青空
大きく息を吸い込む。間近に見えた空が静香(しずか)には疎ましい。空を糧にしてきたはずなのに。
綾音(あやね)はビルの屋上を見上げた。一歩、踏み出せば地面に落ちてしまいそうなほどのところに静香は居た。
私のせいだ。私が静香を助けなかったから。
綾音はビルに駆け込んだ。
屋上のドアを開け放ち、静香を見据える。
音で気づいたのか、静香は綾音を睨みつけてきた。清楚そうで、美人な静香からは想像出来ない、剣呑な目つき。竦み上がりそうになる自分を鼓舞して、綾音は一歩を踏み出そうとした。だが、それを静香の鋭い声が遮った。
「来ないで!」
ああ、もう、限界だ。こんな異常な空間の中で警察官でも無い人間が自殺しようとする人間を説得するのは容易なことではない。
「綾音には分かんないよ。財閥のお嬢様で、将来も安定。苦労してきた私のことなんて一ミリも分かんないよ!」
叫び声。耳を塞ぎたくなる。静香の指摘は少しも間違っていなかったから。幼くして両親を亡くし、祖父母に引き取られ、ひたすらバイトに明け暮れた静香とは違う。その祖父母も昨年死んだ。静香の苦労なんて分からない。きっと、一生、分かることはないだろう。だが、それでも、綾音は静香を救いたかった。助けたかった。
「静香。落ち着いて」
そんなことを言っても無駄はことは分かりきっていた。
静香は昂奮し、こちらの言うことなど聞いてくれそうにない。
綾音の想像どうり、静香はこちらの要望を聞き入れなかった。
「苦労を分からない人に言ってもらいたくない!」
でも。でもさ。言いたいことはいくつもある。でも、それが上手く言語化されない。
静香の言葉は止まらない。
「やっと、安定した職業につけたと思ったら、ブラック企業。残業ばかりで眠らない日もあった。もう、一週間ぐらい、寝てないよ。上司からは怒られて、無駄なところで訂正が入る。もう、このままじゃ、このままじゃ」
そして、泣き声のような、身体中で叫んだような声で静香は空に向かって叫喚に似た声を上げた。
「壊れちゃう!」
静香。君、もう、壊れてるよ。一時的に壊れてるだけかもしれないけど、壊れてることには変わりない。それに、
「じゃあさ、なんで逃げ出さなかったの?静香、十分、頑張ったじゃん。給料だって正しい額を貰えてなかったんでしょ?警察にでもなんでも行けば良かったー……」
静香が綾音の言葉を遮った。
「それって、いじめられっ子にいじめっ子にやめてっていいなよって言ってるようなもんだよ。綾音はいじめられてた私に対してもそう言ったよね」
静香は嘲笑を浮かべた。その笑みから綾音は目をそらした。いじめの黒幕は綾音だった。ただ、それは静香は知らないはずだった。中学校に進学し、徐々に仲良くなったが、静香は真実を見抜いていたということか。
「私をいじめてたくせに!死のうとしてるときに、駆けつけるのがいじめっ子ってどういうこと?私の人生、最後まで真っ暗じゃん!」
ああ。言いたいことが言語化できた。いじめっ子は最後までいじめっ子ってことか。綾音は自分が酷薄な笑みを浮かべるのを感じた。いつも、静香をいじめるときに浮かべたものだった。苦い思いと共に、綾音は口を開いた。
「壊れちゃうんだったら、壊れなよ。お前、もしここで死ななくても、どうせ壊れるから」
自分の声がいつもより冷たい。氷のように冷たい声を出している自分に綾音は驚きを隠せない。だが、ここまで言ったのならもう言うしかない。
「なんで、そんなに自分を卑下するの?苦労して生きてきたんだから、強いに違いないのに!静香以上に苦しい環境の人はたくさんいるのに。悲劇のヒロインぶらないでよ!」
綾音が怒鳴った直後、開けっ放しのドアから警官たちが入ってきた。
「静香さん、やめなさい」
一人がそう言った。
綾音は屋上から出た。もう、自分は必要無い。
静香と街で偶然、会った。
静香はすっきりした表情を浮かべていた。
「綾音、会社、警察のガサ入れにあって、私は今、スーパーで働いてるよ
静香はバッグから名刺を出して、綾音に渡した。
それから、静香は柔らかく、微笑んだ。
「私を助けてくれて、ありがとう、綾音」 れいさん(静岡・13さい)からの相談
とうこう日:2020年7月18日みんなの答え:1件
綾音(あやね)はビルの屋上を見上げた。一歩、踏み出せば地面に落ちてしまいそうなほどのところに静香は居た。
私のせいだ。私が静香を助けなかったから。
綾音はビルに駆け込んだ。
屋上のドアを開け放ち、静香を見据える。
音で気づいたのか、静香は綾音を睨みつけてきた。清楚そうで、美人な静香からは想像出来ない、剣呑な目つき。竦み上がりそうになる自分を鼓舞して、綾音は一歩を踏み出そうとした。だが、それを静香の鋭い声が遮った。
「来ないで!」
ああ、もう、限界だ。こんな異常な空間の中で警察官でも無い人間が自殺しようとする人間を説得するのは容易なことではない。
「綾音には分かんないよ。財閥のお嬢様で、将来も安定。苦労してきた私のことなんて一ミリも分かんないよ!」
叫び声。耳を塞ぎたくなる。静香の指摘は少しも間違っていなかったから。幼くして両親を亡くし、祖父母に引き取られ、ひたすらバイトに明け暮れた静香とは違う。その祖父母も昨年死んだ。静香の苦労なんて分からない。きっと、一生、分かることはないだろう。だが、それでも、綾音は静香を救いたかった。助けたかった。
「静香。落ち着いて」
そんなことを言っても無駄はことは分かりきっていた。
静香は昂奮し、こちらの言うことなど聞いてくれそうにない。
綾音の想像どうり、静香はこちらの要望を聞き入れなかった。
「苦労を分からない人に言ってもらいたくない!」
でも。でもさ。言いたいことはいくつもある。でも、それが上手く言語化されない。
静香の言葉は止まらない。
「やっと、安定した職業につけたと思ったら、ブラック企業。残業ばかりで眠らない日もあった。もう、一週間ぐらい、寝てないよ。上司からは怒られて、無駄なところで訂正が入る。もう、このままじゃ、このままじゃ」
そして、泣き声のような、身体中で叫んだような声で静香は空に向かって叫喚に似た声を上げた。
「壊れちゃう!」
静香。君、もう、壊れてるよ。一時的に壊れてるだけかもしれないけど、壊れてることには変わりない。それに、
「じゃあさ、なんで逃げ出さなかったの?静香、十分、頑張ったじゃん。給料だって正しい額を貰えてなかったんでしょ?警察にでもなんでも行けば良かったー……」
静香が綾音の言葉を遮った。
「それって、いじめられっ子にいじめっ子にやめてっていいなよって言ってるようなもんだよ。綾音はいじめられてた私に対してもそう言ったよね」
静香は嘲笑を浮かべた。その笑みから綾音は目をそらした。いじめの黒幕は綾音だった。ただ、それは静香は知らないはずだった。中学校に進学し、徐々に仲良くなったが、静香は真実を見抜いていたということか。
「私をいじめてたくせに!死のうとしてるときに、駆けつけるのがいじめっ子ってどういうこと?私の人生、最後まで真っ暗じゃん!」
ああ。言いたいことが言語化できた。いじめっ子は最後までいじめっ子ってことか。綾音は自分が酷薄な笑みを浮かべるのを感じた。いつも、静香をいじめるときに浮かべたものだった。苦い思いと共に、綾音は口を開いた。
「壊れちゃうんだったら、壊れなよ。お前、もしここで死ななくても、どうせ壊れるから」
自分の声がいつもより冷たい。氷のように冷たい声を出している自分に綾音は驚きを隠せない。だが、ここまで言ったのならもう言うしかない。
「なんで、そんなに自分を卑下するの?苦労して生きてきたんだから、強いに違いないのに!静香以上に苦しい環境の人はたくさんいるのに。悲劇のヒロインぶらないでよ!」
綾音が怒鳴った直後、開けっ放しのドアから警官たちが入ってきた。
「静香さん、やめなさい」
一人がそう言った。
綾音は屋上から出た。もう、自分は必要無い。
静香と街で偶然、会った。
静香はすっきりした表情を浮かべていた。
「綾音、会社、警察のガサ入れにあって、私は今、スーパーで働いてるよ
静香はバッグから名刺を出して、綾音に渡した。
それから、静香は柔らかく、微笑んだ。
「私を助けてくれて、ありがとう、綾音」 れいさん(静岡・13さい)からの相談
とうこう日:2020年7月18日みんなの答え:1件
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凄い スーパーミラクルウルトラ凄いです 信乃さん(北海道・12さい)からの答え
とうこう日:2020年7月19日
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