お兄ちゃん
お兄ちゃん、お兄ちゃん。
そう言って妹の真白はいつもいつも俺の後ろをついてまわった。
うっとうしくて時にイラッとすることもあったけれど、俺の真似ばかりする真白に悪い気はしなかった。
「お兄ちゃん…私ね、好きな人ができたの」
不意に真白が呟いた。
声はどこか震えていて、人形のように白い頬を透明な涙が伝う。
少なくとも好きな人の話をする時の顔じゃない。そう思った。
「……」
なにがあった?
どうして泣いている?
そいつに泣かされたのか?
滅多に泣くことのない真白のその姿に、皮肉にも俺は声をかけてやることができなかった。
なんて情けない。これでも兄だと胸を張って言えるのかよ?
真白の頭に伸ばしかけた手が、ふっと空を切る。
「…っ振られちゃったよ」
無理やりに笑顔をつくる妹の顔を見るのはあまりにもつらくて、こっちが泣きたくなってしまった。
本当ならここで頭を撫でてやったり、なぐさめの言葉のひとつくらい言えたりしたらいいのだが。俺にはどうしてもできなかった。
出てしまった涙をごまかすように、真白は窓の外を見た。
俺もつられて外を見る。
俺たちには眩しすぎるくらいの太陽が、ぎらぎらと木を、草を、全てを照らしていた。
「ねぇ、どうして?」
不思議なことに、不幸は連鎖するもので。
「っどうしてさぁ、お兄ちゃん、逝っちゃったの」
真白は窓の外を見たまま、こちらを見ようともしない。
俺は反射的に下を向いた。
「ごめん」
いくら大声を張ったとしても、この声が届くことはない。
謝ることでさえ。話すことでさえ。
俺にはもう、何もできない。
「逢いたいよ」
虚ろな瞳で真白が言った。
動かない俺の肉体を舐めまわすように見てから席を立ち、どこかへ行こうとする。
「お、おい!やめろ…!」
何をしようとしたのかはすぐに検討がついた。
あの真白のことだ。
いくつになっても俺の真似ばかりで…
ああ、どうして届かない?
手も届かない。指先ですら届かない。
このままでは兄として失格だ。最後の最後までかっこのつかない奴。そんなのになりたくなんかない。
ーーーがたん。
部屋の棚を倒した。真白が振り向いた。
一瞬、目が合ったような…気がした。
「真似してんじゃ、ねぇよ」
俺とよく似た真白の黒い瞳から、とくとくと大きな粒が流れ落ちる。
ああ、ああ。
俺がもっと注意していれば。
周りを見ていれば。
猛スピードのトラックにもっとはやく気付けていたならば。
まだまだ長く、真白を守ることができたのに。どうしてこう、人の命は脆いのだろう。
生きたい。生きていたい。
まだ、ずっと、これからも、真白のそばにいてやりたい。
…でもそれは、叶わない。
「ありがとう、ありがとう…お兄ちゃん。もう大丈夫だから」
真白が笑った。
こんどは間違いなく。俺の目を見て、笑った。 ドーモさん(選択なし・13さい)からの相談
とうこう日:2020年7月20日みんなの答え:2件
そう言って妹の真白はいつもいつも俺の後ろをついてまわった。
うっとうしくて時にイラッとすることもあったけれど、俺の真似ばかりする真白に悪い気はしなかった。
「お兄ちゃん…私ね、好きな人ができたの」
不意に真白が呟いた。
声はどこか震えていて、人形のように白い頬を透明な涙が伝う。
少なくとも好きな人の話をする時の顔じゃない。そう思った。
「……」
なにがあった?
どうして泣いている?
そいつに泣かされたのか?
滅多に泣くことのない真白のその姿に、皮肉にも俺は声をかけてやることができなかった。
なんて情けない。これでも兄だと胸を張って言えるのかよ?
真白の頭に伸ばしかけた手が、ふっと空を切る。
「…っ振られちゃったよ」
無理やりに笑顔をつくる妹の顔を見るのはあまりにもつらくて、こっちが泣きたくなってしまった。
本当ならここで頭を撫でてやったり、なぐさめの言葉のひとつくらい言えたりしたらいいのだが。俺にはどうしてもできなかった。
出てしまった涙をごまかすように、真白は窓の外を見た。
俺もつられて外を見る。
俺たちには眩しすぎるくらいの太陽が、ぎらぎらと木を、草を、全てを照らしていた。
「ねぇ、どうして?」
不思議なことに、不幸は連鎖するもので。
「っどうしてさぁ、お兄ちゃん、逝っちゃったの」
真白は窓の外を見たまま、こちらを見ようともしない。
俺は反射的に下を向いた。
「ごめん」
いくら大声を張ったとしても、この声が届くことはない。
謝ることでさえ。話すことでさえ。
俺にはもう、何もできない。
「逢いたいよ」
虚ろな瞳で真白が言った。
動かない俺の肉体を舐めまわすように見てから席を立ち、どこかへ行こうとする。
「お、おい!やめろ…!」
何をしようとしたのかはすぐに検討がついた。
あの真白のことだ。
いくつになっても俺の真似ばかりで…
ああ、どうして届かない?
手も届かない。指先ですら届かない。
このままでは兄として失格だ。最後の最後までかっこのつかない奴。そんなのになりたくなんかない。
ーーーがたん。
部屋の棚を倒した。真白が振り向いた。
一瞬、目が合ったような…気がした。
「真似してんじゃ、ねぇよ」
俺とよく似た真白の黒い瞳から、とくとくと大きな粒が流れ落ちる。
ああ、ああ。
俺がもっと注意していれば。
周りを見ていれば。
猛スピードのトラックにもっとはやく気付けていたならば。
まだまだ長く、真白を守ることができたのに。どうしてこう、人の命は脆いのだろう。
生きたい。生きていたい。
まだ、ずっと、これからも、真白のそばにいてやりたい。
…でもそれは、叶わない。
「ありがとう、ありがとう…お兄ちゃん。もう大丈夫だから」
真白が笑った。
こんどは間違いなく。俺の目を見て、笑った。 ドーモさん(選択なし・13さい)からの相談
とうこう日:2020年7月20日みんなの答え:2件
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すごい…… すごい…こんな短編小説が作れるとは。涙がこぼれてくる。感動しました。すごいいい話でした。 唯さん(選択なし・10さい)からの答え
とうこう日:2021年3月6日 -
泣ける、、、 泣けます・・・。感動したけど、お兄ちゃんが死んでたなんて・・・。悲しいです。でも、なんか感動しました。いいお話でした。 airiさん(長野・11さい)からの答え
とうこう日:2020年7月30日
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- 【「相談するとき」「相談の答え(回答)を書くとき」のルール】をかならず読んでから、ルールを守って投稿してください。
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