曙珈琲店
「曙珈琲店」
私こと安江加奈23歳OLの目の前にはそう書かれた古ぼけた看板が建っていた。
「こんな店あったっけ」
その疑問に答える者は誰も居ない。
それもそのはず、周りには誰も居ない。しかも家が一軒も建っていない。
あるのはこの「曙珈琲店」と書かれた看板に、その珈琲店のみである。
周りは野生化したりんごの木と蔦が伸び放題でろくに手入れのされていない庭とここを通る者が居ないのだろうか、コケの生た石畳。それを引き立てる赤茶色のレンガ造りの家。そして分厚い雲に覆われた暗い昼の空には烏が数匹飛んでいる。
いかにも怪しい。が、気になって入らずにはいられない。そんな不思議な、危ない雰囲気が此処一帯に立ち込めていた。
恐怖と好奇心が鬩ぎ合う。
ふと気が付いたら店の目の前に立っていた。結局好奇心が勝った。
ドアノブを握るところで手が止まった。開けていいのだろうか、誰も居ないかもしれない。いや、その前に不法侵入で捕まらないだろうか。
そんな不安が一気に押し寄せてきた。でもやはり気になる。
ええい。じゃかしい。
私はドアノブを回した。
開けるとアンティーク調の家具で統一された綺麗な店内が出迎えた。
先ず目に付いたのはレトロなカウンター。まるでお洒落な洋画に出てきそうなすわり心地のいいであろう茶色の牛皮の一人用ソファに、ミニテーブル。
壁には高級そうな金の額縁にこれまた有名な画家が描いた油絵。
それをさらに纏め上げる暖色のライト。オレンジのステンドグラスのランプシェードが被されていた。
「おや、お客さんがいらしている。珍しい」
前からいきなり男性の綺麗なテノールが聴こえた。
「うわっ、ごごごめんなさい!」
反射的に謝ってしまった。
「いえいえ、頭を上げてください。お嬢さん」
「あ、は、はい。」
顔を上げた瞬間目の前にイケメンが立っていた。
白く透き通りそうな小さい顔にすぅと筋の通った高い鼻、大きな真っ黒の瞳、艶々として柔らかそうな黒髪。
すらりとした細い腕の生えた細い体、そして長い足。
こげ茶の品のいいスーツを着こなしていた。
「あの、イケメンですね」
つい思ったことが口から出てしまった。
ぽかん、と開かれた口は赤く薄い唇が白い肌に良く映えていた。
「わわ、ごめんなさい。いきなり」
すると男性はプッと吹き出し笑った。
今度はこちらがぽかんとする。
それに気づいたのか
「あぁ、ごめんなさい。あまりにも可愛かったので。いや、ありがとうございます。いやはや、こんな美しい女性にほめられると気分がいい。」
そう嬉しそうに笑う顔はやっぱりイケメンで思わず赤面してしまう。
やばいこの人、笑った顔超可愛い。
今度は口に出さず心の中でつぶやく。そして語彙力が消失する。
「う、美しいとか、そんな事ないです!貴方のほうが綺麗だし可愛いです!」
はっ。また口が滑った。
「ご、ごめんなさい!私もう帰ります!」
恥ずかしすぎる。失言ばかりして此処に居辛い。
来た道を戻ろうとドアを開け帰ろうとすると
「ちょ、ちょっと。せめて珈琲飲んでいきませんか。少しは落ち着くと思いますよ。せっかくのお客さんなんだ。ゆっくりして行ってください。いま、珈琲入れますから。どこでもいいので座っていてください。」
あわてた声で止められた。
そうだ、此処は珈琲店。何のために来たのか。我に返る。
だが先ほど失言してしまったのだ。
いたたまれない気持があるが珈琲も気になる。
仕方なく壁沿いの近くの二人用の席に座った。
革張りのソファは思った通りすわり心地が良かった。
私の座った席の壁には外国の本が詰まれた本棚があった。
英語にフランス語、ロシア語の本もあった。
それらの本を眺めているとふんわりと苦い珈琲のいいにおいがしてきた。
カウンターのほうを見るとイケメンが珈琲を淹れていた。入れる姿もイケメンである。
程なくして席に珈琲が置かれた。
「どうぞ、珈琲です」
ニッコリと微笑みながら珈琲の入ったカップを差し出してくる。
カップからは香ばしい珈琲の香り。
「ありがとうございます」
軽く会釈してからカップを手に取る。
近づけると鼻に珈琲の香りが通る。飲む前から飲んだ気になる。
口に茶色の液体を流し込む。
口内に広がる珈琲特有の苦い香り、そしてフルーティーな香り。
「おいしい」
ほう、と息をつく。
「それはよかった。そのコーヒーはうちの一番のお勧めなんですよ。」
「そうなんですか。」
「えぇ。そうだ、まだ名前を言っていませんでしたね。申し遅れました、私、曙です。」
「曙さん、ですか。あの、また来ていいですか。」
曙は何も答えなかった。
珈琲を飲み終わり、帰るときに曙は呟いた。
「たぶんもう会えない」と。
どういう意味か、それは5年後に思い知ることとなる。
文字数が足りず無理やり終わらせました。無念。
ゆめうつつさん(神奈川・16さい)からの相談
とうこう日:2020年7月11日みんなの答え:3件
私こと安江加奈23歳OLの目の前にはそう書かれた古ぼけた看板が建っていた。
「こんな店あったっけ」
その疑問に答える者は誰も居ない。
それもそのはず、周りには誰も居ない。しかも家が一軒も建っていない。
あるのはこの「曙珈琲店」と書かれた看板に、その珈琲店のみである。
周りは野生化したりんごの木と蔦が伸び放題でろくに手入れのされていない庭とここを通る者が居ないのだろうか、コケの生た石畳。それを引き立てる赤茶色のレンガ造りの家。そして分厚い雲に覆われた暗い昼の空には烏が数匹飛んでいる。
いかにも怪しい。が、気になって入らずにはいられない。そんな不思議な、危ない雰囲気が此処一帯に立ち込めていた。
恐怖と好奇心が鬩ぎ合う。
ふと気が付いたら店の目の前に立っていた。結局好奇心が勝った。
ドアノブを握るところで手が止まった。開けていいのだろうか、誰も居ないかもしれない。いや、その前に不法侵入で捕まらないだろうか。
そんな不安が一気に押し寄せてきた。でもやはり気になる。
ええい。じゃかしい。
私はドアノブを回した。
開けるとアンティーク調の家具で統一された綺麗な店内が出迎えた。
先ず目に付いたのはレトロなカウンター。まるでお洒落な洋画に出てきそうなすわり心地のいいであろう茶色の牛皮の一人用ソファに、ミニテーブル。
壁には高級そうな金の額縁にこれまた有名な画家が描いた油絵。
それをさらに纏め上げる暖色のライト。オレンジのステンドグラスのランプシェードが被されていた。
「おや、お客さんがいらしている。珍しい」
前からいきなり男性の綺麗なテノールが聴こえた。
「うわっ、ごごごめんなさい!」
反射的に謝ってしまった。
「いえいえ、頭を上げてください。お嬢さん」
「あ、は、はい。」
顔を上げた瞬間目の前にイケメンが立っていた。
白く透き通りそうな小さい顔にすぅと筋の通った高い鼻、大きな真っ黒の瞳、艶々として柔らかそうな黒髪。
すらりとした細い腕の生えた細い体、そして長い足。
こげ茶の品のいいスーツを着こなしていた。
「あの、イケメンですね」
つい思ったことが口から出てしまった。
ぽかん、と開かれた口は赤く薄い唇が白い肌に良く映えていた。
「わわ、ごめんなさい。いきなり」
すると男性はプッと吹き出し笑った。
今度はこちらがぽかんとする。
それに気づいたのか
「あぁ、ごめんなさい。あまりにも可愛かったので。いや、ありがとうございます。いやはや、こんな美しい女性にほめられると気分がいい。」
そう嬉しそうに笑う顔はやっぱりイケメンで思わず赤面してしまう。
やばいこの人、笑った顔超可愛い。
今度は口に出さず心の中でつぶやく。そして語彙力が消失する。
「う、美しいとか、そんな事ないです!貴方のほうが綺麗だし可愛いです!」
はっ。また口が滑った。
「ご、ごめんなさい!私もう帰ります!」
恥ずかしすぎる。失言ばかりして此処に居辛い。
来た道を戻ろうとドアを開け帰ろうとすると
「ちょ、ちょっと。せめて珈琲飲んでいきませんか。少しは落ち着くと思いますよ。せっかくのお客さんなんだ。ゆっくりして行ってください。いま、珈琲入れますから。どこでもいいので座っていてください。」
あわてた声で止められた。
そうだ、此処は珈琲店。何のために来たのか。我に返る。
だが先ほど失言してしまったのだ。
いたたまれない気持があるが珈琲も気になる。
仕方なく壁沿いの近くの二人用の席に座った。
革張りのソファは思った通りすわり心地が良かった。
私の座った席の壁には外国の本が詰まれた本棚があった。
英語にフランス語、ロシア語の本もあった。
それらの本を眺めているとふんわりと苦い珈琲のいいにおいがしてきた。
カウンターのほうを見るとイケメンが珈琲を淹れていた。入れる姿もイケメンである。
程なくして席に珈琲が置かれた。
「どうぞ、珈琲です」
ニッコリと微笑みながら珈琲の入ったカップを差し出してくる。
カップからは香ばしい珈琲の香り。
「ありがとうございます」
軽く会釈してからカップを手に取る。
近づけると鼻に珈琲の香りが通る。飲む前から飲んだ気になる。
口に茶色の液体を流し込む。
口内に広がる珈琲特有の苦い香り、そしてフルーティーな香り。
「おいしい」
ほう、と息をつく。
「それはよかった。そのコーヒーはうちの一番のお勧めなんですよ。」
「そうなんですか。」
「えぇ。そうだ、まだ名前を言っていませんでしたね。申し遅れました、私、曙です。」
「曙さん、ですか。あの、また来ていいですか。」
曙は何も答えなかった。
珈琲を飲み終わり、帰るときに曙は呟いた。
「たぶんもう会えない」と。
どういう意味か、それは5年後に思い知ることとなる。
文字数が足りず無理やり終わらせました。無念。
ゆめうつつさん(神奈川・16さい)からの相談
とうこう日:2020年7月11日みんなの答え:3件
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続きが読みたい! 凄く良い表現ができていました!
途中で文庫本かと思うほど!
情景がよく分かりました!
fruitsさん(選択なし・11さい)からの答え
とうこう日:2020年7月13日 -
よかったです! 5年後にいったい何があったんですか...!
すごくいいところで切られていて、続きが読みたくなりました!
ゆったりした空気がいいですね!
あと、漢字が難しいところがあったので、読み方をつけていただけるとうれしいです!
鬩ぎ合う(せめぎあう)
纏め上げる(まとめあげる)
曙(あけぼの) など...。
一応、珈琲(こーひー)もでしょうか? はちみつさん(千葉・14さい)からの答え
とうこう日:2020年7月12日 -
確かに・・・無念 続きが読みたいです。
蔦音さん(選択なし・12さい)からの答え
とうこう日:2020年7月12日
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