真っ白な世界で
僕は神様だ。
とはいっても、そんな大層なものではなくて。ただ少し人間とは生きてる世界が違うだけの個体だ。
何か特別なことができるわけではないし、人の願いを叶えるなんて出来やしない落ちぼれだ。
僕の住む世界は、どこまでも続いていくただ真っ白いだけの世界。
僕以外には、何もない。生命を感じることのない世界。
そんな世界に、ひとりの少女が迷い込んだ。
少女の身なりはそれはひどいもので、髪は乱雑に結ばれ、体のあちこちには絆創膏が貼ってあり、服は空いた穴を修正した跡がいくつも目立っていた。
僕は、たまらず声をかけた。
「…君。名前は、なんて言うの?」
何十年ぶりかに声を出した。
「…私は、りつっていうの。」
その少女は鈴を鳴らしたかのような声で話した。
「お兄さんはなんていうの?」
「僕は、シンだよ。」
名前なんてないから、とっさに考えた名前だ。
「ねえりつちゃん。君は、どこから来たの?」
「わかんない。気づいたらここにいたの。お兄さんもそうなの?」
「あ、ああ。そうだよ。僕も気づいたらここにいたんだ。」
「じゃあ一緒だね!」
そう言ってほほ笑んだりつの顔から、苦痛の色は一切受けられなかった。
じゃあ、この子の傷はいったい…。
「その、傷はどうしたの」
「これは、私がいけないことしてままを怒らせちゃったから…」
今度は力なくほほ笑んだ。僕は、その様子から、すべてを察した。
「まってて。今治してあげる」
落ちぼれの僕にも唯一できる神様っぽいこと。傷の修復。
心の傷までは修復できないが。
僕が両手に力を込めるとみるみるうちに傷が修復されていった。
「うわぁ!お兄さんすごい!!もしかして魔法使い!?」
「まぁ、そんなところかな…」
「すごい!!ねえ、私とお友達になってくれる?」
僕はその質問に答えることに躊躇した。だって、君と僕の住む世界は違うから。
だから、曖昧にごまかす。
「あははっ…。そう…だね」
「これからよろしくね!お兄ちゃん!!」
そう言ってりつは僕の手を握ってきた。目線が自然とりつの手に向く。
僕の手を握るりつの手が、少し透けていた。
「りつちゃん!!」
「…え?」そういってりつも自分の手を見る。
「手が……透けてる…」
この世界が、不適切な個体を消し飛ばそうとしてる。
「ねえ、私、このままここにいたら消えちゃうの?」
「…うん。」
「…そっか。」
消えると言われたのにしては、あまりにそっけなさすぎる返事に違和感を覚えながらも、僕は話した。
「あのね、ここは、りつちゃんが居た世界とは違う世界なんだ。僕は、本当は神様で、きみは元の世界に帰らないといけないんだよ。」
「……じゃあ、私ここに残るよ。」
「へ?」
思ってもいなかった返事に変な声がでる。
「で、でも、ここにいたら消えちゃうんだよ?りつちゃんがいなくなっちゃうんだよ?」
「別に、私なんていなくたって、お母さん悲しまないもん。」
あまりに深刻なりつの心情に僕は絶句した。
でも、それでも、りつには帰ってもらわなくてはいけない。
「だめだよ。だって、僕が君に生きていてほしいから。君に人間として幸せになってほしい。」
「でも、でも私お兄ちゃんと一緒にいたいもん!」
「だめなんだよ!!!」
つい怒鳴ってしまった。
嗚呼、りつ。泣かないで。
やだよ。
りつが、消えちゃう。
僕に、りつを救う力があったら。
「…じゃあお兄ちゃん。私が戻っても、ずっと守ってくれる?」
「ごめん。僕には力がないから。でも見ることはできるよ。」
「なら大丈夫。お兄ちゃんが見守ってくれてるって思ったら、私、頑張れる。」
りつはそうしてガッツポーズをしてみせる。
ガッツポーズをした左手がもう消えそうだ。
時間がない。
「ごめんね。何にもできなくて」
「泣かないで。大丈夫だよ、きっと。」
「…ごめんありがとう。時間がない。はやく、あの光に向かって走るんだ。」
「うん。」
「これ、お守り。僕は見守ることしか出来ないけど、これがあれば、大丈夫だから。
さあはやく。」
「約束だよ?頑張るって誓う。」
小指を絡ませて誓い合う。
「うん約束」
「ありがとう。また会おうね。シンくん。大好き」
そういってりつは僕にキスをした。
「っ!」
「また!バイバイ!!」
「うんっ。またいつか」
りつは走り出した。
笑顔で。
辛いだろう。怖いだろう。
普段の日々に戻るのは。
それでも、笑顔で走る彼女は、強い。
涙が頬を伝い、そして落ちる。
そこから芽が生える。
育ち、森になる。
此処は、真っ白な混沌から、緑の映える鮮やかな心の森になった。
りつ。
その子は、僕に唯一、光と夢をくれた、
神様。
かんづめさん(選択なし・14さい)からの相談
とうこう日:2020年6月10日みんなの答え:0件
僕は神様だ。
とはいっても、そんな大層なものではなくて。ただ少し人間とは生きてる世界が違うだけの個体だ。
何か特別なことができるわけではないし、人の願いを叶えるなんて出来やしない落ちぼれだ。
僕の住む世界は、どこまでも続いていくただ真っ白いだけの世界。
僕以外には、何もない。生命を感じることのない世界。
そんな世界に、ひとりの少女が迷い込んだ。
少女の身なりはそれはひどいもので、髪は乱雑に結ばれ、体のあちこちには絆創膏が貼ってあり、服は空いた穴を修正した跡がいくつも目立っていた。
僕は、たまらず声をかけた。
「…君。名前は、なんて言うの?」
何十年ぶりかに声を出した。
「…私は、りつっていうの。」
その少女は鈴を鳴らしたかのような声で話した。
「お兄さんはなんていうの?」
「僕は、シンだよ。」
名前なんてないから、とっさに考えた名前だ。
「ねえりつちゃん。君は、どこから来たの?」
「わかんない。気づいたらここにいたの。お兄さんもそうなの?」
「あ、ああ。そうだよ。僕も気づいたらここにいたんだ。」
「じゃあ一緒だね!」
そう言ってほほ笑んだりつの顔から、苦痛の色は一切受けられなかった。
じゃあ、この子の傷はいったい…。
「その、傷はどうしたの」
「これは、私がいけないことしてままを怒らせちゃったから…」
今度は力なくほほ笑んだ。僕は、その様子から、すべてを察した。
「まってて。今治してあげる」
落ちぼれの僕にも唯一できる神様っぽいこと。傷の修復。
心の傷までは修復できないが。
僕が両手に力を込めるとみるみるうちに傷が修復されていった。
「うわぁ!お兄さんすごい!!もしかして魔法使い!?」
「まぁ、そんなところかな…」
「すごい!!ねえ、私とお友達になってくれる?」
僕はその質問に答えることに躊躇した。だって、君と僕の住む世界は違うから。
だから、曖昧にごまかす。
「あははっ…。そう…だね」
「これからよろしくね!お兄ちゃん!!」
そう言ってりつは僕の手を握ってきた。目線が自然とりつの手に向く。
僕の手を握るりつの手が、少し透けていた。
「りつちゃん!!」
「…え?」そういってりつも自分の手を見る。
「手が……透けてる…」
この世界が、不適切な個体を消し飛ばそうとしてる。
「ねえ、私、このままここにいたら消えちゃうの?」
「…うん。」
「…そっか。」
消えると言われたのにしては、あまりにそっけなさすぎる返事に違和感を覚えながらも、僕は話した。
「あのね、ここは、りつちゃんが居た世界とは違う世界なんだ。僕は、本当は神様で、きみは元の世界に帰らないといけないんだよ。」
「……じゃあ、私ここに残るよ。」
「へ?」
思ってもいなかった返事に変な声がでる。
「で、でも、ここにいたら消えちゃうんだよ?りつちゃんがいなくなっちゃうんだよ?」
「別に、私なんていなくたって、お母さん悲しまないもん。」
あまりに深刻なりつの心情に僕は絶句した。
でも、それでも、りつには帰ってもらわなくてはいけない。
「だめだよ。だって、僕が君に生きていてほしいから。君に人間として幸せになってほしい。」
「でも、でも私お兄ちゃんと一緒にいたいもん!」
「だめなんだよ!!!」
つい怒鳴ってしまった。
嗚呼、りつ。泣かないで。
やだよ。
りつが、消えちゃう。
僕に、りつを救う力があったら。
「…じゃあお兄ちゃん。私が戻っても、ずっと守ってくれる?」
「ごめん。僕には力がないから。でも見ることはできるよ。」
「なら大丈夫。お兄ちゃんが見守ってくれてるって思ったら、私、頑張れる。」
りつはそうしてガッツポーズをしてみせる。
ガッツポーズをした左手がもう消えそうだ。
時間がない。
「ごめんね。何にもできなくて」
「泣かないで。大丈夫だよ、きっと。」
「…ごめんありがとう。時間がない。はやく、あの光に向かって走るんだ。」
「うん。」
「これ、お守り。僕は見守ることしか出来ないけど、これがあれば、大丈夫だから。
さあはやく。」
「約束だよ?頑張るって誓う。」
小指を絡ませて誓い合う。
「うん約束」
「ありがとう。また会おうね。シンくん。大好き」
そういってりつは僕にキスをした。
「っ!」
「また!バイバイ!!」
「うんっ。またいつか」
りつは走り出した。
笑顔で。
辛いだろう。怖いだろう。
普段の日々に戻るのは。
それでも、笑顔で走る彼女は、強い。
涙が頬を伝い、そして落ちる。
そこから芽が生える。
育ち、森になる。
此処は、真っ白な混沌から、緑の映える鮮やかな心の森になった。
りつ。
その子は、僕に唯一、光と夢をくれた、
神様。
かんづめさん(選択なし・14さい)からの相談
とうこう日:2020年6月10日みんなの答え:0件
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