薬屋
カランカラン…
ドアのベルが可愛らしい音を立てた。
ベルといったら、チリンと金属音をたてると思うが、このベルはさび付いて、そんな音も鳴りそうにない。
「いらっしゃい」
僕がドアを開けると、若い男の人がそう言った。
「子供なんて珍しいね…」
やけににやついている。
「君はこの店が何の店か、分かってる?」
「いえ…」
「じゃあ君はこの店に何の用があるんだ?」
「気になって入ってみただけです…」
なんだか恐ろしい雰囲気に、僕はぞっとした。
「この店は…簡単に言うと、客の願望を叶えてあげる店。実はね、この店は用がある人にしか見えないんだ。君も何か願い事があるんだろ?」
僕は目を見開いた。
「はい。そうですけど願い事を叶えるって…」
「おっと、大事なことを忘れてた!この店の商品は、お金ではなく“寿命”で支払ってもらわなくちゃいけないんだ」
「例えばこの瓶」
男の人は、青い、海のような柄の瓶を手に取った。
「これは海が描かれているだろう?この瓶を買った人は、海に行くっていう夢を叶えられる。この瓶を買う時には、一カ月の寿命と交換するんだ」
「あとこの瓶は…」
次は紫色の渦巻きが描かれている瓶を取った。
「魔法が使えるようになる瓶だよ。夢みたいだろ?でもね…この瓶と交換する寿命は…」
「買った日以外の全部だ」
「つまり…、君がこの瓶を今日買ったとすると、君に残った寿命は今日だけ、ということになる」
僕は言葉が出なくなった。
「この店に誰が来るのかは、もう予知していたから、君が来ることは分かっていたよ。君の願いは何かな?この店はどんな願いも叶えられるように、沢山の瓶があるんだ。どれにする?…とその前に、君の寿命をみせてくれ」
男の人はひとしきり喋った後、僕の額に手をかざした。
男の人の動きが止まった。
「君の寿命は一週間だ」
「え?」
でも心当たりがあった。
「僕、病気をもってて…」
「そうか…。さて、どれにする?」
「あの…これ下さい」
僕は、オレンジ色の瓶を取って言った。
「それは“正直になる薬”…?どうしてその瓶を買うんだい?」
「えっと…いつも家族にありがとうって言えてないから…」
「そっか。それは…もらう寿命は3日だ。寿命は今日も合わせてあと4日。本当に、それでいいんだね?」
「…はい」
「どうぞ。水に薄めて飲んでね」
僕はこの瓶を買って店を出た。
―――――――――――――――――――――――――――――――
ーあの少年が店に来てから、5日。
やはり、あの少年は亡くなったらしい。
自己紹介が遅れた。僕はこの店の店主、ルグレだ。
カランカラン…
また誰か来たみたいだ。
「こんにちは」
やってきたのは女の子だった。
「いらっしゃい♪」
明るく言ったが、少女は暗かった。さっきまで泣いていたような、涙の跡がある。
「どうしたんだい?」
「私の友達のベレトが…死んじゃった」
「え?」
「べレトヘイトっていう名前の子。私はべレトって呼んでる。その子が病気で死んじゃった」
あの少年のことか…。
「で、何でこの店に?」
「えーと…“探し物が見つかる薬”が欲しいの」
「何でその薬が必要なんだい?」
「えーっとね…」
「ベレトのお墓参りに行くとき、私のネックレスを置いて行ってあげようと思ってたの。私がそばにいるって思ってもらいたくて」
「でも…。私が置いていこうと思っていたネックレスが見つからなくて…」
少女は泣きそうになりながら必死に言った。
「この瓶を買うことは、命を削ることだと分かっているかい?」
「ええ」
「じゃあどうぞ。水に薄めてね」
僕はきれいな真珠色の瓶を渡した。
「この薬は3カ月分の寿命と引き換えだよ」
少女は店を出ていった。
――――――――――――――――――――――――――――――
だが次の日。
カランカラン…
「あれ…君、きのうもきたよね?」
「はい…。ネックレスは見つかって、お墓参りにも行ったけど…」
「どうした?」
「やっぱりベレトに会いたい!」
「店長さん、“会いたい人に会える薬”を頂戴!」
「…分かった」
一番奥の棚の黒い瓶をとって、渡した。
「ありがとう」
これが、この少女との最後の会話。
僕は薄暗い店内をぼーっと見ていた。
少女に渡したのは“苦しまずに死ぬ薬”だ。
べレト君はすでに死んでいる。
べレト君に会うにはこの方法しかない…。
そもそも、僕が人の寿命を取るようになったのは、この店に宿る魔女様の願いを叶えるためだった。
魔女は不死身になりたいと言った。
そのためには、多くの人間の寿命が要る。
途中で何度もやめたくなったけど、契約してからではもう遅い。
けど、もうすぐで十分な量が集まる。
そして僕は、魔女様に命を捧げて…終わる。
僕は紫色の渦巻きが描かれている瓶をとり、
「これ下さい」
と誰もいない店内に言った。 もはや猫さん(選択なし・12さい)からの相談
とうこう日:2020年10月10日みんなの答え:1件
ドアのベルが可愛らしい音を立てた。
ベルといったら、チリンと金属音をたてると思うが、このベルはさび付いて、そんな音も鳴りそうにない。
「いらっしゃい」
僕がドアを開けると、若い男の人がそう言った。
「子供なんて珍しいね…」
やけににやついている。
「君はこの店が何の店か、分かってる?」
「いえ…」
「じゃあ君はこの店に何の用があるんだ?」
「気になって入ってみただけです…」
なんだか恐ろしい雰囲気に、僕はぞっとした。
「この店は…簡単に言うと、客の願望を叶えてあげる店。実はね、この店は用がある人にしか見えないんだ。君も何か願い事があるんだろ?」
僕は目を見開いた。
「はい。そうですけど願い事を叶えるって…」
「おっと、大事なことを忘れてた!この店の商品は、お金ではなく“寿命”で支払ってもらわなくちゃいけないんだ」
「例えばこの瓶」
男の人は、青い、海のような柄の瓶を手に取った。
「これは海が描かれているだろう?この瓶を買った人は、海に行くっていう夢を叶えられる。この瓶を買う時には、一カ月の寿命と交換するんだ」
「あとこの瓶は…」
次は紫色の渦巻きが描かれている瓶を取った。
「魔法が使えるようになる瓶だよ。夢みたいだろ?でもね…この瓶と交換する寿命は…」
「買った日以外の全部だ」
「つまり…、君がこの瓶を今日買ったとすると、君に残った寿命は今日だけ、ということになる」
僕は言葉が出なくなった。
「この店に誰が来るのかは、もう予知していたから、君が来ることは分かっていたよ。君の願いは何かな?この店はどんな願いも叶えられるように、沢山の瓶があるんだ。どれにする?…とその前に、君の寿命をみせてくれ」
男の人はひとしきり喋った後、僕の額に手をかざした。
男の人の動きが止まった。
「君の寿命は一週間だ」
「え?」
でも心当たりがあった。
「僕、病気をもってて…」
「そうか…。さて、どれにする?」
「あの…これ下さい」
僕は、オレンジ色の瓶を取って言った。
「それは“正直になる薬”…?どうしてその瓶を買うんだい?」
「えっと…いつも家族にありがとうって言えてないから…」
「そっか。それは…もらう寿命は3日だ。寿命は今日も合わせてあと4日。本当に、それでいいんだね?」
「…はい」
「どうぞ。水に薄めて飲んでね」
僕はこの瓶を買って店を出た。
―――――――――――――――――――――――――――――――
ーあの少年が店に来てから、5日。
やはり、あの少年は亡くなったらしい。
自己紹介が遅れた。僕はこの店の店主、ルグレだ。
カランカラン…
また誰か来たみたいだ。
「こんにちは」
やってきたのは女の子だった。
「いらっしゃい♪」
明るく言ったが、少女は暗かった。さっきまで泣いていたような、涙の跡がある。
「どうしたんだい?」
「私の友達のベレトが…死んじゃった」
「え?」
「べレトヘイトっていう名前の子。私はべレトって呼んでる。その子が病気で死んじゃった」
あの少年のことか…。
「で、何でこの店に?」
「えーと…“探し物が見つかる薬”が欲しいの」
「何でその薬が必要なんだい?」
「えーっとね…」
「ベレトのお墓参りに行くとき、私のネックレスを置いて行ってあげようと思ってたの。私がそばにいるって思ってもらいたくて」
「でも…。私が置いていこうと思っていたネックレスが見つからなくて…」
少女は泣きそうになりながら必死に言った。
「この瓶を買うことは、命を削ることだと分かっているかい?」
「ええ」
「じゃあどうぞ。水に薄めてね」
僕はきれいな真珠色の瓶を渡した。
「この薬は3カ月分の寿命と引き換えだよ」
少女は店を出ていった。
――――――――――――――――――――――――――――――
だが次の日。
カランカラン…
「あれ…君、きのうもきたよね?」
「はい…。ネックレスは見つかって、お墓参りにも行ったけど…」
「どうした?」
「やっぱりベレトに会いたい!」
「店長さん、“会いたい人に会える薬”を頂戴!」
「…分かった」
一番奥の棚の黒い瓶をとって、渡した。
「ありがとう」
これが、この少女との最後の会話。
僕は薄暗い店内をぼーっと見ていた。
少女に渡したのは“苦しまずに死ぬ薬”だ。
べレト君はすでに死んでいる。
べレト君に会うにはこの方法しかない…。
そもそも、僕が人の寿命を取るようになったのは、この店に宿る魔女様の願いを叶えるためだった。
魔女は不死身になりたいと言った。
そのためには、多くの人間の寿命が要る。
途中で何度もやめたくなったけど、契約してからではもう遅い。
けど、もうすぐで十分な量が集まる。
そして僕は、魔女様に命を捧げて…終わる。
僕は紫色の渦巻きが描かれている瓶をとり、
「これ下さい」
と誰もいない店内に言った。 もはや猫さん(選択なし・12さい)からの相談
とうこう日:2020年10月10日みんなの答え:1件
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1
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-
ゆっ様です! なんだろーなーこー凄い複雑のような心に残る感じの
短編小説ですね!
私もこういう中身のある短編小説書きたいですよー(笑)
これからも書いてください!
ゆっ様 ゆっ様さん(埼玉・11さい)からの答え
とうこう日:2020年10月11日
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- 【「相談するとき」「相談の答え(回答)を書くとき」のルール】をかならず読んでから、ルールを守って投稿してください。
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- 「短編小説投稿について」をかならず読んでから、ルールを守って投稿してください。
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