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魔の雨 高校二年生の唯子(ゆいこ)は友人の悠花(ゆうか)の弁当を覗き込んだ。
美味しそうだ。特に、葉で巻かれた黄色いものが。
唯子は言った。
「ねえ、これ、食べてもいい?」
悠花は
「いいよ。私、これ苦手なんだよね。同じ食材を使った別の料理はいけるんだけど」
「へえ」
唯子は悠花の弁当箱からそれを箸で取り、口に入れた。だが、この食べ物の味。この食感。唯子の脳裏に魔の食べ物の葉巻が浮かぶ。とても美味しく、美味。食感は柔らかく、僅かに胡椒の味がする。確かに、とても美味しい。それも、不安を吹き飛ばすほどに。唯子は食べ物を飲み込んだ。
「ねえ、これって魔の食べ物の葉巻?」
悠花は頷く。
悠花は知らない。唯子の家では魔の食べ物を食べることが禁止されている。祖母のが禁止しているのだ。
悠花を責めることは唯子には出来なかった。悠花が唯子の家の事情を知った上で止めなかったのなら責めることができる。だが、知らないのなら仕方ない。唯子は俯いた。

帰宅し、勉強を終えると、祖母が部屋に入ってきた。祖母は品があり、綺麗な人だ。だが、唯一、魔の食べ物に関しては強情なところがあった。
「唯子。魔の食べ物を食べたな?」
魔の食べ物は強烈な臭気を発する。唯子は頷いた。
「ごめんなさい、ばあば」
きくは黙って部屋を出て行った。

その一ヶ月後。祖母は死んだ。

唯子へ

私がなぜ魔の食べ物を禁止していたか分かるかい?
それは、魔の食べ物を食べ、それの虜になり、すべての食卓の記憶が魔の食べ物に塗り替えられてしまうことを恐れているからだ。
お前が生まれた2016年11月26日。空から魔の食べ物が降ってきた。それを食べたアフリカの子供達の栄養状態が正常、それ以上になったことが山の食べ物を世界中から求める人々が現れた。そして、いつの間にか魔の食べ物が空から降ってくる11月から12月以外にも魔の食べ物は食卓に出るようになった。貯めてるんだよ。魔の食べ物を。その陰で農家の人々が困っていた。米などの農作物の価格の上昇、農家の後継の少なさ。ただでさえ人手不足だった農家の人々の生活がさらに苦しくなった。廃業する農家も現れた。
米。アジの干物。野菜炒め。普段の食生活を忘れられてしまうのは悲しい。私はそのことを危惧しているんだ。だから、私は魔の食べ物を一切食卓に出させず、普段の昔ながらの食事を食卓に出させていたんだ。

祖母の棺桶に花を添えながら唯子は泣いた。魔の食べ物はいらなかった。祖母が作ったあの温かさ溢れる食事が食べたかった。
やがて精進落としに入る。
伊勢海老、茶碗蒸し、蒸したアワビなどにまぎれてそれはあった。
食事が出されると、親戚も祖母の友人もほとんどが魔の食べ物を食べ始めた。中には軽く火の通った和牛などを食べている人もいたが、それは少数派だった。
アワビを食べていた唯子に父が声をかけた。
「唯子、魔の食べ物はいいのか?美味しいぞ」
母も
「美味しいよ。アワビなんかよりも」
アワビなんかよりも……?唯子は箸を止めた。体内の血液が急速に巡り、体の温度が急激に上がるのを感じた。祖母が書き残した普通の食卓を大事にしたい。忘れて欲しくないという思い。それを壊していいの?
唯子は言った。
「おかしいよ」
賑やかだった室内がしんと静まった。
「なんでばあばのお葬式なのにばあばが嫌いなものを食べてるの?そんなの不謹慎だよ」
「精進落としは列席者をねぎらう意味もあるんだ。みんなが好きなものを提供して実際に喜んでもらっている。魔の食べ物はこの場に相応しい料理だろ?」
「でも、ばあばの葬儀だよ。魔の食べ物を食べて喜ぶよりも悼むのが普通でしょ?」
数人から失笑が漏れた。魔の食べ物を口にせずに和牛などを食べていた者達は唯子に頷いていた。
「そんなに怒らなくてもいいじゃないか。たかが魔の食べ物だ」
失笑した一人がそう言った。
なぜ魔の食べ物というのかこいつは知らない。その旨み、その食感に皆が虜になってしまうから魔の食べ物と名付けられたことを唯子は知っている。
「なんでお母さんもお父さんも普通に食べてるの?食べたことないんじゃないの?」
分かって欲しいと思う声はどんどん熱を帯びる。
二人は笑顔で
「降ってきた頃おばあちゃんに怒られながら食べたよ」
唯子は感情をコントロールできなくなっていた。立ち上がって大声で「馬鹿じゃないの!」と叫び、長テーブルをひっくり返す。繊細に盛り付けられていた料理が床に散乱した。
父が止めるのも聞かずに外に飛び出す。走って家に着くと、屋根に一匹のアレが引っ掛かっていた。空から魔の食べ物が降ってくる。屋根の魔の食べ物と目が合う。
唾液が滲む。唯子の喉がゴクリと鳴った。
ヒカリさん(静岡・13さい)からの相談
とうこう日:2020年6月27日みんなの答え:0件

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