ヒュブリスの惧れ
抜かされていく。
自分の後ろから、誰かが来て、背中がだんだん見えなくなっていく感覚を、僕は飽きるほど知っている。
皆が水面から次々に顔を出すのに対して、自分はまるでおもりでも付けているかのように、奥底へ沈んでいく感覚を。
その息苦しさを。
僕は何でもいいから、誰かを抜かしてみたい。そう思っていた。
傲慢だと思われても、卑劣だと思われてもいい。這い上がって、誰かの上に立ちたかった。
そんな時、ある少女に出会った。ある日、僕の家路の途中にある公園で一人、じっと地面を見つめていたのだ。
歳は、13歳ぐらいだろうか。あまりにも無表情だったので、声をかけるのを一瞬ためらったが、夜遅い時間だったので
「も、もう夜遅いから、家に帰ったほうがいいよ。」
と言うと、少女はビクッと顔をこわばらせたが、その後
「なんで私に声かけたの」と言った。
危ないから、と言いかけてやめた。普段、女の子が夜遅くに出歩いていても、声はかけない。
でもこの少女は、何というか、自分と似ているような、同じ苦しさを知っているような気がしたから。
声をかけずにはいられなかった。
なんと言おうか迷っていると、少女は言った。
「お兄さんは、」
「私とおんなじ目をしてる」
僕は目を丸くした。と同時に、こう思ったのだ。
ああ、やっと、分かってくれる人がいた。
人というのは、同じ同胞(にんげん)がいると、苦しさも紛れたように感じるのである。
それから、僕たちは毎週金曜日、同時刻、21時に公園で集まることにした。彼女自身も、18歳の僕といれば安心だと言う。
何より彼女との会話が楽しみだった。23時以降は流石に補導になるので、それまでには切り上げるのだが、そのことも、僕にとっては惜しかった。
ある時、僕は思い切って彼女に、自分の傲慢な部分を話してみた。
すると彼女は
「じゃあ、一回私を抜かしてみたらどう?」
と言った。「え?」と聞くと
「私ね、もうすぐ初めて人を抜かすことになるの。今までは抜かされてばっかりだったんだけど。でも、いざとなるとやっぱり怖くて。あなたが望むのならば、交換したいなって。」
「い、いいの?」
「もちろん。あなたは私なんかよりも“抜かす人間”になるべきだよ。」
胸が高鳴った。ついに、ついにこの時が来たんだと。自分が、誰を、何で抜かすのかは疑問に思ったが、そんなことはどうでもよかった。喜びと、彼女に対する感謝しかなかった。
次の週、いつものように集まると
「実は、明日抜かすことになったの。」
と言って微笑んだ。その微笑みをいつまでも見ていたい、と思った。
「ところで、誰を抜かすことになるの?」と問うと
「みんな」と彼女は笑顔で言った。
今日、僕は“みんな”を抜かす。あの苦しみからやっと解放される。
付けていたおもりから今解き放たれ、一気に追いつく。
そのまま水面を突き破り、高く、高く――――
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。意味が分かりにくいかもしれませんが、分かったうえで、もう一度読んでくださると、更に楽しんでいただけると思います。拙い文章ですが、ご評価、ご指摘いただけると幸いです。ありがとうございました。
らんふぁんさん(兵庫・14さい)からの相談
とうこう日:2020年8月27日みんなの答え:1件
自分の後ろから、誰かが来て、背中がだんだん見えなくなっていく感覚を、僕は飽きるほど知っている。
皆が水面から次々に顔を出すのに対して、自分はまるでおもりでも付けているかのように、奥底へ沈んでいく感覚を。
その息苦しさを。
僕は何でもいいから、誰かを抜かしてみたい。そう思っていた。
傲慢だと思われても、卑劣だと思われてもいい。這い上がって、誰かの上に立ちたかった。
そんな時、ある少女に出会った。ある日、僕の家路の途中にある公園で一人、じっと地面を見つめていたのだ。
歳は、13歳ぐらいだろうか。あまりにも無表情だったので、声をかけるのを一瞬ためらったが、夜遅い時間だったので
「も、もう夜遅いから、家に帰ったほうがいいよ。」
と言うと、少女はビクッと顔をこわばらせたが、その後
「なんで私に声かけたの」と言った。
危ないから、と言いかけてやめた。普段、女の子が夜遅くに出歩いていても、声はかけない。
でもこの少女は、何というか、自分と似ているような、同じ苦しさを知っているような気がしたから。
声をかけずにはいられなかった。
なんと言おうか迷っていると、少女は言った。
「お兄さんは、」
「私とおんなじ目をしてる」
僕は目を丸くした。と同時に、こう思ったのだ。
ああ、やっと、分かってくれる人がいた。
人というのは、同じ同胞(にんげん)がいると、苦しさも紛れたように感じるのである。
それから、僕たちは毎週金曜日、同時刻、21時に公園で集まることにした。彼女自身も、18歳の僕といれば安心だと言う。
何より彼女との会話が楽しみだった。23時以降は流石に補導になるので、それまでには切り上げるのだが、そのことも、僕にとっては惜しかった。
ある時、僕は思い切って彼女に、自分の傲慢な部分を話してみた。
すると彼女は
「じゃあ、一回私を抜かしてみたらどう?」
と言った。「え?」と聞くと
「私ね、もうすぐ初めて人を抜かすことになるの。今までは抜かされてばっかりだったんだけど。でも、いざとなるとやっぱり怖くて。あなたが望むのならば、交換したいなって。」
「い、いいの?」
「もちろん。あなたは私なんかよりも“抜かす人間”になるべきだよ。」
胸が高鳴った。ついに、ついにこの時が来たんだと。自分が、誰を、何で抜かすのかは疑問に思ったが、そんなことはどうでもよかった。喜びと、彼女に対する感謝しかなかった。
次の週、いつものように集まると
「実は、明日抜かすことになったの。」
と言って微笑んだ。その微笑みをいつまでも見ていたい、と思った。
「ところで、誰を抜かすことになるの?」と問うと
「みんな」と彼女は笑顔で言った。
今日、僕は“みんな”を抜かす。あの苦しみからやっと解放される。
付けていたおもりから今解き放たれ、一気に追いつく。
そのまま水面を突き破り、高く、高く――――
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。意味が分かりにくいかもしれませんが、分かったうえで、もう一度読んでくださると、更に楽しんでいただけると思います。拙い文章ですが、ご評価、ご指摘いただけると幸いです。ありがとうございました。
らんふぁんさん(兵庫・14さい)からの相談
とうこう日:2020年8月27日みんなの答え:1件
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不思議な感じ! 二人のやり取りの中に少し不穏な空気が漂っているような雰囲気です。抜かす、というのはみんなよりも先に天国へ行く、という解釈で会っているのでしょうか?(自信はありませんが)この後に種明かし的な表現を少し入れたら分かりやすいのではないかと思います(私のような鈍い人には)。不思議な雰囲気で、今まであまりであったことがないような小説だと思います。楽しませてもらいました! ゆいぴさん(選択なし・15さい)からの答え
とうこう日:2020年9月6日
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