星になった君へ
「蓮!ごめんね、遅くなっちゃった!」
ガラリ、と、病室の重い扉を開けると、優しい表情の蓮が居た。
その様子に何処か安心しながら、中に入る。
「ううん。来てくれてありがと」
そう言ってふわりと微笑むと、私の手元を見る。
「新しい花買ってきてくれたの?」
「そうなの!花屋の叔母さんが進めてくれたお花で……」
「胡蝶蘭、だね」
「あ、そうそう、それ!相変わらず詳しいね!」
「うん、まあね」
新しい花を花瓶に挿し、蓮の横に座る。
「ありがとう」
「うん」
蓮は心地よさそうに、窓の外を見た。
ハラハラと、雪が降っている。
真っ白で、汚れの無い雪、汚れたものに触れると、溶けてなくなってしまう、儚く脆い雪。
そんな雪を見つめている蓮は、何を考えているのかな。
どこか遠くを見据えている様な、そんな蓮の瞳と、異常なほど白い蓮の肌。
美しくして、今にでもすっと消えてしまいそうで、怖くなった。
「蓮っ」
「ん?」
優しくて、低く、包み込んでくれる様な声音。
「何処にも……行かないでね」
「………」
蓮の余命が過ぎてる事、もう知ってるの。
日に日に蓮が弱っている事だって。
でも、蓮のその微笑みを見ると、蓮が消えちゃうなんて考えられなくて。
でもその儚い横顔を見たら、消えちゃうんだって思っちゃうから。
私は蓮の腰に抱き着いた。
もう離さないって誓いながら。
蓮は私の頭を撫でながら、「ごめん」と呟く。
「俺の余命は一年。分かってると思うけど、その宣告を受けてから一年は過ぎてる。いつ死んでもおかしくないんだ」
__分かってる。そんな事。知ってるよ。
「雪、今日はもう遅いから帰りな。来てくれてありがとう。送ってあげれなくてごめんね」
「うん……」
蓮に明日が来るかなんて、分かんない。
けど、私は一日、一秒でも多く、蓮と居たい。
私にとって、蓮は私の全てなの。
そして、次の日も蓮に会いに来る。
珍しく、蓮は寝ていた。
安らかな蓮の寝顔じゃない、苦し気だった。
「……蓮」
ああ、と思った。
もう蓮とは、一緒に居れないんだね。
人が駄目になる時って、分かるんだ。
「雪」
耳を凝らさないと聞こえない様な、弱々しく掠れた蓮の声がした。
「蓮……?」
「雪、こっちへおいで。」
「蓮……っ」
「ごめんね、毎日来てくれてるのに、俺は何もしてやれなくて。もう分かってると思うけど、俺はもう駄目みたいなんだ。死ぬ前って何だか分かるんだね。ああ、もう駄目だって。でもね、最後まで雪と居られて嬉しいよ、俺。俺は幸せ者だね」
微笑みながら、蓮は言う。
「本当にありがとう。雪。雪が居たから、ここまで生きてこられたんだよ。お返しが出来なくて、本当にごめんね。」
嫌だよ、もうこれで終わりみたいに言わないでよ。
「絶対、次は幸せになろう。二人で。こんな俺だけど、来世も一緒になってくれる?」
蓮のその言葉に、ぶわっと視界がぼやける。
「あ、あ……当たり前、でしょっ」
ポロリ、ポロリと涙が落ちる。
そうだよね、私達に、終わりなんて無いもん。
ずっと、一緒、だもん。
「私は……蓮とだから、幸せになれたのっ……蓮が大好きなのっ!こんな俺なんて、言わないでよ……」
唇を噛んで、涙をこれ以上流させないようにするけど、無理だった。
次から次へと流れる涙。
「雪……泣かないでよ」
そう言って微笑む蓮も、泣いていて。
「雪、愛してるよ。この気持ちだけは死んでも変わらない。雪の幸せだけを願ってる」
「私も……っ大好き、愛してるよ蓮っ」
「……うん。雪には俺の死ぬとこ見ないでほしいなぁ。これ以上辛くならないでほしい。だから。俺からの最後のお願い。今日はもう帰って」
ほんとに、これが最後なんだね。
「でも……っ」
「雪」
嫌だ。でも、蓮の表情は、何と言えばいいのか分からないくらい、淋し気で。
本当に、蓮が望んでるんだって思うと、私は頷くしかなかった。
振り返らずに、蓮の病室を出る。
大丈夫。もう寂しくない。
私と蓮は、ずっと一緒だから。
蓮が亡くなった日、これまでにないくらい星空が綺麗だった。
蓮が、星になったからかな。
蓮が星になって一年。
今日は蓮の命日だ。
蓮のお墓に、胡蝶蘭という花を持ってゆく。
花を挿して手を合わせれば、優しい風が吹いた。
そして、どこからか蓮の声が聞こえてきた様な気がした。
胡蝶蘭が揺れ、香りが鼻を擽る。
胡蝶蘭の花言葉は、「純愛」「あなたを愛しています」
む ぎ .さん(選択なし・12さい)からの相談
とうこう日:2024年1月15日みんなの答え:1件
ガラリ、と、病室の重い扉を開けると、優しい表情の蓮が居た。
その様子に何処か安心しながら、中に入る。
「ううん。来てくれてありがと」
そう言ってふわりと微笑むと、私の手元を見る。
「新しい花買ってきてくれたの?」
「そうなの!花屋の叔母さんが進めてくれたお花で……」
「胡蝶蘭、だね」
「あ、そうそう、それ!相変わらず詳しいね!」
「うん、まあね」
新しい花を花瓶に挿し、蓮の横に座る。
「ありがとう」
「うん」
蓮は心地よさそうに、窓の外を見た。
ハラハラと、雪が降っている。
真っ白で、汚れの無い雪、汚れたものに触れると、溶けてなくなってしまう、儚く脆い雪。
そんな雪を見つめている蓮は、何を考えているのかな。
どこか遠くを見据えている様な、そんな蓮の瞳と、異常なほど白い蓮の肌。
美しくして、今にでもすっと消えてしまいそうで、怖くなった。
「蓮っ」
「ん?」
優しくて、低く、包み込んでくれる様な声音。
「何処にも……行かないでね」
「………」
蓮の余命が過ぎてる事、もう知ってるの。
日に日に蓮が弱っている事だって。
でも、蓮のその微笑みを見ると、蓮が消えちゃうなんて考えられなくて。
でもその儚い横顔を見たら、消えちゃうんだって思っちゃうから。
私は蓮の腰に抱き着いた。
もう離さないって誓いながら。
蓮は私の頭を撫でながら、「ごめん」と呟く。
「俺の余命は一年。分かってると思うけど、その宣告を受けてから一年は過ぎてる。いつ死んでもおかしくないんだ」
__分かってる。そんな事。知ってるよ。
「雪、今日はもう遅いから帰りな。来てくれてありがとう。送ってあげれなくてごめんね」
「うん……」
蓮に明日が来るかなんて、分かんない。
けど、私は一日、一秒でも多く、蓮と居たい。
私にとって、蓮は私の全てなの。
そして、次の日も蓮に会いに来る。
珍しく、蓮は寝ていた。
安らかな蓮の寝顔じゃない、苦し気だった。
「……蓮」
ああ、と思った。
もう蓮とは、一緒に居れないんだね。
人が駄目になる時って、分かるんだ。
「雪」
耳を凝らさないと聞こえない様な、弱々しく掠れた蓮の声がした。
「蓮……?」
「雪、こっちへおいで。」
「蓮……っ」
「ごめんね、毎日来てくれてるのに、俺は何もしてやれなくて。もう分かってると思うけど、俺はもう駄目みたいなんだ。死ぬ前って何だか分かるんだね。ああ、もう駄目だって。でもね、最後まで雪と居られて嬉しいよ、俺。俺は幸せ者だね」
微笑みながら、蓮は言う。
「本当にありがとう。雪。雪が居たから、ここまで生きてこられたんだよ。お返しが出来なくて、本当にごめんね。」
嫌だよ、もうこれで終わりみたいに言わないでよ。
「絶対、次は幸せになろう。二人で。こんな俺だけど、来世も一緒になってくれる?」
蓮のその言葉に、ぶわっと視界がぼやける。
「あ、あ……当たり前、でしょっ」
ポロリ、ポロリと涙が落ちる。
そうだよね、私達に、終わりなんて無いもん。
ずっと、一緒、だもん。
「私は……蓮とだから、幸せになれたのっ……蓮が大好きなのっ!こんな俺なんて、言わないでよ……」
唇を噛んで、涙をこれ以上流させないようにするけど、無理だった。
次から次へと流れる涙。
「雪……泣かないでよ」
そう言って微笑む蓮も、泣いていて。
「雪、愛してるよ。この気持ちだけは死んでも変わらない。雪の幸せだけを願ってる」
「私も……っ大好き、愛してるよ蓮っ」
「……うん。雪には俺の死ぬとこ見ないでほしいなぁ。これ以上辛くならないでほしい。だから。俺からの最後のお願い。今日はもう帰って」
ほんとに、これが最後なんだね。
「でも……っ」
「雪」
嫌だ。でも、蓮の表情は、何と言えばいいのか分からないくらい、淋し気で。
本当に、蓮が望んでるんだって思うと、私は頷くしかなかった。
振り返らずに、蓮の病室を出る。
大丈夫。もう寂しくない。
私と蓮は、ずっと一緒だから。
蓮が亡くなった日、これまでにないくらい星空が綺麗だった。
蓮が、星になったからかな。
蓮が星になって一年。
今日は蓮の命日だ。
蓮のお墓に、胡蝶蘭という花を持ってゆく。
花を挿して手を合わせれば、優しい風が吹いた。
そして、どこからか蓮の声が聞こえてきた様な気がした。
胡蝶蘭が揺れ、香りが鼻を擽る。
胡蝶蘭の花言葉は、「純愛」「あなたを愛しています」
む ぎ .さん(選択なし・12さい)からの相談
とうこう日:2024年1月15日みんなの答え:1件
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感動…! 二人の間のすごく清らかな愛情に、心が洗われました。胡蝶蘭というチョイスもステキ。 天気大好きRITAさん(群馬・15さい)からの答え
とうこう日:2024年3月25日
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