どうか気付かないで
志帆side
二年前の冬の夜だった。私たちは高校生最初のクリスマスを二人で過ごしていた。あの日は彼の嫌いな雨だったのに、長いデートに付き合ってくれた。相合傘の下で、イルミネーションを眺め、幸せに包まれていた。
「帰りたくないな…」
そう呟いた私に彼はこう言った。
「俺、次のデートが待ち遠しい!今全部楽しむんじゃなくて長い間ずっと一緒に楽しめるように、ね?」
家まで送る、と言って彼は付いて来てくれた。今までこんなに横断歩道の信号が変わらないでほしいと思ったことはない。いつまでも赤のままいてくれたら…もっと長い間彼といられるのに…。
そう思いながら青になった信号から目を離し、一歩踏み出した時だった。
「危ないっ!!」
この後のことはあまり覚えていない。トラックがいきなり突っ込んできたこと。轢かれそうになった私を、彼が庇うように轢かれたこと。そのまま二人とも救急車で運ばれたこと…。
次の日、意識を失っていた私は目を覚まし、彼が記憶喪失の可能性があること、未だ目が覚めていないことを告げられた。彼が庇ってくれたおかげか、三日もすると、私は退院することができた。冬の長期休みの最後の日まで彼の隣で手を握り、目が覚めることを願っていた。
一ヶ月後、彼は目を覚ました。高校でその知らせを聞き、部活もサボって病院に来た。私が目が覚めて良かった、一ヶ月寝たまんまだったんだよ、泣きながらと伝えた時だった。彼は
「あなたは…誰…です…か?」
と言った。今にも嘘だと叫んでしまいそうで、耐えながら彼女だと言おうとした。彼は彼の家族のことさえも忘れていたようだった。
家族を忘れているのに、彼女だと名乗っていいのだろうか?私の事を思い出さない方が幸せなのではないだろうか?
「あなたを支えるいちばんの友達?みたいな?なんでも聞いて、頼ってね!ちなみに名前は志帆だから!」
「志帆…なんか懐かしい感じがします。あ、慣れるまで、敬語でいいですか?なんか落ち着かなくて。」
と彼は笑いながら言った。いいよ、と答え、用事があると私は病院を走って出て行った。そのまま家まで走り、部屋で泣きじゃくった。本当に覚えていないなんて。私たちの関係がリセットされたなんて。一緒にいるって言ったのに。
彼は間も無くして退院した。家で思い出す作業をしていくらしい。彼の親御さんに、私が彼女であることは言わないでほしいと頼んだ。
彼は冬が好きだと言った。雨はなんだか憂鬱だから嫌いだと言った。そんなことを聞くたびに辛くなってしまう。
高校生最初の冬が過ぎ、春が来た。彼は彼女ができたと言った。耳を疑った。でもおかしなことではない。彼の記憶の中に彼女という存在はいなくて、今彼には守りたいと思う存在がいるのだ。
私以外に。
尚人side
僕の名前は尚人という。らしい。志帆さんに教えてもらった。僕には彼女ができた。今までずっとそばにいてくれた志帆さんにも報告はした。泣きそうな顔をしたように見えたのはきっと僕の見間違いだろう。
そこから何ヶ月もかけて、志帆さんや家族と一緒にあらゆることを覚え、思い出す作業を続けた。彼女も思い出す作業を手伝った。僕の友達関係は分からずとも、これから仲良くなっていけばいいからと言ってくれた。
もうすぐ僕の好きな冬が来る。ホワイトクリスマスになるだろうか。
彼女と一緒にイルミネーションなんか見に行けたらいいな。
彼女にイルミネーションを一緒に見に行きたいと伝えると、快く承諾してくれた。
高校生二回目の冬。一回目の冬の記憶はない。これから思い出を作ればいいと彼女は言ってくれた。12月25日、僕たちは一緒にイルミネーションを見に行った。本当に綺麗だった。イルミネーションを見ている時にふと変な感覚が蘇った。隣にいるのが志帆さんのような気がしたのだ。そんなわけがないのに。
帰り道。家まで送ろうと歩いていた時だ。雪で凍った横断歩道を通る彼女が滑って転びかけた。
「危ないっ!!」
支えた瞬間、
全て思い出した。
俺の彼女は志帆だ。
彼女の家に着いたところで、全て思い出したこと、別れてほしいことを伝えた。彼女は、涙を溜めながら、分かったと言い、お幸せに、と呟いて彼女は帰って行った。
そのままイルミネーションにまた行った。志帆は帰っていないだろうか?
何分も探し回って、かなり遠くで泣きながらイルミネーションを見ている志帆を見つけた。
「志帆!」
いきなり抱きついた俺に驚いた顔をする志帆。
「俺、全部思い出したよ…俺の好きな人…これからも守らせて…。」
俺も志帆も泣きながら、二人でクリスマスを過ごした。
ある冬、これからも二人で長い間過ごしていけますようにと願う二人がいた。二人は本当に幸せだった。 ガリレオレンジさん(福岡・15さい)からの相談
とうこう日:2023年5月13日みんなの答え:6件
二年前の冬の夜だった。私たちは高校生最初のクリスマスを二人で過ごしていた。あの日は彼の嫌いな雨だったのに、長いデートに付き合ってくれた。相合傘の下で、イルミネーションを眺め、幸せに包まれていた。
「帰りたくないな…」
そう呟いた私に彼はこう言った。
「俺、次のデートが待ち遠しい!今全部楽しむんじゃなくて長い間ずっと一緒に楽しめるように、ね?」
家まで送る、と言って彼は付いて来てくれた。今までこんなに横断歩道の信号が変わらないでほしいと思ったことはない。いつまでも赤のままいてくれたら…もっと長い間彼といられるのに…。
そう思いながら青になった信号から目を離し、一歩踏み出した時だった。
「危ないっ!!」
この後のことはあまり覚えていない。トラックがいきなり突っ込んできたこと。轢かれそうになった私を、彼が庇うように轢かれたこと。そのまま二人とも救急車で運ばれたこと…。
次の日、意識を失っていた私は目を覚まし、彼が記憶喪失の可能性があること、未だ目が覚めていないことを告げられた。彼が庇ってくれたおかげか、三日もすると、私は退院することができた。冬の長期休みの最後の日まで彼の隣で手を握り、目が覚めることを願っていた。
一ヶ月後、彼は目を覚ました。高校でその知らせを聞き、部活もサボって病院に来た。私が目が覚めて良かった、一ヶ月寝たまんまだったんだよ、泣きながらと伝えた時だった。彼は
「あなたは…誰…です…か?」
と言った。今にも嘘だと叫んでしまいそうで、耐えながら彼女だと言おうとした。彼は彼の家族のことさえも忘れていたようだった。
家族を忘れているのに、彼女だと名乗っていいのだろうか?私の事を思い出さない方が幸せなのではないだろうか?
「あなたを支えるいちばんの友達?みたいな?なんでも聞いて、頼ってね!ちなみに名前は志帆だから!」
「志帆…なんか懐かしい感じがします。あ、慣れるまで、敬語でいいですか?なんか落ち着かなくて。」
と彼は笑いながら言った。いいよ、と答え、用事があると私は病院を走って出て行った。そのまま家まで走り、部屋で泣きじゃくった。本当に覚えていないなんて。私たちの関係がリセットされたなんて。一緒にいるって言ったのに。
彼は間も無くして退院した。家で思い出す作業をしていくらしい。彼の親御さんに、私が彼女であることは言わないでほしいと頼んだ。
彼は冬が好きだと言った。雨はなんだか憂鬱だから嫌いだと言った。そんなことを聞くたびに辛くなってしまう。
高校生最初の冬が過ぎ、春が来た。彼は彼女ができたと言った。耳を疑った。でもおかしなことではない。彼の記憶の中に彼女という存在はいなくて、今彼には守りたいと思う存在がいるのだ。
私以外に。
尚人side
僕の名前は尚人という。らしい。志帆さんに教えてもらった。僕には彼女ができた。今までずっとそばにいてくれた志帆さんにも報告はした。泣きそうな顔をしたように見えたのはきっと僕の見間違いだろう。
そこから何ヶ月もかけて、志帆さんや家族と一緒にあらゆることを覚え、思い出す作業を続けた。彼女も思い出す作業を手伝った。僕の友達関係は分からずとも、これから仲良くなっていけばいいからと言ってくれた。
もうすぐ僕の好きな冬が来る。ホワイトクリスマスになるだろうか。
彼女と一緒にイルミネーションなんか見に行けたらいいな。
彼女にイルミネーションを一緒に見に行きたいと伝えると、快く承諾してくれた。
高校生二回目の冬。一回目の冬の記憶はない。これから思い出を作ればいいと彼女は言ってくれた。12月25日、僕たちは一緒にイルミネーションを見に行った。本当に綺麗だった。イルミネーションを見ている時にふと変な感覚が蘇った。隣にいるのが志帆さんのような気がしたのだ。そんなわけがないのに。
帰り道。家まで送ろうと歩いていた時だ。雪で凍った横断歩道を通る彼女が滑って転びかけた。
「危ないっ!!」
支えた瞬間、
全て思い出した。
俺の彼女は志帆だ。
彼女の家に着いたところで、全て思い出したこと、別れてほしいことを伝えた。彼女は、涙を溜めながら、分かったと言い、お幸せに、と呟いて彼女は帰って行った。
そのままイルミネーションにまた行った。志帆は帰っていないだろうか?
何分も探し回って、かなり遠くで泣きながらイルミネーションを見ている志帆を見つけた。
「志帆!」
いきなり抱きついた俺に驚いた顔をする志帆。
「俺、全部思い出したよ…俺の好きな人…これからも守らせて…。」
俺も志帆も泣きながら、二人でクリスマスを過ごした。
ある冬、これからも二人で長い間過ごしていけますようにと願う二人がいた。二人は本当に幸せだった。 ガリレオレンジさん(福岡・15さい)からの相談
とうこう日:2023年5月13日みんなの答え:6件
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すご すご 洗車さん(千葉・11さい)からの答え
とうこう日:2023年6月24日 -
良いお話! こんににちは♪にに@です
ほんとにいい話です。
途中,このまま尚人さんが記憶を思い出せないまま終わっちゃうのかなと思ったけど,最後ハッピーエンドでよかったです! にに@さん(埼玉・10さい)からの答え
とうこう日:2023年6月24日 -
いいお話!! こんにちは、@れもねーどです!
本当にすごいです!!
なんか表現が好きです。
すごくいいお話で、感動できました。
いいな〜尊敬します!! @れもねーどさん(その他(海外)・12さい)からの答え
とうこう日:2023年6月23日 -
感動した!すごい! こんにちは遠い国のお姫様です。
あの、一つお聞きしてよろしいですか?
あなた本当に私と同じ15歳ですか?
こんな素晴らしい小説書けるなんて、、、!
すごいですね!
感想
彼氏彼女の愛情の深さに感動しました。
この続きが気になります!!
それでわ、さよーならっ! 遠い国のお姫様さん(選択なし・15さい)からの答え
とうこう日:2023年6月23日 -
すごーい すごい 犬好き小5さん(静岡・10さい)からの答え
とうこう日:2023年6月23日 -
すっご、、、、! ガリレオレンジさん、初めまして(?)、いちごクレープです!
いやー、もー、ほんっとにすごい。どうしたらこんなにすごい話をかけるんでしょう? 私も5月に短編小説送ったけど、採用されなくって……。ま、仕方ないですけどね。多分私の短編小説よりガリレオレンジさんの方が1000倍くらいうまいですし。
こんな素敵な小説、ありがとうございました!!! いちごクレープさん(愛知・11さい)からの答え
とうこう日:2023年6月23日
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