大人すぎて子供すぎた恋
時は江戸。俺らはまだ、16歳の不器用な少年少女だった。
「私、婚約者が決まった。明日の朝早く、都へ行くの」
草原で話していたとき、急に近所に住む幼馴染のチヨがそう言い出した。
とうとう、このときが来たか。そう思った。この時代、自分の結婚相手を自分で決めることはできない。そんなこと、ずっと前から分かってたはずなのに、なんでだろう。こんなに胸が苦しいのは。
「良かったな、チヨ」
それだけ言うのが精一杯だった。
「それ以外いうことないの?もう会えなくなっちゃうんだよ?」
分かってるよ。そんなこと。でも、でも……
好きだなんて、言えるわけないだろ……
「別に。それよりも、良いのかよ。こんなとこいて。明日から都に行くんだろ?」
「もう準備はできててね、お父様が、セイちゃんに会ってきていいって言ってくれたの」
チヨが可愛らしく笑う。ずるい。そんなに可愛いの、ずるいよ。
それからは、何分も、何時間も中身のない会話をしていた。まあチヨが一方的に喋っていて、俺は聞いていただけだが。
それでも楽しい時間を過ごすことができた。夢中で話すチヨを見つめる。
猫のような大きな目と、笑ったときにできる可愛らしいえくぼ。髪につけた小さな赤いリボン。小さい頃から変わらないチヨ。ずっと、ずっと、ずっと。ずっと前から好きだった。
でも、どんなに願っても、明日にはもう彼女はここにはいない。
だからお願い。どうか今日だけは夜にならないで。
あの頃、僕らはまだ7歳だった。自分に正直に生きる、無邪気な子供だった。
草原で走り回り、疲れきって草原に2人で寝転んだ。草のチクチクした感触が気持ちが良かった。
「ねえねえセイちゃん。アキお姉ちゃんがお嫁に行ったの、知ってる?」
アキお姉ちゃんとは、近所に住んでいるアキコさんのことだ。
「知ってるよ。都に行ったんでしょ?」
「うん。寂しいなあ」
チヨちゃんがため息をつく。
「チヨちゃんだっていつかは結婚するんだよ」
「えーやだなあ」
嫌って言われても……。僕は苦笑いしながらチヨちゃんをみつめた。ふと、あることに気づく。
「チヨちゃん、そのリボン……」
チヨちゃんの頭についた、小さな赤いリボンを指差した。昨日まではついていなかったはずの赤いリボン。
チヨちゃんは自慢気に、頭の赤いリボンを外して見してきた。
「これね、アキお姉ちゃんにもらったの。可愛いでしょ」
僕は素直に頷く。本当にリボンは可愛らしかったし、それをつけたチヨちゃんはもっとかわいかった。
「うふふ。私ね、大きくなったらセイちゃんと結婚したいな!」
胸が小さく高鳴る。
「僕も!」
チヨちゃんは笑ってくれた。僕も笑った。
あんな日々が続くんだと、あの頃の僕らは本気で思っていた。
もう辺りが暗くなり始めていた。
「帰ろうか」
「うん」
ゆっくりと立ち上がる。虫の声が響く夜、僕らは家に向かって歩きだした。
「ねえセイちゃん」
チヨが言う。チヨは僕より前を歩いているから、チヨがどんな顔をしているのか分からない。
心なしか、チヨの背中が寂しそうに見えた。
「何で私たち、自分の結婚相手すら自分で決められないんだろうね」
チヨが立ち止まる。
チヨはきっと、僕から言うのを待ってくれている。言わなくちゃ。
好きっていうなら今しかないんだ……
「チヨ……あの、僕!」
「好き」と言おうとした唇は、チヨによって塞がれた。人差し指を唇に当てられたのだ。
「ダメ。言っちゃダメだよ。家に帰れなくなる」
チヨは涙声だった。
僕は気づいていた。チヨが僕のこと好きなこと。そして、きっとチヨも気づいていた。僕がチヨのこと好きなこと。
知っていた。知っていたのに、知っているから言えなかったんだ。お互いに。
小さい頃のように感情をすぐに口にできるほど僕らはもう子供ではない。
しかし、この大きくなりすぎた想いを抱えられるほど、僕らは大人ではない。
僕らは歳を重ねるごとに、恋に対して臆病になっていったんだ。
「そうだね。でも、でも……せめて今日だけは」
僕はチヨを抱き締めた。今日だけはチヨが僕を愛してくれていたことを感じていたい。そして、僕がチヨのこと愛していたことをチヨに感じてほしい。
このことは僕とチヨと、そして優しく僕らを照らしてくれている月だけ知ってる秘密。
僕らの大人すぎて、子供すぎる恋は、風と共に砕け散った。 華さん(鳥取・14さい)からの相談
とうこう日:2020年12月29日みんなの答え:4件
「私、婚約者が決まった。明日の朝早く、都へ行くの」
草原で話していたとき、急に近所に住む幼馴染のチヨがそう言い出した。
とうとう、このときが来たか。そう思った。この時代、自分の結婚相手を自分で決めることはできない。そんなこと、ずっと前から分かってたはずなのに、なんでだろう。こんなに胸が苦しいのは。
「良かったな、チヨ」
それだけ言うのが精一杯だった。
「それ以外いうことないの?もう会えなくなっちゃうんだよ?」
分かってるよ。そんなこと。でも、でも……
好きだなんて、言えるわけないだろ……
「別に。それよりも、良いのかよ。こんなとこいて。明日から都に行くんだろ?」
「もう準備はできててね、お父様が、セイちゃんに会ってきていいって言ってくれたの」
チヨが可愛らしく笑う。ずるい。そんなに可愛いの、ずるいよ。
それからは、何分も、何時間も中身のない会話をしていた。まあチヨが一方的に喋っていて、俺は聞いていただけだが。
それでも楽しい時間を過ごすことができた。夢中で話すチヨを見つめる。
猫のような大きな目と、笑ったときにできる可愛らしいえくぼ。髪につけた小さな赤いリボン。小さい頃から変わらないチヨ。ずっと、ずっと、ずっと。ずっと前から好きだった。
でも、どんなに願っても、明日にはもう彼女はここにはいない。
だからお願い。どうか今日だけは夜にならないで。
あの頃、僕らはまだ7歳だった。自分に正直に生きる、無邪気な子供だった。
草原で走り回り、疲れきって草原に2人で寝転んだ。草のチクチクした感触が気持ちが良かった。
「ねえねえセイちゃん。アキお姉ちゃんがお嫁に行ったの、知ってる?」
アキお姉ちゃんとは、近所に住んでいるアキコさんのことだ。
「知ってるよ。都に行ったんでしょ?」
「うん。寂しいなあ」
チヨちゃんがため息をつく。
「チヨちゃんだっていつかは結婚するんだよ」
「えーやだなあ」
嫌って言われても……。僕は苦笑いしながらチヨちゃんをみつめた。ふと、あることに気づく。
「チヨちゃん、そのリボン……」
チヨちゃんの頭についた、小さな赤いリボンを指差した。昨日まではついていなかったはずの赤いリボン。
チヨちゃんは自慢気に、頭の赤いリボンを外して見してきた。
「これね、アキお姉ちゃんにもらったの。可愛いでしょ」
僕は素直に頷く。本当にリボンは可愛らしかったし、それをつけたチヨちゃんはもっとかわいかった。
「うふふ。私ね、大きくなったらセイちゃんと結婚したいな!」
胸が小さく高鳴る。
「僕も!」
チヨちゃんは笑ってくれた。僕も笑った。
あんな日々が続くんだと、あの頃の僕らは本気で思っていた。
もう辺りが暗くなり始めていた。
「帰ろうか」
「うん」
ゆっくりと立ち上がる。虫の声が響く夜、僕らは家に向かって歩きだした。
「ねえセイちゃん」
チヨが言う。チヨは僕より前を歩いているから、チヨがどんな顔をしているのか分からない。
心なしか、チヨの背中が寂しそうに見えた。
「何で私たち、自分の結婚相手すら自分で決められないんだろうね」
チヨが立ち止まる。
チヨはきっと、僕から言うのを待ってくれている。言わなくちゃ。
好きっていうなら今しかないんだ……
「チヨ……あの、僕!」
「好き」と言おうとした唇は、チヨによって塞がれた。人差し指を唇に当てられたのだ。
「ダメ。言っちゃダメだよ。家に帰れなくなる」
チヨは涙声だった。
僕は気づいていた。チヨが僕のこと好きなこと。そして、きっとチヨも気づいていた。僕がチヨのこと好きなこと。
知っていた。知っていたのに、知っているから言えなかったんだ。お互いに。
小さい頃のように感情をすぐに口にできるほど僕らはもう子供ではない。
しかし、この大きくなりすぎた想いを抱えられるほど、僕らは大人ではない。
僕らは歳を重ねるごとに、恋に対して臆病になっていったんだ。
「そうだね。でも、でも……せめて今日だけは」
僕はチヨを抱き締めた。今日だけはチヨが僕を愛してくれていたことを感じていたい。そして、僕がチヨのこと愛していたことをチヨに感じてほしい。
このことは僕とチヨと、そして優しく僕らを照らしてくれている月だけ知ってる秘密。
僕らの大人すぎて、子供すぎる恋は、風と共に砕け散った。 華さん(鳥取・14さい)からの相談
とうこう日:2020年12月29日みんなの答え:4件
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凄くいい! 大人すぎて子供すぎた恋というタイトルに惹かれてこの物語を読んだら、とても感動しました。
何度読んでも泣いてしまいます!
私も数々の物語を書いてきましたが、こんなに素敵な物語は書けませんでした。
是非、作家デビューを!! このみんさん(選択なし・11さい)からの答え
とうこう日:2023年4月3日 -
うぅっ!泣けた! めっちゃ泣きました…昔じゃなくてよかったー物語のストーリーが頭に思い浮かぶ!すごい!
困ったさん(東京・10さい)からの答え
とうこう日:2022年7月22日 -
う…わ…好みです…っ 唐突な自分語りになるんですが…私、悲恋大好きなんですよ( ̄^ ̄*)
だからこの作品、好みドンピシャで…しかも違う人と結婚したあとも、その人とセイを重ねちゃったり比べちゃったりするのかなとか。妄想膨らみました!あざした!
とても素敵なお話でした!ありがとうございました♪ 臣 さん(長野・14さい)からの答え
とうこう日:2021年1月1日 -
悲し一… 昔はそんなこともあったんですね…
華さん!ぜひ続き読ませて下さい!
「セイちゃんとチヨちゃんがめでたく結ばれる!これぞ真実の愛!」みたいな(笑)
期待しておリます! ルイさん(東京・12さい)からの答え
とうこう日:2020年12月31日
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