春愁
「この度は、ご卒業おめでとうございます」。その言葉と同時に、体育館内に拍手が湧いた。長く椅子に座っているのも辛かった。花で作られたアーチを通って、後は帰るだけだ。そう、帰るだけだ。
寂しい。これが春愁(しゅんしゅう)か。
ローファーが、時折コツコツと音を立てて揺れる。廊下を歩くと、各教室内の黒板には、教師からなんらかの言葉が書かれている。
綺麗事だな、と少し思う。
教室の窓から下を覗くと、色とりどりな制服、袴が集まっていた。皆が花畑の花のように見えた。それに比べて、自分は1人で教室に居た。今日、泣いてる人が意外と多くて、改めて自分は、中学校になんの思い出も、なんの笑いも涙も無かったのだな、と感じる。
窓から桜の花びらがひとつ、舞い降りてきた。それを手のひらで包むと、その花びらは私の手にピタっと、張り付いた。
その花びらだけは、私に寄り添ってくれている気がした。その途端、
「先輩」という声が聞こえてきた。
後ろを振り返ると、吹奏楽部の後輩くんが居た。いつもの気が強そうな顔をしてる。私は笑って後輩くんに駆け寄った。
「どうしたの、後輩くん」
「…ご卒業おめでとうございます。」
なんだ、彼はわざわざそれを言いに来たのか。少し、笑ってしまった。
「先輩、」
「どうしたの、」
「せんぱい、」
後輩くんは、泣きそうな声で、私の肩に縋りついてきた。
だけど、その腕はすり抜けた。
「先輩、もう3年生ですよね」
「そうだね、」
「先輩、なんで卒業証書貰ってないんですか」
後輩くんの声が、だんだん小さくなっていくのを感じる。それに応えるのに、どうしようと思っている中、窓から、風が吹いた。桜の花びらが、教室にも舞った。
「理由は君が1番知ってるでしょ」
「君の家系、神社とかに関係してるでしょ」
「だから君は、私が見えるの。」
カーテンが揺れる。
「先輩、学校好きですか」
「うん、好きだよ。」
「先輩、卒業しちゃうんですか」
「私は分かんないな」
「先輩、」
「どうしたの」
「俺、先輩の事が」
その時、ぶわっと風が吹いた。そして、最後のチャイムも鳴った。私にとって、最後のチャイムだった。
後輩くんの下の床が濡れてるのを見る。後輩くんは、自分の顔は見せまいと顔を隠している。
そんな彼を見て、
最後のチャイムが鳴ってから、思ってしまった。
「ねぇ、後輩くん」
「私まだここに居ていいのかな」
「こうはいくん」
「俺の血縁が、許してくれるか分かりません」
「なにせ、俺は」
「先輩の存在を消してしまった」
「血を持っているから」
。
お互いに関わりあえなかった幽霊の女の子と後輩くんのお話。
春愁は、春に感じる少し物寂しい気持ち。みたいな感じです。 いわさきさん(東京・12さい)からの相談
とうこう日:2020年11月27日みんなの答え:6件
寂しい。これが春愁(しゅんしゅう)か。
ローファーが、時折コツコツと音を立てて揺れる。廊下を歩くと、各教室内の黒板には、教師からなんらかの言葉が書かれている。
綺麗事だな、と少し思う。
教室の窓から下を覗くと、色とりどりな制服、袴が集まっていた。皆が花畑の花のように見えた。それに比べて、自分は1人で教室に居た。今日、泣いてる人が意外と多くて、改めて自分は、中学校になんの思い出も、なんの笑いも涙も無かったのだな、と感じる。
窓から桜の花びらがひとつ、舞い降りてきた。それを手のひらで包むと、その花びらは私の手にピタっと、張り付いた。
その花びらだけは、私に寄り添ってくれている気がした。その途端、
「先輩」という声が聞こえてきた。
後ろを振り返ると、吹奏楽部の後輩くんが居た。いつもの気が強そうな顔をしてる。私は笑って後輩くんに駆け寄った。
「どうしたの、後輩くん」
「…ご卒業おめでとうございます。」
なんだ、彼はわざわざそれを言いに来たのか。少し、笑ってしまった。
「先輩、」
「どうしたの、」
「せんぱい、」
後輩くんは、泣きそうな声で、私の肩に縋りついてきた。
だけど、その腕はすり抜けた。
「先輩、もう3年生ですよね」
「そうだね、」
「先輩、なんで卒業証書貰ってないんですか」
後輩くんの声が、だんだん小さくなっていくのを感じる。それに応えるのに、どうしようと思っている中、窓から、風が吹いた。桜の花びらが、教室にも舞った。
「理由は君が1番知ってるでしょ」
「君の家系、神社とかに関係してるでしょ」
「だから君は、私が見えるの。」
カーテンが揺れる。
「先輩、学校好きですか」
「うん、好きだよ。」
「先輩、卒業しちゃうんですか」
「私は分かんないな」
「先輩、」
「どうしたの」
「俺、先輩の事が」
その時、ぶわっと風が吹いた。そして、最後のチャイムも鳴った。私にとって、最後のチャイムだった。
後輩くんの下の床が濡れてるのを見る。後輩くんは、自分の顔は見せまいと顔を隠している。
そんな彼を見て、
最後のチャイムが鳴ってから、思ってしまった。
「ねぇ、後輩くん」
「私まだここに居ていいのかな」
「こうはいくん」
「俺の血縁が、許してくれるか分かりません」
「なにせ、俺は」
「先輩の存在を消してしまった」
「血を持っているから」
。
お互いに関わりあえなかった幽霊の女の子と後輩くんのお話。
春愁は、春に感じる少し物寂しい気持ち。みたいな感じです。 いわさきさん(東京・12さい)からの相談
とうこう日:2020年11月27日みんなの答え:6件
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すごい! とても素敵です!
映画の小説みたい…
またね。〜 すみっコぐらしさん(選択なし・11さい)からの答え
とうこう日:2020年11月29日 -
とても好きです…! いわさきさん、今回も素晴らしい作品をありがとうございます。
いわさきさんの短編小説は、短編なのに、読み終わると映画を観たような満足感があります。
本当に素晴らしいです。
今回の作品では、先輩と後輩くんのテンポの良いかけあいや、『その花びらだけは、私に寄り添ってくれている気がした』の表現が好きです。
素敵な作品をありがとうございました…! オルゴール@低気圧さん(選択なし・15さい)からの答え
とうこう日:2020年11月29日 -
悲しい・・・ どーも!
家系で、恋が叶わない後輩くんが・・・悲しい・・・
あと、何の思い出もなくて、卒業もできないかも知れない先輩も・・・(泣)
あと、情景描写が素敵です!私のは、ストレートに気持ちを言ってしまうのが多いので、尊敬します!
この小説好きです!
では〜! みかん(元ミルク多めのコーヒー)さん(埼玉・11さい)からの答え
とうこう日:2020年11月28日 -
こういう経験してみたいです! いいですね〜。私も、もうすぐ卒業なので幽霊の女の子になったつもりで読みました。 かれんさん(福岡・11さい)からの答え
とうこう日:2020年11月28日 -
面白かったです! 始めは、普通の卒業の話かなと思ってたけど、女の子の心境が詳しく描かれていていつの間にか、引き込まれていきました。
最後が、儚くて切ないなと思いました。
話の展開がよくテンポよくて面白かったです。 アニメオタク(歌い手も好き)本好きメガネさん(兵庫・14さい)からの答え
とうこう日:2020年11月28日 -
す、す、、、、、、すき! めっちゃ好きな小説でした!
小説家がかいたと言われても
信じますよ!それぐらい凄い!!
私の語彙力がないからこの凄さを感想
としてしっかり伝えられないけど
気持ち分かってくれたら嬉しいです!
とにかく大好きな小説でした!
七夕_なゆ_元あさり☆さん(選択なし・14さい)からの答え
とうこう日:2020年11月28日
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