私たちが壊したもの
ある人気な海水浴場では、大人から小さな子供まで、53人が行方不明になった。
また、世界をめぐるツアーの途中だった豪華客船は、海の真ん中で姿を消してしまったそうだ。その日は雲ひとつない快晴で、風も吹いていなかったそうだ。なのにも関わらず、乗客約3500人、1人残らず消えてしまったそう。
いずれも、死体は見つからなかった。
専門家は新生物が動き出しているだの、深海から巨大生物が上がってきてしまっただの、証拠のない説を並べている。その前にやることがあるんじゃないの?
例えばさ、
行方不明者を探すとか。
1年前のことだった。
白い砂浜は暑くて、でも、青い海は冷たかった。
少しゴミが捨ててあるのは気になるが、つい、はしゃいでしまった。
「お姉ちゃん、競争しよ!」
「どこまで?」
「あのブイまで」
少し沖に浮かんでいるブイを指差した。
「ちょっと遠くない?」
「じゃあお姉ちゃんの負けね〜」
私は泳ぎだす。
「あんまり遠くに行っちゃダメよ〜」
お母さんの声が聞こえた。お母さんとお父さんは浅瀬で泳いでいた。
「分かってるー!」
私は適当に返事をした。
初めは違和感なんて感じなかった。しかし、泳いでいくにつれて、水が重たく感じるようになってきた。水が身体中にまとわりつく。思わず私は顔をあげた。
そのとき、私は見てしまった。
お姉ちゃんが何かに引き釣り込まれるように、海の中に沈んでいったのを。
「お姉ちゃん?!」
慌てて潜ってみたが、お姉ちゃんの姿は見えない。
ふと、海水浴場全体がざわついていることに気がついた。
「彼女が海に沈んだんだ!!」
「娘がいないのよ!」
「早くあがれー!」
目の前でどんどん人が沈んでいく。
怖くなって無我夢中で岸に向かって泳いだ。海の得体の知れない生物が今にも襲いかかってきそうで、怖くて怖くて。
気がついたら砂浜に寝そべっていた。お姉ちゃんも、お母さんも、お父さんもいなかった。
海に消えた人を、海上自衛隊が捜索している。私は待った。砂浜に1人座って、ずっと待っていた。
日没が近づき、今日の捜索は終わったようだ。海に浮かんでいるような燃える夕陽を見ても、何も思わなかった。
お姉ちゃんとお母さんとお父さんは、戻ってこなかった。私が競争しようなんて言わなかったらお姉ちゃんは死ななかったのかな。なのに私だけがこの世界に残り、息をしている。昨日も今日も、きっと明日も。
でも、いくら明日を迎えられても、私1人じゃ意味がないんだよ。ねえお姉ちゃん、また競争しようよ。ねえお母さん、またお買い物行こうよ。ねえお父さん、また勉強教えてよ。
私は今日、あの海水浴場に来ていた。1年経ち、海水浴の季節だと言うのに人はいなかった。あるものと言えば、遊泳禁止の看板だけ。私はその看板を押し退け、砂浜を歩いた。
きっと誰も来なくなったからだろう、砂浜にはゴミ1つ落ちていなかった。
去年と同じ砂浜の暑さ、海の青さだけど、何かが物足りない。きっと家族がいないから。私は服を脱いだ。服の下に水着を来ているのだ。
私は持ってきた花束を抱えてゆっくりと海に入った。
そう、今日はお姉ちゃんたちの命日なのだ。
あの競争のゴールだったブイへゆっくり近づく。花束を浮かべた。そして、お姉ちゃんとお母さんとお父さんと、海の謎の生物に襲われちゃった人たち全員に向けて手を合わせた。
「ねえお姉ちゃん。あの競争の続きしようよ。今度は岸までだよ?」
お姉ちゃん、私、明日から前を向くね。それから、お姉ちゃんのぶんまで幸せになるね。
「よーい、どん!」
私は岸に向かって泳ぎだす。きっとお姉ちゃんも泳いでる。
もうすぐで足が付きそうになる、そのときだった。
グイッ
何かに足を強く引っ張られた。
「ひっ」
もがけばもがくほど重たい水に飲み込まれていく。
何かいる。海のなかに、何かいる。得体の知れない、誰も知らない生物が。
私は海のなかに引き釣り込まれた。
そのとき、私は確かに聞いたんだ。
海の声を。
『まったく、どいつもこいつもポイ捨てしやがる。自然をゴミ箱と勘違いしてんのか?』
その言葉を聞いた瞬間、私は全てを理解した。
どんな専門家も、偉い人も考えなかったようなこと。それが、答えなんだ。
海は、生きてるんだ。
海自体が、生き物で、自分の意思で人を引き釣り込んでたんだ。
これ以上汚されないように。
海に住む魚を守るために。
私はゆっくりと意識を闇に落としていった。
自然を壊さないでください。みんな生きてる。自分の意思がある。もし、自然を壊すのをやめなければ、自然に壊されるのは、
私たち、人間の方なのかもしれません。 華さん(鳥取・14さい)からの相談
とうこう日:2020年10月11日みんなの答え:7件
また、世界をめぐるツアーの途中だった豪華客船は、海の真ん中で姿を消してしまったそうだ。その日は雲ひとつない快晴で、風も吹いていなかったそうだ。なのにも関わらず、乗客約3500人、1人残らず消えてしまったそう。
いずれも、死体は見つからなかった。
専門家は新生物が動き出しているだの、深海から巨大生物が上がってきてしまっただの、証拠のない説を並べている。その前にやることがあるんじゃないの?
例えばさ、
行方不明者を探すとか。
1年前のことだった。
白い砂浜は暑くて、でも、青い海は冷たかった。
少しゴミが捨ててあるのは気になるが、つい、はしゃいでしまった。
「お姉ちゃん、競争しよ!」
「どこまで?」
「あのブイまで」
少し沖に浮かんでいるブイを指差した。
「ちょっと遠くない?」
「じゃあお姉ちゃんの負けね〜」
私は泳ぎだす。
「あんまり遠くに行っちゃダメよ〜」
お母さんの声が聞こえた。お母さんとお父さんは浅瀬で泳いでいた。
「分かってるー!」
私は適当に返事をした。
初めは違和感なんて感じなかった。しかし、泳いでいくにつれて、水が重たく感じるようになってきた。水が身体中にまとわりつく。思わず私は顔をあげた。
そのとき、私は見てしまった。
お姉ちゃんが何かに引き釣り込まれるように、海の中に沈んでいったのを。
「お姉ちゃん?!」
慌てて潜ってみたが、お姉ちゃんの姿は見えない。
ふと、海水浴場全体がざわついていることに気がついた。
「彼女が海に沈んだんだ!!」
「娘がいないのよ!」
「早くあがれー!」
目の前でどんどん人が沈んでいく。
怖くなって無我夢中で岸に向かって泳いだ。海の得体の知れない生物が今にも襲いかかってきそうで、怖くて怖くて。
気がついたら砂浜に寝そべっていた。お姉ちゃんも、お母さんも、お父さんもいなかった。
海に消えた人を、海上自衛隊が捜索している。私は待った。砂浜に1人座って、ずっと待っていた。
日没が近づき、今日の捜索は終わったようだ。海に浮かんでいるような燃える夕陽を見ても、何も思わなかった。
お姉ちゃんとお母さんとお父さんは、戻ってこなかった。私が競争しようなんて言わなかったらお姉ちゃんは死ななかったのかな。なのに私だけがこの世界に残り、息をしている。昨日も今日も、きっと明日も。
でも、いくら明日を迎えられても、私1人じゃ意味がないんだよ。ねえお姉ちゃん、また競争しようよ。ねえお母さん、またお買い物行こうよ。ねえお父さん、また勉強教えてよ。
私は今日、あの海水浴場に来ていた。1年経ち、海水浴の季節だと言うのに人はいなかった。あるものと言えば、遊泳禁止の看板だけ。私はその看板を押し退け、砂浜を歩いた。
きっと誰も来なくなったからだろう、砂浜にはゴミ1つ落ちていなかった。
去年と同じ砂浜の暑さ、海の青さだけど、何かが物足りない。きっと家族がいないから。私は服を脱いだ。服の下に水着を来ているのだ。
私は持ってきた花束を抱えてゆっくりと海に入った。
そう、今日はお姉ちゃんたちの命日なのだ。
あの競争のゴールだったブイへゆっくり近づく。花束を浮かべた。そして、お姉ちゃんとお母さんとお父さんと、海の謎の生物に襲われちゃった人たち全員に向けて手を合わせた。
「ねえお姉ちゃん。あの競争の続きしようよ。今度は岸までだよ?」
お姉ちゃん、私、明日から前を向くね。それから、お姉ちゃんのぶんまで幸せになるね。
「よーい、どん!」
私は岸に向かって泳ぎだす。きっとお姉ちゃんも泳いでる。
もうすぐで足が付きそうになる、そのときだった。
グイッ
何かに足を強く引っ張られた。
「ひっ」
もがけばもがくほど重たい水に飲み込まれていく。
何かいる。海のなかに、何かいる。得体の知れない、誰も知らない生物が。
私は海のなかに引き釣り込まれた。
そのとき、私は確かに聞いたんだ。
海の声を。
『まったく、どいつもこいつもポイ捨てしやがる。自然をゴミ箱と勘違いしてんのか?』
その言葉を聞いた瞬間、私は全てを理解した。
どんな専門家も、偉い人も考えなかったようなこと。それが、答えなんだ。
海は、生きてるんだ。
海自体が、生き物で、自分の意思で人を引き釣り込んでたんだ。
これ以上汚されないように。
海に住む魚を守るために。
私はゆっくりと意識を闇に落としていった。
自然を壊さないでください。みんな生きてる。自分の意思がある。もし、自然を壊すのをやめなければ、自然に壊されるのは、
私たち、人間の方なのかもしれません。 華さん(鳥取・14さい)からの相談
とうこう日:2020年10月11日みんなの答え:7件
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すごっ! 最後のコメントのところで、グッと来ました! 196 0871さん(選択なし・12さい)からの答え
とうこう日:2020年11月12日 -
ふぁっ!!! はろーはろー輪廻転生!輪廻です!
待ってました!
華さんのは毎回クオリティーが高くて心が動かされます!
今回の小説も真剣に読んでいたら自然によだれが、、、(なんで?)
海は怖いですね…海水浴場で溺れて亡くなっている正体は………
考えられる話になりました!
バサッ
輪廻さん(東京・12さい)からの答え
とうこう日:2020年10月14日 -
スッゴーい! 華さんのファンから大ファンに変わりましたぁ!
ありがとうございます。
また、書いてください! 凪渚さん(山梨・12さい)からの答え
とうこう日:2020年10月13日 -
タイムリー…!! 三井商船の…石油流出を思い出しました…。なんて時事ネタは置いておいて。
私は、物心ついてから海水浴場に行ったことがありません。泳ぐといえばプールなんです(笑)生粋の長野県民…。
でもこのお話を読んで、海が少しだけ怖くなりました。
丁寧な描写、そして終盤の改行がとても上手くて、物語に入り込めました。とても面白かったです。
なんかもっと自然を守るべきですよね…レジ袋の有料化とかありましたけど、あれよくよく調べると「石油の使用量を減らす」っていう所を大切にしているんですよね。ポイ捨ては減るかもしれないけど、ポイ捨てする人はまずエコバッグ持ち歩かないし…。
んー…難しいですね(笑)でもすごく考えさせられました。
素敵なお話ありがとうございました♪ 臣 さん(長野・14さい)からの答え
とうこう日:2020年10月12日 -
!!! すごい!上手ですね。普段あんまりこの小説コーナー?にコメント残さないんですけど、この作品にはコメント書かずにいられなかった!とっっってもじょうずです! ニナさん(東京・15さい)からの答え
とうこう日:2020年10月12日 -
凄いです!!!! 短編小説感動しました!私は今度美術部で読書感想画があるのですが、これが使いたかったです!!!もう一回言います。感動しました!! 少女さん(神奈川・13さい)からの答え
とうこう日:2020年10月12日 -
凄ッッ こんちわぁ!エナガ大好きなシマエナガでーす!
クオリティ高っ!!プロかと思ったよ!
最初は怖い話かと思ったけど、読んでいくうちに理由がわかって…
これからは一切ポイ捨てしない事を誓います!
読みやすいし、話が深いのがすげぇ…!
神小説ありがとう!
では、さいなぁら! シマエナガさん(選択なし・11さい)からの答え
とうこう日:2020年10月12日
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