独りな二人
明日こそは。
何度そう考えたかわからない。
明日が今日になるごとに焦って、だけど結局「明日こそは」と言って終わる。
だからもう、“明日こそは”はやめた。
今日こそは、告白する。
「今日こそは、告白する」
そう誓ったのに、彼がいる病院を見ると咄嗟に逃げたくなった。
毎日通った、見慣れた病院。
近くのお花屋さんで買った花を花瓶に飾ると、彼はいつも笑ってくれた。
黄色いマリーゴールドを花瓶に挿して、花言葉は「健康」なんだよと伝えた時はいつもより喜んでくれたことを覚えている。
私が教科書とノートを持ってくると、嫌だなー、なんてぼやきながらも真面目に解説を聞いてくれた。
私が帰る時間になると、あの人は必ず「また明日」と言ってくれた。
毎日お見舞いに行っても、嫌な顔をするどころかとても嬉しそうに笑ってくれた。
だから今日も、笑って迎えてくれると思っていた。
いつもと同じように、花瓶に花を入れるんだと思った。
あの時と同じように、マリーゴールドを花瓶に入れて、マリーゴールドには「変わらぬ愛」という花言葉もあるんだよ、と話すつもりだった。
なのに、彼の病室の扉を開いても、からっぽのベッドと花瓶しかなかった。
何回辺りを見回しても、何回瞬きしても、そこにある光景は変わらなかった。
「篠原さん……?」
振り向くと、よく見る看護師さんがいた。
「あの、病室、どうして……」
途切れ途切れに喋ると、看護師さんは俯いた。
「ええと、今朝、急に病気が悪化して……お昼頃に、息を引き取ったの」
看護師さんが早口でそういう。
今朝になって急に病気が悪化なんて、あやふやでおかしな話だが、受け入れるしかなかった。
パニックになっている自分もいたが、彼が心配をかけないように嘘をついていたのかもな、と冷静に考える自分もいた。
「そうなんですね……ありがとうございます」
そう言うと、看護師さんは軽く会釈をして去っていった。
看護師さんの姿が見えなくなってから、病室のドアを閉める。
「ドアがいつもより重く感じた」なんて比喩もあるけれど、ドアはいつも通り軽かった。
いつものようにベッドに近づき、私は彼のベッドに浅く座った。
こんなの、聞かされてなかった。
むしろ、もうすぐ回復するかも、とまで聞かされていた。
あれは全部、嘘だったのか。
不思議と、ショックは受けなかった。
嘘をついた彼に対する怒りもなかった。
ただ単に、後悔していた。
もう少し勇気があれば。
明日こそ、なんて考えていなければ。
今日も、明日も、花瓶に花を入れるはずだった。
そこまで考えて、今日、マリーゴールドを買ってきたことを思い出す。
マリーゴールドをそっと取り出すと、少しだけ花の匂いがした。
窓辺に移動して、空っぽの花瓶に水を入れる。
茎を少し短く切ってから花瓶にマリーゴールドを入れる。
マリーゴールドは変に萎れて、華やかさは少しもなかった。
そういえば、あの時の黄色いマリーゴールドも、少し萎れていた。
マリーゴールドの花束はボリューム感のあるものになる、と説明されたはずなのに。
なんとなく気になって、「マリーゴールド 花」と検索してみる。
しかし萎れてしまっている原因はなかなか見つからなかった。
そもそも渡す相手もいない花だから、もうどうでもいいのだけれど。
それでもなんとなくスマホをいじっていると、「マリーゴールドの花言葉」という目次を見つけた。
「健康」と「変わらぬ愛」以外になにかあるのかな。
単純に気になって、青い文字の並びを押す。
「信頼」、「生命の輝き」、「可憐な愛情」、「友情」、「真心」……
思った以上にたくさんあるんだなぁ、と大切な人が死んだ病室で呑気に考える。
そのまま花言葉の由来となった神話を流し読みしていたら、ふと指が止まった。
花言葉には、ネガティブな意味合いがあることも多い。
そう思いだすと、急に心臓がどくどくなり出した。
理由もなく慌てながら、花言葉を調べる。
それで、安心できればよかった。
花言葉なんて、所詮後付けだ。
そう頭ではわかっていても、震えが止まらなかった。
私がマリーゴールドを送ったせいで、彼は──?
そんなことあり得ないのに、想像はどんどん膨らんでいった。
マリーゴールドの花言葉は、「孤独」という意味もあるらしい。 美桜(元 都姫)さん(神奈川・13さい)からの相談
とうこう日:2023年10月26日みんなの答え:1件
何度そう考えたかわからない。
明日が今日になるごとに焦って、だけど結局「明日こそは」と言って終わる。
だからもう、“明日こそは”はやめた。
今日こそは、告白する。
「今日こそは、告白する」
そう誓ったのに、彼がいる病院を見ると咄嗟に逃げたくなった。
毎日通った、見慣れた病院。
近くのお花屋さんで買った花を花瓶に飾ると、彼はいつも笑ってくれた。
黄色いマリーゴールドを花瓶に挿して、花言葉は「健康」なんだよと伝えた時はいつもより喜んでくれたことを覚えている。
私が教科書とノートを持ってくると、嫌だなー、なんてぼやきながらも真面目に解説を聞いてくれた。
私が帰る時間になると、あの人は必ず「また明日」と言ってくれた。
毎日お見舞いに行っても、嫌な顔をするどころかとても嬉しそうに笑ってくれた。
だから今日も、笑って迎えてくれると思っていた。
いつもと同じように、花瓶に花を入れるんだと思った。
あの時と同じように、マリーゴールドを花瓶に入れて、マリーゴールドには「変わらぬ愛」という花言葉もあるんだよ、と話すつもりだった。
なのに、彼の病室の扉を開いても、からっぽのベッドと花瓶しかなかった。
何回辺りを見回しても、何回瞬きしても、そこにある光景は変わらなかった。
「篠原さん……?」
振り向くと、よく見る看護師さんがいた。
「あの、病室、どうして……」
途切れ途切れに喋ると、看護師さんは俯いた。
「ええと、今朝、急に病気が悪化して……お昼頃に、息を引き取ったの」
看護師さんが早口でそういう。
今朝になって急に病気が悪化なんて、あやふやでおかしな話だが、受け入れるしかなかった。
パニックになっている自分もいたが、彼が心配をかけないように嘘をついていたのかもな、と冷静に考える自分もいた。
「そうなんですね……ありがとうございます」
そう言うと、看護師さんは軽く会釈をして去っていった。
看護師さんの姿が見えなくなってから、病室のドアを閉める。
「ドアがいつもより重く感じた」なんて比喩もあるけれど、ドアはいつも通り軽かった。
いつものようにベッドに近づき、私は彼のベッドに浅く座った。
こんなの、聞かされてなかった。
むしろ、もうすぐ回復するかも、とまで聞かされていた。
あれは全部、嘘だったのか。
不思議と、ショックは受けなかった。
嘘をついた彼に対する怒りもなかった。
ただ単に、後悔していた。
もう少し勇気があれば。
明日こそ、なんて考えていなければ。
今日も、明日も、花瓶に花を入れるはずだった。
そこまで考えて、今日、マリーゴールドを買ってきたことを思い出す。
マリーゴールドをそっと取り出すと、少しだけ花の匂いがした。
窓辺に移動して、空っぽの花瓶に水を入れる。
茎を少し短く切ってから花瓶にマリーゴールドを入れる。
マリーゴールドは変に萎れて、華やかさは少しもなかった。
そういえば、あの時の黄色いマリーゴールドも、少し萎れていた。
マリーゴールドの花束はボリューム感のあるものになる、と説明されたはずなのに。
なんとなく気になって、「マリーゴールド 花」と検索してみる。
しかし萎れてしまっている原因はなかなか見つからなかった。
そもそも渡す相手もいない花だから、もうどうでもいいのだけれど。
それでもなんとなくスマホをいじっていると、「マリーゴールドの花言葉」という目次を見つけた。
「健康」と「変わらぬ愛」以外になにかあるのかな。
単純に気になって、青い文字の並びを押す。
「信頼」、「生命の輝き」、「可憐な愛情」、「友情」、「真心」……
思った以上にたくさんあるんだなぁ、と大切な人が死んだ病室で呑気に考える。
そのまま花言葉の由来となった神話を流し読みしていたら、ふと指が止まった。
花言葉には、ネガティブな意味合いがあることも多い。
そう思いだすと、急に心臓がどくどくなり出した。
理由もなく慌てながら、花言葉を調べる。
それで、安心できればよかった。
花言葉なんて、所詮後付けだ。
そう頭ではわかっていても、震えが止まらなかった。
私がマリーゴールドを送ったせいで、彼は──?
そんなことあり得ないのに、想像はどんどん膨らんでいった。
マリーゴールドの花言葉は、「孤独」という意味もあるらしい。 美桜(元 都姫)さん(神奈川・13さい)からの相談
とうこう日:2023年10月26日みんなの答え:1件
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何、、、それ こんちゃ☆こーぽーだよ☆返信遅れてすいません☆
そんな裏花言葉で、彼は、、、、?
早く告白してれば良かったのに、、、、
面白かった☆頑張ってください☆応援してます☆ こーぽーさん(大阪・10さい)からの答え
とうこう日:2024年1月8日
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