星空の下に行こう
さて、私の兄の話をしましょう。お兄ちゃんは、とっても優しくて――まあ、私は特にいい事もしてあげられませんでしたが――でも、病気を患っていました。そんな中、私が唯一覚えている、小学六年生の頃の話です。
私には、十歳も年上のお兄ちゃんがいる。
お兄ちゃんは、いい人だ。忙しくても私の相手をしてくれるし、少し身体は弱いけれど、自慢のお兄ちゃんだった。
でも、平穏な生活に、突如としてヒビが入った。
小学校最後の夏休みに、突然お兄ちゃんが倒れたのだ。どうやら、車椅子なしでは移動できず、どんどん身体の機能が失われていく病気になってしまったらしい。どうにか退院しても、自分で散歩に行くことすらできない。私の中で、ガシャンとガラスが砕け散る音がした。そして一瞬にして、私の心はスカスカになってしまった。
暗い気持ちで過ごしていた、そんな夏休みの最中、お兄ちゃんが話しかけてきた。
「なあ、一緒に星を見に行かないか?」
「星?」
今日は晴れている。星を見るにはぴったりの天気だけど、どうして?
「四年くらい前、約束しただろ。『星の丘』に行こう、って」
「ああー」
たしかに約束した。私が二年生の時だ。そっか……お兄ちゃん、私が急な坂を登れるようになるまで、ずっと待っていてくれてたんだ。
「行かないか?」
お兄ちゃんはにっこり笑顔を浮かべて、もう一度言った。私はすぐにうなずく。
「うん。いいよ」
「ありがとう」
お兄ちゃんは子供のように笑った。今は午後七時だ。夏だとはいえども、早く行かないと真っ暗になってしまう。すぐ帰らないと。
「お母さーん、ちょっと出るぅ!」と台所に向かって叫んで、私は車椅子を外に出した。車椅子を押しながら歩くと、それだけですごく疲れる。でも、星の丘まではそう遠くないらしい。お兄ちゃんに道を教えてもらいながら、街灯に照らされた道を行く。
星の丘は、その名の通りすごくよく星が見える丘らしい。私は行ったことがないから、けっこう楽しみだ。
丘は急な斜面だ。最初は我慢していたが、とうとう重荷をのせられたように腕がしびれる。気付いたら、全身から汗が噴き出していた。
「ハァ……ハァ……」
「ごめんな……俺がもっと歩ければ――」
お兄ちゃんが謝ろうとしたけど、私はまた車椅子を押した。お兄ちゃんに申し訳なく思われるのが苦痛だったからだ。お兄ちゃんは、なにも悪くない。だから、私ががんばらないとと思った。でもけっこう進んでいたらしく、五分もかからずに頂上に着いた。
ふぅー、と息を整え、「着いたよ」よ草原に腰を下ろして言う。「ありがとう」と返事をされたのに、なぜか恥ずかしくなってうつむく。すると、
「下じゃなくて、上を見てみろよ」
そう言われ、私は顔を上げる。とたん、思わず声を上げた。
「わあ……!」
そこには、満点の星が宝石のように散りばめられていた。地平線まで、一面に星が輝いている。時々、ヒュッと藍色の空を光が駆けた。流れ星だ、と思うとまた、シュッ。
「すごーい!」
「そうだろ。俺もここが大好きなんだ……本当にすごいよ……」
お兄ちゃんも感動しているようだった。それほどに、この星空はキレイだ。宇宙をまるごと覗いている気分に駆られる。
「俺も……あんな風になりたいな……」
お兄ちゃんの小さな呟きは、私の耳には入らなかった。
私は今のこの瞬間が、すごく貴重なものに思えて。
大好きなお兄ちゃんとこの光景を見れたことは一生忘れまいと、胸に記憶を刻み付けた。
さて、こんな話なのですが。後から知りましたが、あの時お兄ちゃんはほとんど目が見えていなかったようなのです。それでは……一体なにに「すごい」と言ったのでしょうね? あの一ヶ月後に、兄は亡くなってしまったのですが――「星」となって私を見守ってくれていると、そう信じています。
――――――――――――――――
どうも、作家志望の*ハピネスです!
この話は、昔ノートに書いていたものを改題・改稿したものになります。
感想を書いて送ってくださると嬉しいです!
あと、「*ハピネスは小説家になれそうか」意見をくださると喜びます!
では、またお会いしましょう☆
*ハピネス *ハピネスさん(神奈川・12さい)からの相談
とうこう日:2020年8月20日みんなの答え:1件
私には、十歳も年上のお兄ちゃんがいる。
お兄ちゃんは、いい人だ。忙しくても私の相手をしてくれるし、少し身体は弱いけれど、自慢のお兄ちゃんだった。
でも、平穏な生活に、突如としてヒビが入った。
小学校最後の夏休みに、突然お兄ちゃんが倒れたのだ。どうやら、車椅子なしでは移動できず、どんどん身体の機能が失われていく病気になってしまったらしい。どうにか退院しても、自分で散歩に行くことすらできない。私の中で、ガシャンとガラスが砕け散る音がした。そして一瞬にして、私の心はスカスカになってしまった。
暗い気持ちで過ごしていた、そんな夏休みの最中、お兄ちゃんが話しかけてきた。
「なあ、一緒に星を見に行かないか?」
「星?」
今日は晴れている。星を見るにはぴったりの天気だけど、どうして?
「四年くらい前、約束しただろ。『星の丘』に行こう、って」
「ああー」
たしかに約束した。私が二年生の時だ。そっか……お兄ちゃん、私が急な坂を登れるようになるまで、ずっと待っていてくれてたんだ。
「行かないか?」
お兄ちゃんはにっこり笑顔を浮かべて、もう一度言った。私はすぐにうなずく。
「うん。いいよ」
「ありがとう」
お兄ちゃんは子供のように笑った。今は午後七時だ。夏だとはいえども、早く行かないと真っ暗になってしまう。すぐ帰らないと。
「お母さーん、ちょっと出るぅ!」と台所に向かって叫んで、私は車椅子を外に出した。車椅子を押しながら歩くと、それだけですごく疲れる。でも、星の丘まではそう遠くないらしい。お兄ちゃんに道を教えてもらいながら、街灯に照らされた道を行く。
星の丘は、その名の通りすごくよく星が見える丘らしい。私は行ったことがないから、けっこう楽しみだ。
丘は急な斜面だ。最初は我慢していたが、とうとう重荷をのせられたように腕がしびれる。気付いたら、全身から汗が噴き出していた。
「ハァ……ハァ……」
「ごめんな……俺がもっと歩ければ――」
お兄ちゃんが謝ろうとしたけど、私はまた車椅子を押した。お兄ちゃんに申し訳なく思われるのが苦痛だったからだ。お兄ちゃんは、なにも悪くない。だから、私ががんばらないとと思った。でもけっこう進んでいたらしく、五分もかからずに頂上に着いた。
ふぅー、と息を整え、「着いたよ」よ草原に腰を下ろして言う。「ありがとう」と返事をされたのに、なぜか恥ずかしくなってうつむく。すると、
「下じゃなくて、上を見てみろよ」
そう言われ、私は顔を上げる。とたん、思わず声を上げた。
「わあ……!」
そこには、満点の星が宝石のように散りばめられていた。地平線まで、一面に星が輝いている。時々、ヒュッと藍色の空を光が駆けた。流れ星だ、と思うとまた、シュッ。
「すごーい!」
「そうだろ。俺もここが大好きなんだ……本当にすごいよ……」
お兄ちゃんも感動しているようだった。それほどに、この星空はキレイだ。宇宙をまるごと覗いている気分に駆られる。
「俺も……あんな風になりたいな……」
お兄ちゃんの小さな呟きは、私の耳には入らなかった。
私は今のこの瞬間が、すごく貴重なものに思えて。
大好きなお兄ちゃんとこの光景を見れたことは一生忘れまいと、胸に記憶を刻み付けた。
さて、こんな話なのですが。後から知りましたが、あの時お兄ちゃんはほとんど目が見えていなかったようなのです。それでは……一体なにに「すごい」と言ったのでしょうね? あの一ヶ月後に、兄は亡くなってしまったのですが――「星」となって私を見守ってくれていると、そう信じています。
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どうも、作家志望の*ハピネスです!
この話は、昔ノートに書いていたものを改題・改稿したものになります。
感想を書いて送ってくださると嬉しいです!
あと、「*ハピネスは小説家になれそうか」意見をくださると喜びます!
では、またお会いしましょう☆
*ハピネス *ハピネスさん(神奈川・12さい)からの相談
とうこう日:2020年8月20日みんなの答え:1件
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よかったですよ 『ヒュッと藍色の空を光が駆けた』
『私の中で、ガシャンとガラスが砕け散る音がした』
とか、表現方法もよかったです
昔ってことは今より前にこれを思いついたんですよね
発想力に瞠目しました
小説家、なれると思います
余談ですが、私も小説家を目指してます
勝手な考察なんですけど、
“お兄ちゃん”が『すごい』と言ったのは、
『俺も……あんな風になりたいな…』と言ったのは
星に対してではなく、“私”に対してだと思いました
10歳も年が離れているから、
“お兄ちゃん”は“私”の成長ぶりに
感動したのだと思います
そして、健康な“私”を見て、
思わず、自分もあんなふうに健康になりたかった
と叶わぬ呟きをもらしたのだと思いました
勝手な考察失礼しました
小説家目指して頑張ってください 鸞鳥さん(選択なし・12さい)からの答え
とうこう日:2020年8月22日
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