カスミソウに包まれて。(長めです)
「もう瑠唯なんて嫌い!」
たった些細な喧嘩でこんなことになるとは思わなかった。彼女の若葉はお揃いで買ったスニーカーを履いて家を飛び出してしまった。
瑠唯は若葉と同じスニーカーを履いて追いかける。
必死に、ただひたすら走った。
この周辺はすっかり暗くなって車もかなり通るから危ない。
若葉になにかあったらどうしよう。
ただそれだけを考えていた。
しばらく走った視線の先には、人だかりが出来ていた。嫌な予感がした。
「すみません。通してください」
人混みを掻き分け、景色が開けると今履いているスニーカーより小さいスニーカーの片方が落ちていた。
「嘘やろ」
そのスニーカーの奥の方で女性が血を流して倒れていた。若葉だった。若葉の隣にはトラック。その隣にはトラックのドライバーらしき人物が立っていた。顔面蒼白だった。
「誰か救急車急いでお願いします!!」
こんな酷い状況の中、誰も救急車を呼んでいなかった。瑠唯のよく通る声のおかげで救急に電話をかける人が出たのだった。
「若葉!死なんといてや」
理解が追い付かなかった。
彼女が事故に遭って死ぬ?まるで泣ける映画のワンシーンじゃないか。
これは夢だ。きっと。
だが、何度そう思っても夢は覚めず、彼女を抱き締めることしか出来なかった。
「いつもみたいに返事してや」
そうしている間に救急車が到着した。もう手遅れな若葉と瑠唯は救急車に揺られた。
救急車に揺られた20分。若葉がほんの少しだけ意識を取り戻した瞬間があった。
「若葉!ごめん、ごめんなぁ」
「だいすき」
「俺もやで!なぁ、俺ら結婚するんやろ?!置いていかんといてや。まだようさんすることあるんやで?」
涙でぐちゃぐちゃな瑠唯の顔を見て、若葉は最後の力を振り絞る。
「あいして、」
『ピーー』
心電図のモニターがゼロになった。
瑠唯はもう泣けなかった。
あれから3週間が経った。
何もする気力が沸かない。夜道を歩いていたら懐かしい気配がした。
ふと、後ろを振り返る。
誰もいない。
「そうだよな」
暗くなった店のガラスには反射した自分の姿と彼女がいた。
「あれ、顔色悪くない?鉄分…幽霊ってご飯食べれるん?」
うっすら微笑む彼女は宙に浮いている。
「飼ってたわんちゃんには会えた?」
「うん、会えたよ」
「そうか」
「ねぇ怖くないの?」
彼女は不安げな声でたずねる。
「怖いどころか心配やで?俺はな」
「相変わらず優しいね」
若葉は生きている頃と何も変わらなかった。
貧血で血色の悪い白肌も眠たげな瞳も何も変わらなかった。
「49日になるまで一緒にいてもいい?」
「もちろん」
眠くなると熱くなるその小さな手の温もりを、もう一度握って思い出したかった。
若葉に手を伸ばす。その手は彼女の体を通り抜けた。
「触れないんだよ」
若葉ば悲しげに笑う。
「触れなくても、側におってくれるだけで嬉しい」
すると、彼女は「優しいね」と言ってどこかへ消えてしまった。
床には涙の跡があった。
「この前は消えちゃってごめん。今日はずっと一緒にいてもいい?」
「今日はじゃなくて。消えてしまうまで、ずっと一緒におって」
若葉の白い顔は桜色に染まっていた。
彼女は深夜2時に現れることが多い。丑三つ時だからだろうか。
「前みたいに一緒に寝よか」
彼女はだんだん笑顔になって元気な返事をした。
隣で眠る彼女は美しかった。
彼女が消えてしまうまで残り5日。
瑠唯は彼女の頬に触れる。
やはり通り抜けてしまうが、触れている気がした。ほんのり温かかったから。
朝日で目が覚めた。若葉の白肌が照らされ透ける。凄く綺麗だった。
「おはよ」
「なんか薄くない?」
彼女が前に腕を出すと瑠唯の顔が透けて見えた。
「消える日が近づくと色も薄くなるみたい。ねぇ、二度寝しようよ」
彼女に誘われ、また布団に入る。
贅沢な二度寝だった。残り4日。
3日目はたくさん写真を撮った。2日目は若葉の行きたいところへ車でドライブしながら向かった。
そして最後の日。
「もうお別れなんだね」
「せやな」
沈黙が流れる。
「なぁ、成仏するぐらいならいつまでも恨んどいて?俺があんなん言わな若葉はこんなことにならんかった」
瑠唯は泣いていた。若葉は瑠唯を抱き締める。
「消えんといて。お願い。幽霊でいいから側にいて」
若葉はもう消えかかっていた。
「一緒にいられて幸せだったよ。あの時追いかけてくれて嬉しかった。ずっと大好きだよ」
優しさだけ残して消えてしまった。
あれから何年経っただろう。
瑠唯はずっとスマホの待ち受け画面を彼女の寝顔にしていた。
それをみた友人は「彼女?」と冷やかす。
「違う。おばけだよ」
画面を愛おしそうに見つめ、微笑んだ。
タイトルなんですが、よかったらカスミソウの花言葉調べてみてください! 瑠璃さん(選択なし・15さい)からの相談
とうこう日:2023年7月27日みんなの答え:2件
たった些細な喧嘩でこんなことになるとは思わなかった。彼女の若葉はお揃いで買ったスニーカーを履いて家を飛び出してしまった。
瑠唯は若葉と同じスニーカーを履いて追いかける。
必死に、ただひたすら走った。
この周辺はすっかり暗くなって車もかなり通るから危ない。
若葉になにかあったらどうしよう。
ただそれだけを考えていた。
しばらく走った視線の先には、人だかりが出来ていた。嫌な予感がした。
「すみません。通してください」
人混みを掻き分け、景色が開けると今履いているスニーカーより小さいスニーカーの片方が落ちていた。
「嘘やろ」
そのスニーカーの奥の方で女性が血を流して倒れていた。若葉だった。若葉の隣にはトラック。その隣にはトラックのドライバーらしき人物が立っていた。顔面蒼白だった。
「誰か救急車急いでお願いします!!」
こんな酷い状況の中、誰も救急車を呼んでいなかった。瑠唯のよく通る声のおかげで救急に電話をかける人が出たのだった。
「若葉!死なんといてや」
理解が追い付かなかった。
彼女が事故に遭って死ぬ?まるで泣ける映画のワンシーンじゃないか。
これは夢だ。きっと。
だが、何度そう思っても夢は覚めず、彼女を抱き締めることしか出来なかった。
「いつもみたいに返事してや」
そうしている間に救急車が到着した。もう手遅れな若葉と瑠唯は救急車に揺られた。
救急車に揺られた20分。若葉がほんの少しだけ意識を取り戻した瞬間があった。
「若葉!ごめん、ごめんなぁ」
「だいすき」
「俺もやで!なぁ、俺ら結婚するんやろ?!置いていかんといてや。まだようさんすることあるんやで?」
涙でぐちゃぐちゃな瑠唯の顔を見て、若葉は最後の力を振り絞る。
「あいして、」
『ピーー』
心電図のモニターがゼロになった。
瑠唯はもう泣けなかった。
あれから3週間が経った。
何もする気力が沸かない。夜道を歩いていたら懐かしい気配がした。
ふと、後ろを振り返る。
誰もいない。
「そうだよな」
暗くなった店のガラスには反射した自分の姿と彼女がいた。
「あれ、顔色悪くない?鉄分…幽霊ってご飯食べれるん?」
うっすら微笑む彼女は宙に浮いている。
「飼ってたわんちゃんには会えた?」
「うん、会えたよ」
「そうか」
「ねぇ怖くないの?」
彼女は不安げな声でたずねる。
「怖いどころか心配やで?俺はな」
「相変わらず優しいね」
若葉は生きている頃と何も変わらなかった。
貧血で血色の悪い白肌も眠たげな瞳も何も変わらなかった。
「49日になるまで一緒にいてもいい?」
「もちろん」
眠くなると熱くなるその小さな手の温もりを、もう一度握って思い出したかった。
若葉に手を伸ばす。その手は彼女の体を通り抜けた。
「触れないんだよ」
若葉ば悲しげに笑う。
「触れなくても、側におってくれるだけで嬉しい」
すると、彼女は「優しいね」と言ってどこかへ消えてしまった。
床には涙の跡があった。
「この前は消えちゃってごめん。今日はずっと一緒にいてもいい?」
「今日はじゃなくて。消えてしまうまで、ずっと一緒におって」
若葉の白い顔は桜色に染まっていた。
彼女は深夜2時に現れることが多い。丑三つ時だからだろうか。
「前みたいに一緒に寝よか」
彼女はだんだん笑顔になって元気な返事をした。
隣で眠る彼女は美しかった。
彼女が消えてしまうまで残り5日。
瑠唯は彼女の頬に触れる。
やはり通り抜けてしまうが、触れている気がした。ほんのり温かかったから。
朝日で目が覚めた。若葉の白肌が照らされ透ける。凄く綺麗だった。
「おはよ」
「なんか薄くない?」
彼女が前に腕を出すと瑠唯の顔が透けて見えた。
「消える日が近づくと色も薄くなるみたい。ねぇ、二度寝しようよ」
彼女に誘われ、また布団に入る。
贅沢な二度寝だった。残り4日。
3日目はたくさん写真を撮った。2日目は若葉の行きたいところへ車でドライブしながら向かった。
そして最後の日。
「もうお別れなんだね」
「せやな」
沈黙が流れる。
「なぁ、成仏するぐらいならいつまでも恨んどいて?俺があんなん言わな若葉はこんなことにならんかった」
瑠唯は泣いていた。若葉は瑠唯を抱き締める。
「消えんといて。お願い。幽霊でいいから側にいて」
若葉はもう消えかかっていた。
「一緒にいられて幸せだったよ。あの時追いかけてくれて嬉しかった。ずっと大好きだよ」
優しさだけ残して消えてしまった。
あれから何年経っただろう。
瑠唯はずっとスマホの待ち受け画面を彼女の寝顔にしていた。
それをみた友人は「彼女?」と冷やかす。
「違う。おばけだよ」
画面を愛おしそうに見つめ、微笑んだ。
タイトルなんですが、よかったらカスミソウの花言葉調べてみてください! 瑠璃さん(選択なし・15さい)からの相談
とうこう日:2023年7月27日みんなの答え:2件
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感動! カスミソウの花言葉は「清らかな心」「無邪気」「幸福」「感謝」「親切」です! 和鼓さん(和歌山・12さい)からの答え
とうこう日:2023年9月9日 -
すごい こんにちははーちゃんです!
ほんとにすごいですね。
瑠唯と若葉は特別でもないただ普通の友達だけど他の人には見えないすごく素敵な関係なんだろうなと思いました。
こんなことはあってはいけない。でもこういうときこそ何故か起きるんですよね。友達や家族についてもう一度考えてみようと思える素敵なお話でした。
素敵なお話を書いてくれてありがとう(><) はーちゃんさん(選択なし・12さい)からの答え
とうこう日:2023年9月5日
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