楽し あやかし 妖怪まつり。
楽し、あやかし、妖怪まつり。
タタタッと、小さな足音が長い廊下に響く。
外見は洋風だが、中は和風。
畳などは無いけれど、洋風にも合うような和風の家具が置かれている。
「狐夜さん、キヨさんっ!」
小さな子供の高い声。
ドアを開けると共に入ってきたのは、
艶々とした白い髪を短く、今でいう、ボブカットにしている女の子。
雪の結晶の刺繍など、夏に似合わぬ柄の着物を着ている。
「狐夜さん、見てくださいこれ!」
大切そうに握りしめているチラシ。
女の子が近づくたび、夏の暑苦しさを飛ばすような涼しさが強くなる。
私はチラシを受け取ると、ああ、と思った。
チラシには『七夕まつり』とでかでかと印刷されている。
近所で毎年、七夕の日に行っている夏のまつりだ。
このあたりではかなり有名で、大きなまつりといえる。
「雅雪、これに行きたいの?」
この子の名前は雅雪(ミユ)。
見た目は人間の子どもだが、全然違う。
雪女の子ども、雪ん子だ。
もう何十年も生きていると思うが、妖怪の中ではまだ子供。
だが、本人は「自分は雪女で、もう大人だ!」と言い張っている。
「つららさんの許可はもらった?」
つららさんとは、正真正銘の雪女。
雅雪の姉のような存在だという。
「ねえ様は、まつりに行く事を、許可してくださいました!」
雅雪がきらきらと輝く瞳でそう言う。
すると、音も無く、静かに優雅にいつの間にかやってきたつららさんが、
「ごめんなさいね、狐夜。たまには、こういう行事も良いかと思って。この子とふたりで行ってやってくださらない?わたくしは行けなくて…」
と言った。
私もつららさんの意見に賛成だ。
たまには、こういう娯楽も良いかと思う。
遅れたが、私の名は狐夜(キヨ)。
妖怪の、『九尾の狐』だ。
名の通り、九本の尾がある。
私は狐といえど、普段は人間の体に、9本の尾、狐の耳が生えているという、
人間と狐の間ぐらいの格好をしている。
これが何かと、一番楽なのだ。
「では、行こうか。雅雪、雪を出さぬよう、気を付けてね」
「はいっ!」
雅雪のこころの底から嬉しそうな声。
私も楽しみになってきた。
「狐夜さん、何もこんなに早くから準備されなくても…。行くのは夜ですよ?」
雅雪が少し戸惑った表情をする。
今は午後の4時、まつりに行くのは夜7時だ。
もう少し時間が欲しいぐらいなのに、何を言う。
私は、夏をイメージした着物を雅雪に着付けていく。
夏のイメージだが、水色の生地で、柄も、涼し気が満載だ。
後は髪を軽く結い、かわいらしい簪をつける。
その後は私だ。
つららさんに少し手伝ってもらいながら、
金色や黄色。
全体的に温かみのある暖色を使った着物を着付ける。
着物には皆、慣れているが、洒落たものなので、はしゃいでいる。
後は、花の簪をつけ、
軽く化粧をする。
耳や尾は目立つし、人混みの中では邪魔なので、閉まっておく事にした。
「雅雪、妖怪だとバレると、後々面倒で大変だから、隠しなさいね」
「わかっています。狐夜さん!」
長く生きていると、色々な事が出来るようになる。
妖怪なんて、人間のふりをして、混ざっている事はたまにある。
人間と同じように、楽しむのだ。
「素敵よ。雅雪、狐夜。いってらっしゃい」
雅雪は下駄でスキップをしながら、歩く。
私はその後ろ姿を見つめながら、ゆっくりと歩いた。
まだまつりの場所まで少し距離があるのに、
道には浴衣や甚平を着た人、
涼しそうな洋服を着た人で賑わっていた。
わたあめや、ビニール袋に入れられた金魚を持つ人もいる。
みんな揃って笑顔だ。
私は空を見上げ、うっすら微笑む。
もう七時だというのに、空にはまだ太陽の面影があった。
夏の夜は短い。
―おしまい― ‐FUSHIGI‐.さん(選択なし・11さい)からの相談
とうこう日:2024年7月18日みんなの答え:2件
タタタッと、小さな足音が長い廊下に響く。
外見は洋風だが、中は和風。
畳などは無いけれど、洋風にも合うような和風の家具が置かれている。
「狐夜さん、キヨさんっ!」
小さな子供の高い声。
ドアを開けると共に入ってきたのは、
艶々とした白い髪を短く、今でいう、ボブカットにしている女の子。
雪の結晶の刺繍など、夏に似合わぬ柄の着物を着ている。
「狐夜さん、見てくださいこれ!」
大切そうに握りしめているチラシ。
女の子が近づくたび、夏の暑苦しさを飛ばすような涼しさが強くなる。
私はチラシを受け取ると、ああ、と思った。
チラシには『七夕まつり』とでかでかと印刷されている。
近所で毎年、七夕の日に行っている夏のまつりだ。
このあたりではかなり有名で、大きなまつりといえる。
「雅雪、これに行きたいの?」
この子の名前は雅雪(ミユ)。
見た目は人間の子どもだが、全然違う。
雪女の子ども、雪ん子だ。
もう何十年も生きていると思うが、妖怪の中ではまだ子供。
だが、本人は「自分は雪女で、もう大人だ!」と言い張っている。
「つららさんの許可はもらった?」
つららさんとは、正真正銘の雪女。
雅雪の姉のような存在だという。
「ねえ様は、まつりに行く事を、許可してくださいました!」
雅雪がきらきらと輝く瞳でそう言う。
すると、音も無く、静かに優雅にいつの間にかやってきたつららさんが、
「ごめんなさいね、狐夜。たまには、こういう行事も良いかと思って。この子とふたりで行ってやってくださらない?わたくしは行けなくて…」
と言った。
私もつららさんの意見に賛成だ。
たまには、こういう娯楽も良いかと思う。
遅れたが、私の名は狐夜(キヨ)。
妖怪の、『九尾の狐』だ。
名の通り、九本の尾がある。
私は狐といえど、普段は人間の体に、9本の尾、狐の耳が生えているという、
人間と狐の間ぐらいの格好をしている。
これが何かと、一番楽なのだ。
「では、行こうか。雅雪、雪を出さぬよう、気を付けてね」
「はいっ!」
雅雪のこころの底から嬉しそうな声。
私も楽しみになってきた。
「狐夜さん、何もこんなに早くから準備されなくても…。行くのは夜ですよ?」
雅雪が少し戸惑った表情をする。
今は午後の4時、まつりに行くのは夜7時だ。
もう少し時間が欲しいぐらいなのに、何を言う。
私は、夏をイメージした着物を雅雪に着付けていく。
夏のイメージだが、水色の生地で、柄も、涼し気が満載だ。
後は髪を軽く結い、かわいらしい簪をつける。
その後は私だ。
つららさんに少し手伝ってもらいながら、
金色や黄色。
全体的に温かみのある暖色を使った着物を着付ける。
着物には皆、慣れているが、洒落たものなので、はしゃいでいる。
後は、花の簪をつけ、
軽く化粧をする。
耳や尾は目立つし、人混みの中では邪魔なので、閉まっておく事にした。
「雅雪、妖怪だとバレると、後々面倒で大変だから、隠しなさいね」
「わかっています。狐夜さん!」
長く生きていると、色々な事が出来るようになる。
妖怪なんて、人間のふりをして、混ざっている事はたまにある。
人間と同じように、楽しむのだ。
「素敵よ。雅雪、狐夜。いってらっしゃい」
雅雪は下駄でスキップをしながら、歩く。
私はその後ろ姿を見つめながら、ゆっくりと歩いた。
まだまつりの場所まで少し距離があるのに、
道には浴衣や甚平を着た人、
涼しそうな洋服を着た人で賑わっていた。
わたあめや、ビニール袋に入れられた金魚を持つ人もいる。
みんな揃って笑顔だ。
私は空を見上げ、うっすら微笑む。
もう七時だというのに、空にはまだ太陽の面影があった。
夏の夜は短い。
―おしまい― ‐FUSHIGI‐.さん(選択なし・11さい)からの相談
とうこう日:2024年7月18日みんなの答え:2件
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凄すぎィ! 凄かった!面白かったし,もしも本当にお化けが人間界に混ざっていたらと思うと面白すぎます。
続きを書いてほしい!って思ったけど短編小説連載終わってるんだよなぁ...残念無念再来年。 【猫の子】さん(その他(海外)・13さい)からの答え
とうこう日:2024年10月26日 -
面白い!! 妖怪がたくさん出てきて面白い。
和風な感じで世界観が好き!
あなたにエールを届けます! きみかさん(選択なし・11さい)からの答え
とうこう日:2024年10月25日
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