由紀。最初の頃は、「名前が似ているな」としか思わなかったのだが、次第に彼女に惹かれていったのだ。 「ねえ幸人、ここってさ、どうやればいいの?」 「ああ、ここは…」 幸人と由紀はたった二人しかいない手芸部の部員だ。放課後は由紀と肩を並べて作品を作っている。 「ああ、もう分からない!ちょっと休憩しようよ」 「休憩って、まだ……十分くらいしか経ってないよ」 「幸人は細かいなあ。ほら、アイスあるから一緒に食べようよ」 と、由紀が弁当を入れるようなバッグから取り出したのは二本のアイスキャンディーだった。 「保冷剤をいっぱい入れて、溶けないようにしたの」 由紀はどこか自慢げに薄い胸を張る。 「いや、ドヤ顔しているけど、どうしてそんなもの学校に持ってきているの」 「幸人と食べるために決まっているじゃない。ほら、どうぞ」 「……ありがとう」 包装を破って、水色のアイスを口に入れる。濃い甘みと淡い酸味がほどよくマッチしている。 「おいしいでしょ?」 笑顔でこちらをみてくる由紀に、思わず幸人は言ってしまった。 「好きだ」 「え、好きって……アイス、だよね?」 由紀から、笑みが消えていく。その反応で、もう答えは分かってしまった。 「由紀が……好きだ」 すると、数秒固まった由紀は目を伏せ言った。 「ごめん、幸人。……今日は帰る」 それは、帰ることではなく幸人の告白に対する「ごめん」だった。幸人は無造作にアイスを口に持っていく。先ほどは甘すぎると感じたアイスが、なぜか少し苦く感じた。