誰にも評価されない
人は孤独か、と言われたら私は即答する。
誰にも認められない挙げ句、見向きもされない。
今日、孤独じゃない人は孤独な人同士で集まれるだけ。
それができない人に、差し伸べられる手はない。
分かりきったことだ__
コンビニから、1人の女が出てきた。
年は三十代頃のように見えるが、確かではない。
後ろで一つに結んだ髪。
疲れたような眠そうな眼差し。
グレーのスーツを纏った姿は、仕事帰りであることを告げていた。
女は独りだった。
どれだけ仕事に精を出しても、認められない。
愚痴をネットで呟いたりしても、いいねもコメントもゼロ。
自分の才能を発揮できることを見つけても、反響はない。
そこで、女は気づいたのだ。
自分みたいな孤独な人間、評価してくれる人なんていない。
だから、こうやって退屈な毎日を繰り返すのだ。
女は何かを見つけて立ち止まった。
手に持っているビニール袋の中の酒の缶が乾いた音を立てた。
薄暗い道端にはダンボールが静かに佇んでいた。
それに毛布がかけられていることから、
女はその中身を悟ってしまった。
女の気配に気づいたのか、その中の者は仔猫特有のみゅー、という鳴き声をたてた。
女は溜息をついた。
いたたまれない。そう思い、ダンボールを開けた。
中にいたのは、一匹の黒い仔猫だ。
黒い毛並みに黄色い目は、見たのが夜なこと有り、ぞっと指せる何かがある。
ぼさぼさの毛はどこか鬣を思わせた。
目は開いているが、見えてはいないのだろうか。
気配だけで顔を上げて、女の手に自信の鼻面を擦りつけた。
その冷たい鼻面の感触に、女はヒヤッとした。
ただでさえ、夜気は衣の隙間から入り込むというのに。
この仔猫の体は、はっとするほど冷たかった。
立川凪咲は大層な大義を抱えるほどの人間じゃないし、特別お人好しでもない。
ただ、この境遇に置かれた仔猫が哀れだった。
同情心も感じていたのかもしれない。
育てるのは大変だぞ。病院代、餌代、おもちゃやトイレまで。
どれだけ費用がかかることやら。
仔猫を捨てた主人も、それが分かってたんだぞ。
凪咲に語りかける誰かの声。
すると、もう一人の声が聞こえてきたかのように、心に浮かび上がった。
今日、孤独じゃない人は孤独な人同士で集まれるだけなんだろ。
私もこの仔猫も。孤独じゃないか。
いや、違う。私は違う。
評価されないだけ。大体、猫と人間は違う。
本当にそう思ってる?そうなの?
今私が見捨てれば、この子は死ぬ。
それでいいの?
もういいよ。
心の中で荒々しく呟いて、心境とは真逆にそっと仔猫を掬いあげる。
毛布に包み、抱きしめると、凪咲は全力で家を目指した。
いいよ。飼えないなら、里親を探せばいい。
無理に飼う必要はないだろう。
凪咲の頭から、ビールの存在は消えていた。
家につくと凪咲は、猫の食べそうなものを探した。
仔猫だから肉は食えないかもしれない、と気づいたのは、魚肉ソーセージを取り出したときだ。
要領の悪い自分に心の中で舌打ちをして、牛乳をタッパーに注ぐ。
そして、ヒーターの前に毛布に包んで置いた仔猫の元へ歩み寄った。
猫に皿を差し出すも、食べない。
焦ってネットで調べてみると、どうやら子猫用ミルクというものを哺乳瓶で飲ませなければならないそうだ。
凪咲は迷った。仔猫を置いていくべきだろうか。
家の中で死んでいた、なんてことがあれば拾わなければ良かったかもしれない。
そんな凪咲の頭に、名案が思いついた。
そうだ、動物病院へ行けばいいんだ。
そうすれば、必要なものは全て手に入る。
凪咲は衰弱した仔猫を何故か持っていた百均で売っているレベルのバスケットに入れた。
小さなバスケットだったが、それよりも小さな仔猫はすっぽり収まった。
申し訳程度に入れたカイロと毛布で、体を温めてくれればいいのに。
そう思いつつも、凪咲はアパートの階段を駆け足で降り、白塗りの車へ乗り込んだ。
シートベルトをしてアクセルを踏むと、ハイブリッドカーである車は静かに進みだした。
夜でも開いている動物病院だが、人影はまばらだった。
蛍光灯に照らされて、仔猫が身動ぎをした。
「衰弱していますね。病気の予防の注射と、検査をします。
一時間ほどかかりますので、待合室でお待ちください」
少し眠そうな若い医者に言われ、凪咲は待ったが告げられたのは驚くべき事実。
「感染症などにはかかっていませんね。
ただ、生まれつき目が見えない病気にかかっているようです」
だから、あんなに頼りなさげだったんだ。
凪咲は合点が行き、ふっと息を吐いた。
こうやって、捨てられたのも。そのせいなのかもしれない。
三十代に見えた顔は、笑うと若く見えた。
案外、20代くらいかもしれない。
そして、孤独な女と孤独な仔猫の物語が幕を開けた。 鸞鳥さん(選択なし・13さい)からの相談
とうこう日:2020年12月31日みんなの答え:1件
誰にも認められない挙げ句、見向きもされない。
今日、孤独じゃない人は孤独な人同士で集まれるだけ。
それができない人に、差し伸べられる手はない。
分かりきったことだ__
コンビニから、1人の女が出てきた。
年は三十代頃のように見えるが、確かではない。
後ろで一つに結んだ髪。
疲れたような眠そうな眼差し。
グレーのスーツを纏った姿は、仕事帰りであることを告げていた。
女は独りだった。
どれだけ仕事に精を出しても、認められない。
愚痴をネットで呟いたりしても、いいねもコメントもゼロ。
自分の才能を発揮できることを見つけても、反響はない。
そこで、女は気づいたのだ。
自分みたいな孤独な人間、評価してくれる人なんていない。
だから、こうやって退屈な毎日を繰り返すのだ。
女は何かを見つけて立ち止まった。
手に持っているビニール袋の中の酒の缶が乾いた音を立てた。
薄暗い道端にはダンボールが静かに佇んでいた。
それに毛布がかけられていることから、
女はその中身を悟ってしまった。
女の気配に気づいたのか、その中の者は仔猫特有のみゅー、という鳴き声をたてた。
女は溜息をついた。
いたたまれない。そう思い、ダンボールを開けた。
中にいたのは、一匹の黒い仔猫だ。
黒い毛並みに黄色い目は、見たのが夜なこと有り、ぞっと指せる何かがある。
ぼさぼさの毛はどこか鬣を思わせた。
目は開いているが、見えてはいないのだろうか。
気配だけで顔を上げて、女の手に自信の鼻面を擦りつけた。
その冷たい鼻面の感触に、女はヒヤッとした。
ただでさえ、夜気は衣の隙間から入り込むというのに。
この仔猫の体は、はっとするほど冷たかった。
立川凪咲は大層な大義を抱えるほどの人間じゃないし、特別お人好しでもない。
ただ、この境遇に置かれた仔猫が哀れだった。
同情心も感じていたのかもしれない。
育てるのは大変だぞ。病院代、餌代、おもちゃやトイレまで。
どれだけ費用がかかることやら。
仔猫を捨てた主人も、それが分かってたんだぞ。
凪咲に語りかける誰かの声。
すると、もう一人の声が聞こえてきたかのように、心に浮かび上がった。
今日、孤独じゃない人は孤独な人同士で集まれるだけなんだろ。
私もこの仔猫も。孤独じゃないか。
いや、違う。私は違う。
評価されないだけ。大体、猫と人間は違う。
本当にそう思ってる?そうなの?
今私が見捨てれば、この子は死ぬ。
それでいいの?
もういいよ。
心の中で荒々しく呟いて、心境とは真逆にそっと仔猫を掬いあげる。
毛布に包み、抱きしめると、凪咲は全力で家を目指した。
いいよ。飼えないなら、里親を探せばいい。
無理に飼う必要はないだろう。
凪咲の頭から、ビールの存在は消えていた。
家につくと凪咲は、猫の食べそうなものを探した。
仔猫だから肉は食えないかもしれない、と気づいたのは、魚肉ソーセージを取り出したときだ。
要領の悪い自分に心の中で舌打ちをして、牛乳をタッパーに注ぐ。
そして、ヒーターの前に毛布に包んで置いた仔猫の元へ歩み寄った。
猫に皿を差し出すも、食べない。
焦ってネットで調べてみると、どうやら子猫用ミルクというものを哺乳瓶で飲ませなければならないそうだ。
凪咲は迷った。仔猫を置いていくべきだろうか。
家の中で死んでいた、なんてことがあれば拾わなければ良かったかもしれない。
そんな凪咲の頭に、名案が思いついた。
そうだ、動物病院へ行けばいいんだ。
そうすれば、必要なものは全て手に入る。
凪咲は衰弱した仔猫を何故か持っていた百均で売っているレベルのバスケットに入れた。
小さなバスケットだったが、それよりも小さな仔猫はすっぽり収まった。
申し訳程度に入れたカイロと毛布で、体を温めてくれればいいのに。
そう思いつつも、凪咲はアパートの階段を駆け足で降り、白塗りの車へ乗り込んだ。
シートベルトをしてアクセルを踏むと、ハイブリッドカーである車は静かに進みだした。
夜でも開いている動物病院だが、人影はまばらだった。
蛍光灯に照らされて、仔猫が身動ぎをした。
「衰弱していますね。病気の予防の注射と、検査をします。
一時間ほどかかりますので、待合室でお待ちください」
少し眠そうな若い医者に言われ、凪咲は待ったが告げられたのは驚くべき事実。
「感染症などにはかかっていませんね。
ただ、生まれつき目が見えない病気にかかっているようです」
だから、あんなに頼りなさげだったんだ。
凪咲は合点が行き、ふっと息を吐いた。
こうやって、捨てられたのも。そのせいなのかもしれない。
三十代に見えた顔は、笑うと若く見えた。
案外、20代くらいかもしれない。
そして、孤独な女と孤独な仔猫の物語が幕を開けた。 鸞鳥さん(選択なし・13さい)からの相談
とうこう日:2020年12月31日みんなの答え:1件

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いやいやいや! アーヤです!
いやいやいやいや、上手すぎません尊敬します!
私も短編小説書いたことありますけど、比べものにならないくらい上手です!(嫌、私が下手なだけだよ!)
1月11日までですが、これからも良い小説を書いてください! アーヤさん(東京・10さい)からの答え
とうこう日:2021年1月1日
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