天使と悪魔
悪魔はいつだって自由で、自分勝手で、強かった。
一人でいるのが楽だったから、いつも一人だった。
だけど、ある日を境に悪魔は変わった。
悪魔はいつも同じものを目で追うようになった。
そんな悪魔の目線の先には、1人きりで佇む天使がいた。
弱くてすぐに消えてしまいそうなほど儚いその天使は、片方の翼を無くしていた。
片翼しかなければ空を飛べない。空を飛べなければ仕事ができない。仕事ができない天使は、ただの役立たずだ。役立たずになると、いずれ堕ちていくしか先はない。
この天界には、そんな天使に話しかける者や気にかける者など存在しなかった。…たった1人を除いては。
「こんにちは」
悪魔は天使に近づくと、無邪気に微笑みそう言った。何かを企む様子はなく、まるで無垢な子どものように。
ただ、何も知らない天使は困惑した。何故悪魔が?何故こんな片翼の天使なんかに?
悪魔がこちらをじっと見つめてきているので人違いだということはありえない。では何故?天使はわからなかった。だから何も言えなかった。
「こんにちは」
悪魔はまた同じ言葉を繰り返した。
「……こんにちは」
流石に何も言わないのは悪いと思った天使は、戸惑いながらも挨拶を返した。
「何してたの?」
天使からの返答が嬉しかったのか、悪魔は心做しか楽しそうな声色になった。
そんな悪魔の問いかけに天使は俯きがちに答えた。
「……何も。自分にできることなんてないし……」
「できることがない?あるはずだよ」
「でも、片翼だし、飛べないし……何もできないからただの役立たずだよ」
「でも、何か仕事をすれば役立たずにはならないでしょ?」
「だから…!こんな自分にできる仕事なんてないの」
「あるよ。君にもできる仕事。着いてきて」
そう言うと悪魔は、天使の手を引いてどこかへ向かっていった。天使はわけがわからなかった。
この天界で、昔から悪魔と天使は対立していた。双方ともに関わり合うのを嫌がり、自然と壁を作るようになっていた。
それなのに、だ。この悪魔は天使に自然と話しかける。まるでそんな話は知らないとでもいうかのように。
「――着いた」
それは天使の初めてみる光景だった。
悪魔と天使が仲睦まじく暮らしていたのだ。
それも、随分と楽しそうに。
天使は衝撃を受けた。今まで過ごしていた世界が全否定されたかのような衝撃。けれど、悲しみや怒りとは違う温かな気持ちだった。
「……あ!カインだ!お帰り!」
「本当だ!カイン!」
「あはは、ただいま」
悪魔のもとに子どもたちが駆け寄っていく。嬉しそうに、カインという名を呼びながら。それに悪魔も笑顔で応える。
――平和だった。
「カイン……?」
「そう、カイン。いいでしょ?ここには名前があるんだよ」
「名前……」
「君もここで暮らすといいよ。ここならどんな仕事だってあるし。まあ、君が良かったらだけどね」
カインは悪戯っぽく笑った。天使も笑った。それは、片翼をなくしてから初めて見せる笑顔だった。
「名前、つけてくれない?」
「いいよ。じゃあ……フィナっていうのはどうかな」
「フィナ……フィナ、すごく素敵。ありがとう」
フィナはとても嬉しそうに微笑んだ。
それからフィナはカインやそこにいる者たちと一緒に暮らした。そこには、片翼だから、天使だからなどという理由で避ける者はいなかった。それがフィナにとって、この上ない幸せだった。
「ねぇカイン。あのとき……初めて出会ったとき、どうして声をかけてくれたの?」
「……多分、自分と似ていると思ったからかな」
「似ている?」
「そう。自分もあの場所では1人だったんだ。誰も話しかけてくれないし、話しかけようとも思わなかった」
「うそ、カインが?」
「両親が天使と悪魔だったんだよ。ほら、一般的にはさ、天使と悪魔は対立した関係でしょ?だから、天使とのハーフだと知られた途端、裏切り者だとか気色悪いとか言われて避けられたんだよ」
「そんな、ひどい!」
「……だから、フィナを見たときに放っておけなくなったんだと思う。避けられる辛さは知ってたからね」
「天使も悪魔も、何も変わらないのにね。人間を甘やかし過ぎた悪魔の後片付けをする天使と、人間の欲望を抑えつけ過ぎた天使の後片付けをする悪魔。どちらかだけじゃ駄目で、どちらもいないと成立しない。見た目だけで決めつけるのは良くない……って、それもカインと出会ったおかげで気づけたことなんだけどね」
「片翼だからって飛べないわけじゃないしね」
フィナが照れくさそうに言った後、カインは付け足すようにそう言って笑った。
2人は笑い合い、どちらともなく手を繋ぐと、青くてきれいな空を飛んでいった。 かささん(選択なし・14さい)からの相談
とうこう日:2024年9月25日みんなの答え:0件
一人でいるのが楽だったから、いつも一人だった。
だけど、ある日を境に悪魔は変わった。
悪魔はいつも同じものを目で追うようになった。
そんな悪魔の目線の先には、1人きりで佇む天使がいた。
弱くてすぐに消えてしまいそうなほど儚いその天使は、片方の翼を無くしていた。
片翼しかなければ空を飛べない。空を飛べなければ仕事ができない。仕事ができない天使は、ただの役立たずだ。役立たずになると、いずれ堕ちていくしか先はない。
この天界には、そんな天使に話しかける者や気にかける者など存在しなかった。…たった1人を除いては。
「こんにちは」
悪魔は天使に近づくと、無邪気に微笑みそう言った。何かを企む様子はなく、まるで無垢な子どものように。
ただ、何も知らない天使は困惑した。何故悪魔が?何故こんな片翼の天使なんかに?
悪魔がこちらをじっと見つめてきているので人違いだということはありえない。では何故?天使はわからなかった。だから何も言えなかった。
「こんにちは」
悪魔はまた同じ言葉を繰り返した。
「……こんにちは」
流石に何も言わないのは悪いと思った天使は、戸惑いながらも挨拶を返した。
「何してたの?」
天使からの返答が嬉しかったのか、悪魔は心做しか楽しそうな声色になった。
そんな悪魔の問いかけに天使は俯きがちに答えた。
「……何も。自分にできることなんてないし……」
「できることがない?あるはずだよ」
「でも、片翼だし、飛べないし……何もできないからただの役立たずだよ」
「でも、何か仕事をすれば役立たずにはならないでしょ?」
「だから…!こんな自分にできる仕事なんてないの」
「あるよ。君にもできる仕事。着いてきて」
そう言うと悪魔は、天使の手を引いてどこかへ向かっていった。天使はわけがわからなかった。
この天界で、昔から悪魔と天使は対立していた。双方ともに関わり合うのを嫌がり、自然と壁を作るようになっていた。
それなのに、だ。この悪魔は天使に自然と話しかける。まるでそんな話は知らないとでもいうかのように。
「――着いた」
それは天使の初めてみる光景だった。
悪魔と天使が仲睦まじく暮らしていたのだ。
それも、随分と楽しそうに。
天使は衝撃を受けた。今まで過ごしていた世界が全否定されたかのような衝撃。けれど、悲しみや怒りとは違う温かな気持ちだった。
「……あ!カインだ!お帰り!」
「本当だ!カイン!」
「あはは、ただいま」
悪魔のもとに子どもたちが駆け寄っていく。嬉しそうに、カインという名を呼びながら。それに悪魔も笑顔で応える。
――平和だった。
「カイン……?」
「そう、カイン。いいでしょ?ここには名前があるんだよ」
「名前……」
「君もここで暮らすといいよ。ここならどんな仕事だってあるし。まあ、君が良かったらだけどね」
カインは悪戯っぽく笑った。天使も笑った。それは、片翼をなくしてから初めて見せる笑顔だった。
「名前、つけてくれない?」
「いいよ。じゃあ……フィナっていうのはどうかな」
「フィナ……フィナ、すごく素敵。ありがとう」
フィナはとても嬉しそうに微笑んだ。
それからフィナはカインやそこにいる者たちと一緒に暮らした。そこには、片翼だから、天使だからなどという理由で避ける者はいなかった。それがフィナにとって、この上ない幸せだった。
「ねぇカイン。あのとき……初めて出会ったとき、どうして声をかけてくれたの?」
「……多分、自分と似ていると思ったからかな」
「似ている?」
「そう。自分もあの場所では1人だったんだ。誰も話しかけてくれないし、話しかけようとも思わなかった」
「うそ、カインが?」
「両親が天使と悪魔だったんだよ。ほら、一般的にはさ、天使と悪魔は対立した関係でしょ?だから、天使とのハーフだと知られた途端、裏切り者だとか気色悪いとか言われて避けられたんだよ」
「そんな、ひどい!」
「……だから、フィナを見たときに放っておけなくなったんだと思う。避けられる辛さは知ってたからね」
「天使も悪魔も、何も変わらないのにね。人間を甘やかし過ぎた悪魔の後片付けをする天使と、人間の欲望を抑えつけ過ぎた天使の後片付けをする悪魔。どちらかだけじゃ駄目で、どちらもいないと成立しない。見た目だけで決めつけるのは良くない……って、それもカインと出会ったおかげで気づけたことなんだけどね」
「片翼だからって飛べないわけじゃないしね」
フィナが照れくさそうに言った後、カインは付け足すようにそう言って笑った。
2人は笑い合い、どちらともなく手を繋ぐと、青くてきれいな空を飛んでいった。 かささん(選択なし・14さい)からの相談
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