残り物しか愛せない男
「君、振られちゃったの。」
雨の中、校舎裏。
突っ立って泣いていたずぶ濡れの私に話しかけてきたのは、同じクラスの男の子だった。
と言っても、二言三言話したことがあるくらいのただのクラスメイト。
「じゃあ、僕ら、付き合っちゃおうか。」
そう言われて思わず呆けた私の顔は、きっとひどく間抜けに見えたろう。
「僕はね、残りものしか愛せないんだよ。」
変でしょう、と彼は肩を竦めて笑ってみせた。
10年拗らせた片思いは、つい先程、呆気なく玉砕した。
「ごめん、君のことそういう目で見た事ないし、俺もう彼女居るからさ」
テニス部のエースは、絶対に美人のマネージャーと付き合う法則があるのだろうか。
とにかく、私が勝てる要素なんて、どこにもなかった。
もっとはやく、告白すればよかったのかな。
私がもっともっと可愛かったらよかったのかな。
…全部、夢だったらよかったのに。
空が暗くなって、ぽつりぽつりと滴る雨音はやがてざぁという雑音に変わっていった。
人に向かって残り物なんて、なんて失礼な人なんだろう。
しかも、仲の良い友達でもない、私だって一応女の子だ。
ムッとしたのが伝わったようで、彼は慌てて、気を悪くしたのならごめん、謝るよ。と言って、私に開いた傘を差し出した。
「とりあえず、入らない?このままだと君、風邪ひいちゃう。」
ね?と私の機嫌を伺うように、少し眉を下げる彼の顔には悪気はなさそうだった。
確かにそれもそうだなぁ、と私は、大人しく彼に従うことにした。
男女で相合傘なんてロマンチックなシチュエーションも、気分が底をついた私にとっては取るに足らないことだった。
彼も特段気にしている様子ではなかったし、親切にタオルまで貸してくれた。いい匂いがする。
「もう遅いし、このまま帰っちゃおうか。」
私はうん、と小さく返事をする。
「ふふ、こうしていると僕らカップルに見えるかな。」
嬉しそうに、彼が笑う。
彼は、変な人だった。
口下手な私の話をうんうん、と根気よく聞いてくれたし、無理やり踏み込んでこないことに酷く安心感があった。
雰囲気もおおらかで、優しくて、気が利く。モテそうなのに。
不思議なのは、この人に関する浮いた話ひとつ聞いた事がないことだった。
「残り物しか愛せないってどういうこと。」
私が聞くと、彼は答える。
「だって、幸せになる選択肢があるなら、そっちを選んだ方がいいと思うんだ。強引に僕を選ばせて、後で後悔させるなんて可哀想だろう。僕はね、僕にしか選択肢がない人を、幸せにしたいんだよ。」
そして、
ひとりぼっちの君を見て、心臓がギュンってして…ああこの人だって思ったんだ。気持ちが悪いと思うかい?まあ、仕方ないよね。
と、苦笑して続けた。
ああ、彼はきっと自信が無いんだ。嫌われたくなくて、誰かの1番になりたくて、すがってくれる人を探してるんだ。
優しすぎて、愛が重い、不器用な人。
思わずくすくす笑うと、「なに。」と不服そうに眉を顰める彼。
横にある体温が、今は妙に心地が良かった。
他愛もない話をして歩いていれば、分かれ道に差しかかる。彼の家とわたしの家は別の方向だ。
「私、こっちだから。」
そう言うと、送っていくよという彼に、平気、1人で帰れると、断りを入れる。
そう、と合点がいかないといった顔をしながらも彼はこくんと頷いた。
「じゃあ、また明日。」
そう言って、傘を出ていこうとしたその時。
不意に、手首を掴まれる。
驚いて、彼を見ると、目と目が合った。
「返事はいつでもいいから。…待ってる。」
真剣にこちらを見つめる綺麗な目に、思わず吸い込まれそうになる。
数秒、まるで金縛りにあったかのように体が動かなかった。
それに抗うように、うん、と声を絞り出すのが私の精一杯だった。
じゃあ、またね。
振り向かず、走り出す。
緩む頬に、唇を噛む。私、今きっとだらしない顔してる。
さっき失恋したばっかりなのに。
弱みに付け込まれただけなんだ、絶対そうだ。そうに決まってる。
私は軽い女じゃない、簡単に靡く女じゃない。しっかりしろ私。調子に乗るな私の頭。
走っても走っても、浮ついた思考は止まらない。
ああ、タオル、返すの忘れちゃった。
たつのおとしごさん(千葉・16さい)からの相談
とうこう日:2020年6月11日みんなの答え:1件
雨の中、校舎裏。
突っ立って泣いていたずぶ濡れの私に話しかけてきたのは、同じクラスの男の子だった。
と言っても、二言三言話したことがあるくらいのただのクラスメイト。
「じゃあ、僕ら、付き合っちゃおうか。」
そう言われて思わず呆けた私の顔は、きっとひどく間抜けに見えたろう。
「僕はね、残りものしか愛せないんだよ。」
変でしょう、と彼は肩を竦めて笑ってみせた。
10年拗らせた片思いは、つい先程、呆気なく玉砕した。
「ごめん、君のことそういう目で見た事ないし、俺もう彼女居るからさ」
テニス部のエースは、絶対に美人のマネージャーと付き合う法則があるのだろうか。
とにかく、私が勝てる要素なんて、どこにもなかった。
もっとはやく、告白すればよかったのかな。
私がもっともっと可愛かったらよかったのかな。
…全部、夢だったらよかったのに。
空が暗くなって、ぽつりぽつりと滴る雨音はやがてざぁという雑音に変わっていった。
人に向かって残り物なんて、なんて失礼な人なんだろう。
しかも、仲の良い友達でもない、私だって一応女の子だ。
ムッとしたのが伝わったようで、彼は慌てて、気を悪くしたのならごめん、謝るよ。と言って、私に開いた傘を差し出した。
「とりあえず、入らない?このままだと君、風邪ひいちゃう。」
ね?と私の機嫌を伺うように、少し眉を下げる彼の顔には悪気はなさそうだった。
確かにそれもそうだなぁ、と私は、大人しく彼に従うことにした。
男女で相合傘なんてロマンチックなシチュエーションも、気分が底をついた私にとっては取るに足らないことだった。
彼も特段気にしている様子ではなかったし、親切にタオルまで貸してくれた。いい匂いがする。
「もう遅いし、このまま帰っちゃおうか。」
私はうん、と小さく返事をする。
「ふふ、こうしていると僕らカップルに見えるかな。」
嬉しそうに、彼が笑う。
彼は、変な人だった。
口下手な私の話をうんうん、と根気よく聞いてくれたし、無理やり踏み込んでこないことに酷く安心感があった。
雰囲気もおおらかで、優しくて、気が利く。モテそうなのに。
不思議なのは、この人に関する浮いた話ひとつ聞いた事がないことだった。
「残り物しか愛せないってどういうこと。」
私が聞くと、彼は答える。
「だって、幸せになる選択肢があるなら、そっちを選んだ方がいいと思うんだ。強引に僕を選ばせて、後で後悔させるなんて可哀想だろう。僕はね、僕にしか選択肢がない人を、幸せにしたいんだよ。」
そして、
ひとりぼっちの君を見て、心臓がギュンってして…ああこの人だって思ったんだ。気持ちが悪いと思うかい?まあ、仕方ないよね。
と、苦笑して続けた。
ああ、彼はきっと自信が無いんだ。嫌われたくなくて、誰かの1番になりたくて、すがってくれる人を探してるんだ。
優しすぎて、愛が重い、不器用な人。
思わずくすくす笑うと、「なに。」と不服そうに眉を顰める彼。
横にある体温が、今は妙に心地が良かった。
他愛もない話をして歩いていれば、分かれ道に差しかかる。彼の家とわたしの家は別の方向だ。
「私、こっちだから。」
そう言うと、送っていくよという彼に、平気、1人で帰れると、断りを入れる。
そう、と合点がいかないといった顔をしながらも彼はこくんと頷いた。
「じゃあ、また明日。」
そう言って、傘を出ていこうとしたその時。
不意に、手首を掴まれる。
驚いて、彼を見ると、目と目が合った。
「返事はいつでもいいから。…待ってる。」
真剣にこちらを見つめる綺麗な目に、思わず吸い込まれそうになる。
数秒、まるで金縛りにあったかのように体が動かなかった。
それに抗うように、うん、と声を絞り出すのが私の精一杯だった。
じゃあ、またね。
振り向かず、走り出す。
緩む頬に、唇を噛む。私、今きっとだらしない顔してる。
さっき失恋したばっかりなのに。
弱みに付け込まれただけなんだ、絶対そうだ。そうに決まってる。
私は軽い女じゃない、簡単に靡く女じゃない。しっかりしろ私。調子に乗るな私の頭。
走っても走っても、浮ついた思考は止まらない。
ああ、タオル、返すの忘れちゃった。
たつのおとしごさん(千葉・16さい)からの相談
とうこう日:2020年6月11日みんなの答え:1件
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素晴らしいの一言 女子の方が一方的に弄ばれてる、と見せかけて男子のほうもどこか孤独感を感じているんですね。こんな感じの甘すぎない恋の始まり、個人的に大好きです。ただ、1つ表現で気になったことがあります。失恋したのはついさっきのことなんですよね?でしたら、わざわざ過去形にせず、「全部、夢ならいいのに」
の方が時制がまさに「今」で、より「つい先程」感を出せるのではと思いました。(個人的な意見です。) 虚数単位iさん(選択なし・16さい)からの答え
とうこう日:2020年6月12日
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